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「いじめからは逃げても負けてもいいから生きること」自らも被害者の元芸人の提言

「いじめからは逃げても負けてもいいから生きること」自らも被害者の元芸人の提言の画像1
檜山豊 公式ツイッターより

 「逃げてもいいけど、負けたらあかん」

 これは、お笑いコンビ「ライセンス」の藤原一裕さんが1月21日にいじめをなくす為の取り組みを発表するイベントで、全国から集められた124人の子供たちへ向けて語った言葉だ。

 藤原さんは今でこそ身長180センチの恵まれた体格で、高校時代には空手でインターハイにも出場し、いじめとは無縁のように見えるが、中学1年生の時に同級生からいじめを受けていたという。

 当時、体が小さく148センチしかなかった藤原さんは、別のクラスのヤンキーと呼ばれる生徒たちに、休み時間のどこかで友達のAくんと共に腹を殴られたり、突然後ろからお尻を蹴られるといういじめを受けていた。登校中も、学校へ着かなかったらいいのに、という思いで向かっていたという。

 ある日、同じ時期にいじめられていたAくんはおらず、藤原さんだけがいじめられた時があった。なんとAくんはその時、ほかの生徒と同じようにいじめられている藤原さんを笑いながら見ていた。今となっては、Aくんもいじめられるのが怖くて、自己防衛の為にみんなと同じように蚊帳の外へ出ようとしたのは理解できるが、当時の藤原さんは相当なショックを受け「助けてくれる人はいない」と思ったそうだ。

 いじめられている人へ対して「誰かに相談する」というアドバイスをする人がいるが、いじめられている側からすれば、相談するという行為はかなりハードルが高い。藤原さんもヤンキーからの報復を恐れ、先生に助けを求めることが出来ず、仲が良かった両親へ対しても「あなたの子供は学校でいじめられてますよ」という事実を知り、親が辛い思いをしてしまうのは嫌だという思いやりから、いじめを打ち明けることは出来なかったという。自分が頑張って学校へ行けば大丈夫だという、とても辛い選択をしてしまったのだ。

 そんな藤原さんは中学2年生の時、親の転勤で新潟から奈良へ引っ越すことになり、ようやくいじめから解放された。

 2020年、自身が受けたいじめという経験を踏まえ、子供たちへ向けて絵本という形でメッセージを発信した。絵本のタイトルは「ゲロはいちゃったよ」。内容はタイトル通り、いじめのストレスから嘔吐を繰り返すようになった主人公が、父から厳しくも愛のある言葉を受けて、前向きに悩み始めるというものらしい。

 小中高合わせて12年間の学生生活は子供たちにとってはとても長く感じるものだが、大人になって振り返ると、とても短くて小さい世界であり、学校以外にも世界があるということを知ってほしい。たった1回のいじめ、たった1回の嫌な思いで負けないで、逃げた先で自分の人生を新しいものにしてほしい。冒頭の「逃げてもいいけど、負けたらあかん」という言葉には、そういう思いが詰まっているのだ。

 以前「ジャングルポケット」の斎藤さんに関するコラムで軽く書かせていただいたが、筆者である僕自身も小学生の頃いじめを受けていた。僕は藤原さんとは違い、太っている体型と内向的な性格がいじめの原因であった為に、2回ほど転校したのだが、いじめは無くならなかった。

 僕の場合は成長期で身長が伸びて、肥満児ではなくなったことでいじめから解放された。正確には体格が良くなり、力が強くなったことで、いじめっこたちに反抗できるようになり、いじめられなくなったのだ。他の子どもたちより成長期が早かったことで助かったと言える。しかし、これは稀なことであり、誰にでも出来ることではない。さらに、藤原さんのように親の転勤によって逃げるというのも偶然の産物であり、そう簡単に真似ができることではない。じゃあどうすればいいのか。

 正直わからない。学生時代のいじめから解放される一番確実な方法は「成長する」ことだ。それは体躯の成長ではなく、年齢的な成長で、学校という世界から抜け出すしかない。確実な方法だが、確実に長い時間耐え続けなければならない。だから耐えられない人も多いはず。

 もしいじめに遭っている子供が藤原さんのように両親と仲が良い場合、親に相談するのが一番良い。親へ対する優しさや恥ずかしさを捨てて、相談するのだ。親御さんは必ず力になってくれる。必ずだ。どこにも行きたくなければ家にいればいいし、学校に通いたいなら転校をしたいと言えばいい。とても面倒な手続きがあるのだが、親は喜んでしてくれるだろう。あなたが苦しむことが親にとって一番の悪だからだ。人に迷惑をかける大人にならないように心がけて、あとは好きにすればいい。いじめから逃げ続ければいい。

 もし親と仲良くなければ、無料でパソコンを使える図書館などへ行き、相談できる場所を探し、メモをして連絡をとることをお勧めする。子供は親がいなければ生きていけないと思ってしまうだろうが、そうではない。広い世界にはあらゆる可能性に対応する場所があるのだ。もちろん親の許可がなければだめな場合もあるが、本気で子供が相談すれば大抵の大人はのってくれるはずだ。何もかも自分でやらなければならないので面倒な手続きも多いかもしれない。しかし、いじめの辛さよりは圧倒的に楽だと思う。

 藤原さんの言葉はとても勇気が持てる言葉だと思うが、僕の考えとはいささか違っている。僕は「逃げてもいいし、負けてもいい」と思う。負けというのが自分を傷つける行為を指すのであれば絶対に負けてはいけないが、本音を言うことを負けだと感じているなら負けていい。誰かへの思いやりや恥ずかしさ、強がり、プライド、その他もろもろで自分の感情を押さえつけて笑顔でいることは、決して凄い事では無いのだ。

 弱音を吐くことはとても情けなくてカッコ悪くて自分としては負けてしまった気がするかもしれないが、人生を長く見たときに負けることは悪い事じゃないのだ。これは何も僕の独断と偏見で言っているわけではなく、先人たちはこんな言葉を残してくれている。「負けるが勝ち」「負けて勝つ」「逃げるが勝ち」「損して得取れ」「三十六計逃げるに如かず」等々。何ともありがたい教えだ。

 現在いじめられている人にとっては人生を長く見ることは出来ないし、逆に辛いことが長く続くという考えになる人もいるかもしれない。ただ、これだけは言える。辛いことはそこまで長く続かない。その時は人生を終わらせたくなるほど辛い事でも、必ず辛さは終わる。僕は大人になって、いじめより辛い目にあったが、それも永遠には続かず、数年で終わった。さらに、人はそこまで他人に構っている暇はない。いじめの対象になっている貴方が、いじめられていることを考えるより夢中になれることを見つけられれば、いじめっこたちは貴方への興味が薄れ、いつの間にかいじめられなくなっていることだろう。

 藤原さんの言うように、逃げる事は悪い事ではない。子供は親の力を借り、大人は自分や友達や親の力を借りて、逃げ場所を見つけてほしい。

 心の傷は治るかもしれないが、傷跡は消えない。だからこそ、その傷跡と共存する方法を見つけるのだ。傷跡を見るたびに胸が締め付けられるかもしれないが、傷は痛くならない。そして、いつか傷跡があることも日常の風景になっていき、気にならなくなる。

 確実に時間が解決してくれる。だから逃げても負けても良いから生きることだ。

檜山 豊(元お笑いコンビ・ホームチーム)

1996年お笑いコンビ「ホーム・チーム」を結成。NHK『爆笑オンエアバトル』には、ゴールドバトラーに認定された。 また、役者として『人にやさしく』(フジテレビ系)や映画『雨あがる』などに出演。2010年にコンビを解散しその後、 演劇集団「チームギンクラ」を結成。現在は舞台の脚本や番組の企画などのほか、お笑い芸人のネタ見せなども行っている。 また、企業向けセミナーで講師なども務めている。

Twitter:@@hiyama_yutaka

【劇団チーム・ギンクラ】

ひやまゆたか

最終更新:2023/02/02 06:00
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