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『君が心をくれたから』第9話 もう気持ち悪いところ全部言う

第9話 いつか見る景色のために | TVer

 その昔、あるところにひとりの母親がいました。ある日、幼い息子が火災に巻き込まれてしまい、その母親は火中に飛び込んだのでした。なんとか息子だけは助け出したものの、自身は一酸化炭素中毒で亡くなってしまいます。

 死後、20年がたったころでした。その母親は、大人になった息子が交通事故で瀕死の重傷を負ったことを知ります。もう息子も死んじゃうことが確定していましたが、どうやらその息子の命が助かる可能性があるようです。

 息子の命の代わりに、ほかの誰かの五感を奪うことができれば、息子は明日からも元気に生きていける。そんな奇跡があるらしい。息子に助かってほしい、そして願わくばもう一度息子に会いたい。そう強く願った母親は、同行者とともに“案内人”として現世に舞い降りることにしました。

 事故に遭った息子の横に、かわいい小娘がいました。その小娘は息子のことが好きみたいです。お、これチャンスじゃね? うまくすれば、この女が犠牲になって五感を差し出してくれるかもしれない。

 それでも、自分の口から女に「私のかわいい息子に死んでほしくないので、すみませんけどおまえが五感を失え」と言うのは、ちょっと忍びないというか、あまりにも身勝手な話です。なので、同行者の雰囲気イケおじにそれを言わせて、横で神妙な顔をしていることにしました。

 雰囲気イケおじは雰囲気抜群ですので、女はまんまと五感を差し出すことを了承しました。おー、息子の命が助かった。しかも、息子とお話できるじゃん。なんか直で「私はあなたの母親なのよ」とか言わなければ、匂わせとかは全然OKみたい。もう一度、鍋を囲んで家族団らんしたりもできる。最高。これぞ奇跡だわ。

 あ、そういえばなんか元気になった息子の代わりに五感を失って弱ってく女がいたな。人生棒に振っちゃったな、こいつ。でも私が直接そそのかしたわけじゃないから、罪悪感も別にないしな。まあ、いちおう大人だし口先だけでもフォローしとくか。「希望がどうこう」とか、そんなこと言っときゃ大丈夫だろ。よその子だし。知らんし。

 そんなフジテレビの月9ドラマ『君が心をくれたから』第9話。振り返りましょう。

■そいつ、いい人じゃないよ

 第1話のレビューで、五感を差し出した雨ちゃん(永野芽郁)のキャラクターについて「錦糸町あたりでガルバにスカウトされて、何も考えずに付いていったらピンサロだったけどまあいいやと思って働いてそう」と書きました。彼女がなぜピンサロだったのに「まあいいや」と思って働いているかというと、まるで自分には最初からほかに選択肢がなかったかのように勘違いしているからです。

 何か事情があってお金に詰まっていたのでしょう、雨の錦糸町でスカウトに声をかけられたとき、私にはもうピンサロで働く以外の道はなかったんだ。いつの間にかそう思い込まされて、現状に納得して生きているのです。現実を受け入れるのはしんどいけど、悩むのはもっとしんどいし、スカウトさんはとっても優しくていい人だし。わがまま言ったら嫌われちゃうし、どうせ私なんて誰からも必要とされていないし、人から愛される資格なんかないし。

 普通、ドラマにおいてこういう女性が登場した場合、現状から救い出す方向に物語が展開していくのがパターンです。「そんなことないよ」「これは運命なんかじゃないよ」「よく考えろよ、おまえ騙されてるよ」「もっと自分を大切にしろよ」「愛してるんだよ」みたいなことを言ってくれる男が現れて、手を引いてくれるものです。

 しかし、『君が心をくれたから』の雨ちゃんには、そんな男は現れません。最初から「五感を失う」以外の選択肢はなかったんだと思い込まされて、思い込まされたまま物語が進行していきます。雨ちゃんをそそのかした案内人たちも、五感と引き換えに命を救ってもらった太陽くん(山田裕貴)も、「希望」だとか「幸せ」だとか歯の浮くような美辞麗句を並べて、寄ってたかって泣いている雨ちゃんを安心だけさせようとします。

 なぜなら、この雨ちゃんという女はどれだけストレスがかかっても、ちょっと口車に乗せて安心させてやれば、ストレスも悩みも忘れちゃうチョロい女だからです。「五感を失ったら生きていけない、死にたい」とか言い出すこともありますが、案内人と太陽くんが結託してロウソクをたくさん買ってきて暗い部屋に灯して「きっと治るよ」「科学だって医学だってある」「君のマカロンが食べたい」とか言っておけば、ホラすぐ安心しちゃうんです。

 これが「科学」や「医学」ではどうにもならない「天の奇跡」なる珍妙な現象であることはみんなが知っているはずなのに、面倒くさい女の口をふさぐためなら、平気でこういうお為ごかしを言える人たちなんです。姑息なんだよ。

 ほんとに何を見せられてるんだろうと思うよ。ここのところ、もう見る前から憂うつな気分なんですよね。これから精神的グロ極まるドラマを1時間見せられるんだと、覚悟を決めないと見始められない。

■今回の「気持ち悪い」大賞は……

 毎回、「うわぁ、こういうところ気持ち悪いなぁ」と感じる人物がコロコロ変わるのも、このドラマの特徴です。

 前回の第8話は、雨ちゃんの五感を平気で奪わせていた太陽くんの母親の身勝手さがひどく気持ち悪かったし、その前の第7話は、いい大人なのに「花火職人を目指す高校時代の太陽くん」に執着する雨ちゃんが気持ち悪かった。

 第6話は自分の欲求を満たすために虐待サバイバーの雨ちゃんの目の前に加害者をサプライズ登場させた婆さん(余貴美子)が気持ち悪かったし、第5話では障害者施設で暮らす人たちを見て「あんな不幸な人になりたくない」と思って落ち込む雨ちゃんの差別意識が気持ち悪かった。第4話で雨ちゃんに頼まれたらどこにでも車を出す司さん(白洲迅)も気持ち悪かったよ。

 で、今回の第9話では、実際に雨ちゃんに「五感差し出し交渉」をした案内人・日下さん(斎藤工)が気持ち悪かった。

 この人、生前に自分も雨ちゃんと同じ立場になったことがあるんだそうです。好きな女性のために身代わりになって人生を棒に振りながら、その女性は「画家を目指す」と言って寝たきりになった日下さんを捨てたんだそうです。

 そうして、日下さんは何の希望も見いだせないまま人生を終えたのだと言います。

 えーとね、その話は今じゃなくて、第1話の「五感を差し出しますか?」のときにしてくださいよ。実際、誰かの身代わりになって犠牲を払うと、こういうことになるよ。希望を見いだせない人生になるよ。でも、このままだと太陽くんは死んじゃうんだ。どうする? そういう流れならまだフェアなんですが、そこらへんの説明責任を果たさずに、ただ「どうする?」ですからね。それ以外の選択肢がないと思い込ませているというのは、こういうところです。

 さらに日下さんが気持ち悪かったのは、その画家になった彼女の絵が展示されている美術館を訪れたところです。彼女もすでに亡くなっているのですが、その遺作に自分と彼女が描かれているんですね。日差しを浴びて、手をつなぐ2人の後ろ姿。美しい絵です。その絵のタイトルは「ごめんなさい」。彼女もまた、激しい悔恨を胸に一生を過ごしたことを、日下さんはこのタイトルから知るわけです。それを見て、日下さんはこんなことを言うのです。

「ほんの少しだけ報われた気がします」

 こっわ。この人、自分を捨てた女に対して、ずっと懺悔に苛まれて生きていくことを望んでたんだ。自分が苦しいから、おまえ絶対俺のこと忘れんなよ、ふざけんなよ、そう思って死んでいったんだ。俺のことはいいから誰かとどこかで幸せになってくれなんて、まったく思ってなかったんだ。

「私の人生は、今日この瞬間のためにあったのかもしれない」

 復讐のために人生があったと言っている。最期の最期にこの女、俺に謝ってやんの。ざまぁみろ。そう言っている。そうなってくると、雨ちゃんに奇跡を提案した意味もだいぶ変わってきますけど大丈夫ですかね。誰だか知らない女の子に「おまえも俺と同じ苦しみを味わえ」と言っていたことになるけど。

 それにしても、毎回よくこんなに気持ち悪いパターンを出せるなと逆に感心してしまいます。こんなシナリオ、書いてて心が痛くならないのかな。自己嫌悪に陥ったりしないのかな。

 そんな風に思ってたんですが、そうでもないみたいだなということも今回わかりました。日下さんが画家の彼女の身代わりになって寝たきりになる前、脚本家を目指していたんだそうです。

 このシナリオを書いている人にとって「脚本家」という職業が夢あふれる希望に満ちたステキな商売だというリアルタイムな告白ですよ。今現在、自分はステキなドラマを書いているという自慢ですよ。すげえ、いい根性してるわ。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子です。

最終更新:2024/03/05 11:00
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