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『RRR』で“強い女性像”を託されたアーリヤー・バットと、次世代インド女優たちの活躍

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アーリヤー・バット(Getty Images)

アーリヤーが『RRR』のヒロインに抜擢された必然

 インド映画女優のアーリヤー・バットを知っているだろうか?

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 エキストラ的な役を除けば、実質的なデビュー作となる『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!』(2012)が日本でも14年に公開され、近年は大ヒット作『RRR』や、5月に公開される『ブラフマーストラ』、もしくはNetflixの『ダーリンズ』(22)、以前紹介した『ディア・ライフ』(16)などに出演していることから、インド映画輸入率が著しく低い日本においても比較的認知度の高い女優の1人。

 S・S・ラージャマウリが『RRR』のヒロイン・シータ役にアーリヤーをキャスティングした理由は、登場時間が少なくても印象に残る女優であったからだと語っているように、アーリヤーの持つ潜在的魅力にキャラクターを託したのだ。

 『RRR』は、ラージャマウリ監督の前作『バーフバリ』シリーズに比べて、全体的に女性の描き方が弱いという意見もあるが、アーリヤー=強い女性というこれまでのイメージが『RRR』内でメタ的に機能しているからこそ、ラーマとビームの物語に安心して焦点を当てることができたのだろう。

 というのもアーリヤーは、2010年以降、インドにおける強い女性像を背負ってきた女優のひとりでもあるからだ。強く生きる女性を演じられるインドの女優は誰かと考えると、真っ先に思い浮かぶ人物であることは間違いない。

 またそういったイメージの部分だけではなく、アカデミー賞のノミネート候補にも選出された『ガングバイ・カティヤワディ』(22)では、プリヤンカー・チョープラーやラーニー・ムケルジーといったトップクラスの女優も候補に入っていながらもアーリヤーが主役の座を勝ち取り、見事にシリアスなマフィアクイーンを演じきった。その演技には説得力があり、高く評価されるポイントになっている。

 ジェンダーギャップ指数が135位(22年)であり、宗教や社会階層が及ぼす影響で、女性差別が根強い印象もあるインド。国自体が広かったり、極端に保守的な地域もあったりで、十把一絡げに“女性差別の強い国”とは言えないが、負のイメージが付いてしまっていることも間違いない。その中で、Netflixなどは、そういったイメージを変えるための作品を、多少プロパガンダ的ではあるにしても、多く制作してきている傾向にある。それを体現するのがアーリヤーだとも言える。

 アーリヤーが出演する『ダーリンズ』(22)もそうだが、『スケーターガール』(21)や『トリバンガ ~踊れ艶やかに~』(同)、『美に魅せられて』(同)、『おかしな子』(同)、『わたしたちの愛の距離』(同)、『グンジャン・サクセナ -夢にはばたいて-』(20)などなど、アプローチの仕方は違っていても、テーマ性が共通していると感じられるほど、インドでは女性が主体となった作品が多く、今後も制作され続けていく予定だろう。

 Netflixにとって、今後世界とインドをつなぐ存在としてアーリヤーは欠かせない女優のひとりであり、ガル・ガドット主演兼製作のアメリカ映画『ハート・オブ・ストーン』(8月配信予定)でもアーリヤーを起用しているのは、つまりその証明ともいえるのだ。

インド映画女優は新たなフェーズへ、今後のカギは多様性

 そんなアーリヤーも、今ではすっかり中堅だ。

 たとえば、第95回アカデミー賞のプレゼンターを務めたディーピカー・パードゥコーン。ダンスはちょっと苦手でも演技派女優のタープシー・パンヌ。ジェニファー・ハドソンや杏も出演している群像劇『私たちの声』(22)ではインドの女性像を体現したジャクリーン・フェルナンデス(国籍はスリランカ)。ほかにも、クリティ・サノン、パリニーティ・チョープラー、サニヤー・マルホートラなどなど、2010年以降に活躍してきた女優は、これからも出演作が渋滞状態ではあるが、みな中堅女優の位置に立っている。

 『クワンティコ/FBIアカデミーの真実』でインドの女優として初めてアメリカのドラマで主演を務めたプリヤンカー・チョープラーは、アカデミー賞においてインド映画の『RRR』や『エンドロールのつづき』を広めるためにPR活動を行うなどして、アメリカとインドの関係性を急接近させた立役者。プリヤンカーの場合は、もはや中堅を通り越して大御所の風格すら漂っている。

 こうした女優たちが継続的に活躍している一方で、インドでもZ世代の女優たちの躍進が目覚ましくなっている。

 女性の“強さ”の定義、表現も変化しつつある現代。それに合わせて、男性の意識もアップデートされてきている。今まで、ジェンダー差別の問題を描くときは、男性による表面的なわかりやすい暴力や暴言に焦点を当てていたが、近年はインド男性の根底にあるミソジニー(女性蔑視)を描くようになってきたようにも感じられる。そんな中で、Z世代の女優は今後、どう演じていくのだろうか。

 今、インドにおいて人気急上昇中の20代女優といえば、カンナダ、タミル、テルグ、ヒンディーとさまざまな言語の作品にひっぱりだこで「汎インド映画女優」ともいわれている、ラシュミカ・マンダナ(Rashmika Mandanna)が挙げられるだろう。『Goodbye』(22)では、ボリウッドデビュー作でありながら、いきなりレジェンドのアミターブ・バッチャンと共演を果たした。

 そして、2018年に54歳という若さで亡くなった大女優シュリデヴィ・カプールの娘であり、『グンジャン・サクセナ -夢にはばたいて-』(20)や『恐怖のアンソロジー』(同)に出演するジャーンヴィ・カプール(Janhvi Kapoor)も注目株の1人だ。

 そのほかにも、人気女優プージャ・ベディの娘であり、『Freddy』(22)や『Almost Pyaar with DJ Mohabbat』(23)などの演技が高く評価され、次回作『Bade Miyan Chote Miyan』ではアクションスターの両雄タイガー・シュロフ&アンシャイ・クマールと共演するアラヤ・F(Alaya F)。また、インドのスーパースター、シャー・ルク・カーンの娘として知られ、モデルとして活躍するスハナ・カーンのデビューも待ち望まれているなど、今後、Z世代の女優の活躍の場が増えていくことは間違いない。

 また一方で、家系重視で長年保守的で閉鎖的だったり、ミス・ユニバースやミス〇〇といった称号がなければ立ち入れなかったインドの映画業界も、時代の流れによって徐々に変化しつつある。その象徴的ともいえるのが、YouTubeやSNSをきっかけとしてデビューする俳優や歌手も増えてきたことだ。

 例えば、Netflix映画『マスカ ~夢と幸せの味~』(20)に出演し、『Nikamma』(22)で劇場用ボリウッドデビューを果たしたシャーリー・サティア(Shirley Setia)もそのひとりである。

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 シャーリーは、生まれはインドではあるものの、7歳でニュージーランドに居住。ニュージーランドからボリウッドの曲やダンスカバー動画などをアップしていたYouTuber兼歌手であったが、映画製作会社兼音楽レーベルのT-Seriesが主催したタレント発掘企画で注目されたことをきっかけに、『A Gentlemen』(17)の「Disco Disco」で、プレイバックシンガー(映画内の歌唱シーンを吹き替える歌手)デビューを果たし、のちにボリウッド女優になるという夢を叶えた異例の経歴の持ち主である。

 シャーリーのそれはかなりのレアケースに思えるかもしれないが、実はそうでもなくて、ボリウッドだけに限らず、インド映画に出たいとアプローチして、それに見合う才能やカリスマ性があれば、他国からのアプローチでも実現可能な窓口が増えてきているのだ。

 こういった試みはインドの音楽業界ではいち早く取り入れられていて、近年、YouTubeで注目されて歌手になるパターンが急増している。

 ボリウッドのプレイバックシンガーとして人気急上昇中、テレビにラジオにひっぱりだこのヨハニ(Yohani)も、もともとはスリランカのYouTuber。それをきっかけにラッパーとして歌手デビューし、ボリウッド映画『Shiddat』(21)で念願のプレイバックシンガーになったのだ。今後、ヨハニもシャーリーのように女優デビューするかもしれないと思わせるほどのアイドル的存在となっている。

 デジタル化が進み、誰もがネットにアクセスできる環境になったことで、いちいちプロダクションを通さなくてもインディーズとして映像作品を発信することが可能となった今、それに負けないようにボリウッドやコリウッド(タミル語映画の総称)といったメジャーシーンも多様性を求める傾向にある。そのために、外部からどんどん新しい才能を発掘していこうという流れになっているのは時代の必然ともいえる。

 これは業界全体に言えることだが、次のフェーズとして多様性に満ちたZ世代の俳優たちがどう映画界を変えていくのかが楽しみだ。

 

 今回は、あくまでボリウッドなどのメジャーシーンの女優に焦点を当てて紹介してきたが、2000年~現代にかけて、ファラー・カーンやゾーヤー・アクタル、ショナリ・ボースとに代表される女性たちが、インド映画界で映画監督やクリエイターとして活躍したことで、かつての『007』シリーズにおけるボンドガールのように男性主人公の“添え物”としてではなく、女性が主体となる作品も増えた。だからこそ、女優たちも必要とされる場が多くなっていったわけで、今では女性が主人公の作品が当たり前となっているのも、これまでに多くの女優や女性クリエイターたちが時間をかけてその土壌を築いてきたからである。

 また社会派な作品が多い東インドのベンガル語映画・ドラマでも『Crisscross』(18)や『Woman Power』(22)、「Hello! Remember Me?」(22)といったフェミニズム色の強い作品が多く制作されており、ヌストラ・ジャハーン(Nusrat Jahan)やミニ・チャクラボルティー(Mimi Chakraborty)といった、20~30代のローク・サバー下院議員兼女優の活躍も目立ってきている。

 まだまだインドの映画業界は男性優位主義であることは間違いないが、それは程度の差はあれど他国も同様である。ハリウッドも結局のところ、まだまだ男性が権力を握っていることが多い。ジェンダーの課題の多い業界ではあるものの、世界中に新たな風が激しく吹いているのも事実で、インドも例に漏れず、映画はもとよりドラマや音楽も含めて、エンタメ全体が新たな進化を遂げようとしているのだ!!

バフィー吉川(映画ライター・インド映画研究家)

毎週10本以上の新作映画を鑑賞する映画評論家・映画ライター。映画サイト「Buffys Movie & Money!」を運営するほか、ウェブメディアで映画コラム執筆中。NHK『ABUソングフェスティバル』選曲・VTR監修。著書に『発掘!未公開映画研究所』(つむぎ書房/2021年)。

Twitter:@MovieBuffys

Buffys Movie & Money!

ばふぃーよしかわ

最終更新:2023/04/21 14:31
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