日刊サイゾー トップ > エンタメ > ドラマ  > 『天国と地獄』“ジェンダー問題”へ投じた一石

考察ミステリードラマ『天国と地獄』が“ジェンダー問題”に訴えかけるメッセージとは

ドラマ『天国と地獄』
天国と地獄~サイコな2人~』公式サイトより

 これはただのミステリーでも、男女入れ替わりのドタバタコメディでもなく、見る人の心を揺さぶる深い人間愛の物語だった。

 綾瀬はるか高橋一生の怪演ぶりや、白熱する考察合戦が毎週話題を呼んでいた日曜劇場『天国と地獄~サイコな2人~』が3月21日の今夜、ついに最終回を迎える。複雑に張り巡らされた謎と伏線に振り回された日々が終わり、『天国と地獄』ロスに陥る視聴者も多いことだろう。

 正義感が強いが失敗も多い刑事・望月彩子(綾瀬)と、頭脳明晰な連続殺人鬼・日高陽斗(高橋)の魂が入れ替わってしまうことから始まった、多くの謎に満ちた奇妙なこの物語。14日に放送された第9話で、2人は元の体に戻ることに成功し、日高の口から事件の真相が次々と明かされた。語られたのは、生き別れていた双子の兄・東朔也(迫田孝也)との再会、その兄は認知症を患った父の看病をずっと1人でしていたこと、その父を亡くした後、兄自身も癌を患い余命半年と宣告されたこと、兄は貧しく報われなかったその人生と社会への怒りから殺人に手を染め、止めることができなかった日高はその殺人現場の後始末をしていたこと。それは運命に翻弄された末に、地獄へと足を踏み入れてしまった悲しい兄弟の物語だった。

 東の不遇な人生とは対照的に、裕福で恵まれた人生を歩いてきた日高。だが築き上げたすべてを捨てるリスクを背負い、人の道を外れてしまった死にゆく兄のため、共犯の道を選んだ。幼い頃に運命に引き裂かれ遠くかけ離れてしまった互いの人生を、最後に手繰り寄せるかのように寄り添おうとした。複雑に交錯した運命の果てにあったのは悲しい兄弟愛だった。

描かれる多様な愛のかたち…入れ替わりを通して2人は「身体的性別」から解放された?

 振り返って見れば、これまでの『天国と地獄』にはさまざまな泣ける愛の形が描かれていた。借金を抱え「何かと面倒な人だった」父親に振り回されながらも最期まで見捨てることができなかった東の親子愛。彩子の同居人の渡辺陸(柄本佑)の、彩子を支え続け「サンドバッグだから俺は、いつかは破れる運命なのよ」とまで言う献身的な愛。自己を犠牲にして、相手を思いやる愛の形は人の心を打つ。そういった意味では、刑事としての自分の身を危うくするにも関わらず彩子に協力する、八巻英雄(溝端淳平)の彩子へのバディ愛もあった。

 そのなかでも全部の回を通して最も注目したいのは、魂が入れ替わった末に生まれた日高と彩子のジェンダーレスな愛だ。男女入れ替わりの物語は、これまでも数多くあった。それらには男性の体と女性の体にそれぞれが振り回され馴染めない葛藤が描かれていた。だが本作では、コメディ要素的に彩子が男性の下半身事情に振り回されるシーンがあっただけ。日高は化粧やオシャレを楽しみ、女性の体を何の戸惑いもなく受け入れ、同居する陸ともベッドを共にしたり濃厚なキスで骨抜きにしたりしていた。彩子も男性の体になったからといって、言葉遣いや態度を男性に寄せようとはせずに、姿は変われど彩子のままだった。それは、男らしさや女らしさやジェンダーなんて関係ない、大した問題じゃない、というメッセージとも読み取れる。

 そして入れ替わりを経て男でも女でもなくなり、身体的性別から解放された2人の間に生まれた、信頼関係、思いやり、自己犠牲の気持ち……それこそが“究極の愛”なのではないだろうか。第9話のラスト、警察に追い詰められた日高は「捕まるなら、あなたが良かった」「何も2人して地獄に行くことはありません」と彩子をかばい罪を1人で背負おうと、両手を差し出す。彩子は「絶対に、絶対に助けるから」と誓い手錠をかけた。

 このシーンに多くの視聴者が心打たれ「彩子と日高の、入れ替わったからこそお互いを分かり合えている感じが、愛とも友情とも言えない、何というか、魂を分け合ってしまった感じがして。心が震えました」「究極の愛すぎてもうこのシーン永遠に見ていられる」などといった声が数多くSNSに上がっていた。

 愛に男も女もない、それはただ人間と人間との間に生まれるもの、本作が描いたのは今のジェンダーレスな現代社会に合った愛の形なのかもしれない。

 しかし、まだ謎は残されている。最後までどんな展開が待っているのかわからないのが、このドラマだ。果たして彩子は日高を救うことができるのか? 彩子や八巻は罪に問われるのか?疾走し続けてきたこの物語がどこへ着地するのかはまだ見えない。そして今夜、ついにその幕が上がる。

■番組情報 日曜ドラマ『天国と地獄~サイコな2人~』
TBS系/毎週日曜日21時~
出演: 綾瀬はるか、高橋一生、柄本佑、溝端淳平、中村ゆり、迫田孝也、林泰文、野間口徹ほか
脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木 彩
プロデュース:中島啓介音楽:髙見 優
主題歌:手嶌葵「ただいま」(ビクターエンタテインメント)
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tengokutojigoku_tbs/

南沢けい子(ライター)

愛知県名古屋市生まれの食いしん坊ライター。休日はNetflixやAmazonプライムを駆使して邦画や洋画、海外ドラマを観まくるインドア派だが、Netflixオリジナルドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』に影響されて20インチのミニベロを購入。主人公の男の子たちになった気分でサイクリングロードを走るのが最近の楽しみ。

みなみさわけいこ

最終更新:2021/03/21 12:30
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