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保守派が不買運動の米ビール「バドライト」  本当の理由は“ラテンパワー”?

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 トランスジェンダーの俳優を広告に起用し、保守派の猛反発を招いた米国のビールトップブランド「バドライト」は、今年5月と6月の売り上げが前年を大幅に下回り、月単位でのトップの座を維持できなかった。

 年間でのトップ陥落が現実味を帯びてきたが、取って代わってトップになったのはメキシコのビール「モデロ・エスペシアル」だ。

 数ある米国ビールを抑えての躍進で、移民として人口が増え続けるラテン系住民のパワーを示しただけでなく、米国でのラテン文化の広がりを見せつけた。

「バドライト」を製造・販売するアンハイザー・ブッシュはこの春、「バドライト」の広告にトランスジェンダーの俳優でインフルエンサーのディラン・マルバニーさんを起用した。これに保守派が反発し、「バドライト」の不買運動が全米に広がった。

 不買運動は一時的なものだと思われていたが、影響は長引き「バドライト」の売り上げは5月が23%、6月が28%と大幅な減少となった。銘柄別の販売シェアで「バドライト」は5月が7.3%、66月は6.8%に留まり、5月がシェア8.4%、6月がシェア8.7%だった「モデロ・エスペシアル」に抜かれ、2カ月連続でトップの座を明け渡してしまった。

 性的多様性に反発する保守派は「バドライト」以外にも、LGBTQ向けの商品を積極的に展開したスーパーマーケットなどに抗議行動を広げた。こうしたことも影響し「バドライト」の販売の減少が続いている。

 ただ、「バドライト」の失脚について米国の飲料専門家らは、不買運動だけが要因ではないと見ている。

 市場調査会社バーンステイン・オートノマス社のアルコール飲料アナリスト、ナディーン・サルワット氏はニューヨーク・タイムズの取材に対し、米国の若い世代は、既存のものとは違う種類の飲料を、仮に高価でも買い求める傾向にあり、1982年に販売が開始されライトビールブームを築いた「バドライト」は既に主役ではなくなっていた、と分析している。常に新世代は「親の世代が飲んでいるものを好まない」という。

「モデロ・エスペシアル」の躍進にはこうした背景に加え、ラテン系住民の増加とラテン文化の定着という要因がある。米国でのラテン系住民の全人口に占める割合は、2021年に19%に達した。2000年は13%だった。約20年で6ポイント増という勢いだ。人口増加に伴うようにラテンアメリカからのビールの輸入も増え、メキシコからのビール輸入は2013年に比べて倍増している。ビールの輸入先はメキシコがトップで、2022年は2位のオランダに7倍の差をつけた。

 ラテン系のビールの消費が増えたのは、単純にラテン系住民が増加しているからではないようだ。ニールセンIQによると、この1年間でメキシコビールの販売増加率が高いのはワシントン州やニューヨーク州、オレゴン州などメキシコ国境からは遠い地域だ。いずれも前年より20%以上伸びている。メキシコと国境を接し、ラテン系住民が多いテキサス州やアリゾナ州は5~6%程度の伸びでしかない。

 ラテン系が飲むというだけでなく、ラテン文化を知った米国民が全体としてメキシコビールの消費を増やしていると分析できる。

「モデロ」は1925年にメキシコシティーで製造が始まった。黒ビールやライトビールなどの種類もあるが、「モデロ・エスペシアル」が主力商品。ピルスナータイプのきめ細かいクリーミーな味わいが特徴だ。すっきりタイプの「バドライト」とは全く別なビールであるということは、一口飲んだだけで分かる。

「バドライト」が全米トップの道をひた走っていた中、当のアンハイザー・ブッシュは既に「モデロ」を脅威に感じていた。このため2012年、アンハイザー・ブッシュは「モデロ」を製造するメキシコのグルポ・モデロに買収を仕掛けた。

 ところがオバマ政権下での米司法省は、買収は独占禁止法違反にあたるとして、待ったをかけた。協議の結果、アンハイザー・ブッシュは米国外でグルポ・モデロの親会社になることは認められたが、米国内ではコンステレイション社が「モデロ」の製造・販売を行うとことで解決した。これにより、「モデロ」は米国内でブランドとしての独自性が保たれることになった。 

「モデロ」がトップブランドになったのは、保守派による「バドライト」の不買運動が直接的なきっかけだが、決して「棚からぼた餅」ではなく、長期間のラテン系移民の流れや、飲料を選ぶ消費者志向の変化、そして変わらぬ味を維持したブランドのこだわりがあったからだ。

 米国ではメキシコ原産のテキーラの販売も急増している。2022年のテキーラの売り上げは2003年の4倍近くになった。2022年にはウイスキーを抜いた。2023年中にはスピリッツ部門で最も販売額の大きいウオツカを抜いて部門トップになると予想されている。

 他のラテン系食材の販売も急伸している。ラテン音楽関連の売り上げも新記録を樹立した。ラテンパワーの躍進は止まらない。

言問通(フリージャーナリスト)

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆

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最終更新:2023/07/26 07:00
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