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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.737

憎しみ合いながら、母と娘はなぜ同居するのか? 映画『同じ下着を着るふたりの女』

憎しみ合いながら、母と娘はなぜ同居するのか? 映画『同じ下着を着るふたりの女』の画像1
これまでの家族像とは異なる、生々しい母娘の関係性が描かれる

 なんとも意味深なタイトルではないか。同じ下着を共有する女たちとは、どんな関係なのだろうか。韓国映画『同じ下着を着るふたりの女』を観ると、“ふたりの女”とは同居中の母と娘であることがすぐに分かる。しかし、母と娘の関係性は、愛情や憎悪といった言葉で簡単に割り切れるものではないらしい。父と息子とは大きく異なる母娘関係を、本作で長編デビューを果たしたキム・セイン監督は繊細かつ生々しく描き出してみせている。

 子どもは母親を「絶対的保護者」だと思いがちだが、母親も生身のひとりの女性である。絶対的保護者としての役割だけを押し付けることは、母親を苦しめることにもなりかねない。そのことは息子(男性)の立場でも理解できる。

 だが、母と娘の関係性は、同性同士だけに、複雑かつ不可解極まりない。共感と依存が絡み合い、まるで永遠に解くことができない知恵の輪のようだ。生温かい底なし沼と言ったほうがいいのかもしれない。

 本作の主人公となるのは、ソウルのとある団地で暮らす、中年女性のスギョン(ヤン・マルボク)とその娘・イジョン(イム・ジホ)。若くしてシングルマザーになったスギョンは、難産の末にイジョンを産み、小さなヨモギ蒸しのお店を営みながら生活を続けてきた。

 2人の関係はあまりよくない。むしろ険悪だ。母・スギョンは感情の起伏が激しく、イジョンが反抗的な態度を見せると、すぐに叩いてしまう。そんな母への恨みを募らせながら、26歳になるイジョンは同居生活を続けている。

 スーパーマーケットの駐車場で、事件が起きた。いつものように車中でケンカになったスギョンとイジョンだったが、車から飛び出したイジョンを母・スギョンは車で轢いてしまったのだ。「車が勝手に動いた。事故車だ」と主張するスギョンに対し、「母は私のことを殺したいと言っていました」と入院沙汰になったイジョンは証言する。娘が母親を法廷で訴えるという家庭内サスペンスへと物語は発展する。

 韓国のインディペンデント映画である本作の面白さは、そのまま法廷サスペンスへと流れ込むことなく、加害者である母親と被害者となった娘が、その後も同居生活を続けていくところだ。母のことを憎みながらも、なぜ娘は家を出て行かないのか。女同士の関係は、ますます謎に満ちていく。

愛は美しいだけでなく、闇の部分もある

憎しみ合いながら、母と娘はなぜ同居するのか? 映画『同じ下着を着るふたりの女』の画像2
険悪な雰囲気の中、焼肉を黙って食べる母と娘

 母と娘との容易ならざる関係をテーマにした本作を撮り上げたのは、1992年生まれのキム・セイン監督。聖潔大学校演劇映画学部および韓国映画アカデミーで学び、短編映画『Hamster』(16)や『Container』(18)が評価され、卒業制作として完成した本作は、ベルリン国際映画祭に出品されるなど海外でも話題となっている。

 韓国にいるキム・セイン監督に、企画意図や制作背景について語ってもらった。

キム・セイン「人間の関係性に興味があって、短編でいろんな関係性を描いてきました。初めての長編を撮るにあたり、これまでの映画ではあまり描かれることのなかった関係性を撮ってみたいと思ったんです。それが、愛し切れないけれど、憎み切ることもできないという相反する関係性でした。劇中のスギョンとイジョンと同じように、私にとっても母と自分との関係性はもっとも身近で重要なテーマでもあったんです。家族だから一緒に暮らせれば幸せかというと、必ずしもそうではありません。でも、否定もできないわけです。愛には美しい部分だけではない、家族だからこそ見せたくない闇の部分もあるんじゃないかと思うんです」

 企画した当初は、母と娘の関係性を気にしているのは自分だけではないのか、他の人は特に意識はしていないのではないかと悩んだそうだ。『母は娘の人生を支配する』(NHKブックス)などで知られる日本の精神科医・斎藤環の著書、漫画家・田房永子のエッセイコミック『母がしんどい』(KADOKAWA)などを読み、自分だけの悩みではないと勇気づけられたそうだ。

キム・セイン「田房永子さんのコミックや斎藤環氏の著書はハングル版も出版されていて、いろいろと読ませてもらいました。その頃には、韓国でも母娘の関係を扱った小説やエッセイも出版されるようになっていました。最初は母と娘の関係性に触れることはネガティブな行為ではないかと心配だったんですが、田房さんらの著書に励まされたように思います。日本の書籍に影響を受けた私の映画が、日本でも公開され、日本の方たちに観てもらえることをうれしく思っています」

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