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『水曜日のダウンタウン』インタレスティングたけし騒動の「アンサー回」に見たテレビの誠意

世間を騒がせたあの放送から1年半…インたけこと、インタレスティングたけしが再登場! ほか | TVer

「約一年半ぶりです!また今年も出れて嬉しいです。お楽しみに!!」

 お笑い芸人・インタレスティングたけしが1週間前にX(旧Twitter)に投稿したポストである。その告知の通り、14日放送の『水曜日のダウンタウン』(TBS系)に、相変わらずのインたけが出演した。

 1年半前、『水ダウ』へのインたけの初出演は、ドッキリ企画だった。芸能界の先輩が後輩との1対1の飲み会で「帰れ!」と切り出し、実際に後輩が帰るまでのタイムを競う「説教早帰らせ選手権」という企画で、仕掛け人のチャンス大城に説教を食らう後輩として登場。まったく説教慣れしていないチャンスのしどろもどろな説教と、こちらもしどろもどろになりながら必死に先輩のチャンスをなだめるインたけという構図でスタジオの笑いを呼んだ。

 ほかにこの企画に参加していたのは、岡野陽一と後輩のザ・マミィ酒井貴士、朝日奈央と後輩のプラチナボーイズ・小池成。3者3様の説教はどれも不器用かつ後輩への愛情と気遣いにあふれており、実にハートウォーミングな企画だった。ドッキリを終え、互いに号泣しながら抱き合う岡野と酒井に対し、霜降り明星・粗品の「ドラえもんの最終回か」という名ツッコミも飛び出した。

 だが番組終了後、SNS上で「インたけの吃音を笑いものにしている」「バカにしている」といった論調の騒ぎが起こり、NPO法人・日本吃音協会が『水ダウ』に対して「吃音者に対する差別と偏見を助長する者であり、再発防止と番組制作の基準・指針の見直しを要求」するに至った。

 これに当事者であるインたけはX上に「またテレビジョン出たい!!」とだけポスト。インたけは現在44歳。20年に及ぶ芸歴のほとんどすべてを地下ライブの劇場で過ごしてきた芸人である。それは心からの叫びだったに違いない。

 ドッキリという企画の性質上、仕掛けられる側があわてふためく様を見て笑うという構造は動かしようがない。オンエア上で、チャンスにドッキリを仕掛けられたインたけはあわてふためき、困り果て、どもった。視聴者がその「どもり」を笑ったのか、インたけのリアクションそのものを笑ったのか、その区別は簡単ではない。「人を傷つけない笑い」という言葉が一般化して、もうずいぶん経つ。

「少し時間はかかってしまいましたが、今夜、インたけ騒動に一応のアンサー回です。このあと22:00~『水曜日のダウンタウン』よろしくお願いします。」

 放送直前、『水ダウ』演出のTBS・藤井健太郎氏がXにポストした。何かほかの企画に呼んでお茶を濁すわけではなく、明確に「アンサー回」と称したところに送り手としての覚悟が滲む。

 かくして、この日も信頼の超おもしろ番組『水曜日のダウンタウン』が始まった。

 * * *

 番組は今回の企画冒頭、いわゆる吃音についてのクレーム騒動の経緯から、その後インたけに一切のテレビ仕事が入っていないことを紹介し、インたけのキャリアや現状、同居する母親の思いを伝える。

 その後、インたけともプライベートの付き合いがあるというプレゼンターのナイツ・塙宣之が「このまま消えないために、番組ができることはないかインたけと相談した」として、インたけがドッキリの仕掛け人になる企画が実行されることになる。

 ターゲットはチャンス大城、ドッキリの内容は「インたけ芸人引退ドッキリ」だ。騒動以降テレビに呼ばれていないこと、「芸人辞めろ」というSNS上のメッセージがあることなどを理由に、インたけがチャンスに「芸人を引退する」と告げ、そのリアクションを楽しむというものだった。

 ドッキリが終わり、ネタバラシ。チャンスが「芸人引退を引き留めたい」という気持ちの裏にあった本音を明かし、『水ダウ』は「テレビに出るのにしゃべり方は関係ない」という“検証結果”に至る。VTRの合間にはスタジオゲストの伊集院光による的確かつ熱のこもったフォローアップがあり、番組は結果的に終始フラットな立場を崩さなかった。

『水ダウ』はあくまでテレビ番組であり、その番組が巻き起こした騒動と、その当事者に対するケリはきっちりと付けてきた。チャンスの「そもそもインたけはネタが弱いんですよ」という発言をそのまま使ったのはテレビとしての誠意だったと思うし、その誠意は残酷だったとも思う。

 吃音のあるなしにかかわらず、ほぼすべての芸人を目指す者はテレビに出たいし、出られないままキャリアを終える。人生を終える。それでも続けるか続けないかは本人次第だという、ごく当たり前の現実を目の当たりにした企画だった。

 テレビに出すか出さないかはテレビが決める。芸人を続けるかどうかは、インたけ自身が決める。何を見て笑うかは、視聴者が自分の目で見て考えて決めろ。そう言われているような気がした、この夜の『水ダウ』だった。

(文=新越谷ノリヲ)

新越谷ノリヲ(ライター)

東武伊勢崎線新越谷駅周辺をこよなく愛する中年ライター。お笑い、ドラマ、ボクシングなど。現在は23区内在住。

n.shinkoshigaya@gmail.com

最終更新:2024/02/14 23:32
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