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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第18回

オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在

ordry000.jpg『キャラ☆キング おいっ!サイコ野郎!!の巻』
ポニーキャニオン

 オードリー旋風が勢いを増している。昨年末の『M-1グランプリ2008』(テレビ朝日)で準優勝を果たした前後から人気に火がつき、今ではテレビで彼らの姿を見ない日はないと言ってもいいほどだ。特に、胸を張って悠々と舞台に現れる強烈キャラの春日俊彰は、その節約家ぶりでも注目を集めている。家財道具一式を拾い物で揃え、パンの耳を主食にするその日常生活の模様は、テレビや雑誌でも頻繁に取り上げられている。

 オードリーの2人がこれほどの人気を博した最大の理由は、何と言っても春日の個性的なキャラにある。一度見たら忘れられない独特の外見と言動で、M-1を契機に全国の視聴者に強烈なインパクトを残した。だが、ここで1つ考えなくてはいけないことがある。キャラ芸人が大勢いるこのご時世に、なぜオードリーの春日はここまで注目されているのだろうか。春日は他のキャラ芸人とどこが違うのだろうか。その問題を突き詰めていくと、「春日」というキャラの仕掛け人である相方の若林正恭の巧妙な戦略が浮かび上がってくる。

 春日のキャラ芸人としての最大の特徴は、他の言葉で置き換えられない、まさに「春日」としか言いようのない特徴を持っている、という点だ。例えば、狩野英孝なら「ホスト」、髭男爵の山田ルイ53世なら「貴族」など、キャラ芸人には通常、何らかの下地となるモチーフが存在しているものだ。だが、春日にはそれがない。テクノカットでピンクのベストという異様な風貌。胸を張って悠然と舞台に現れ、言うことだけは大物気取り。漫才では相方の若林に的外れなツッコミを入れ、決めぜりふは「ウィ」「ヘッ!」「トゥース!」など。他の言葉では表すことのできない、まさに「春日」としか言えないキャラがそこには存在しているのである。

 そもそも、今テレビで活躍している「春日」の正体は、相方の若林が中心となって一から作り上げた人工的なキャラだった。数年前、春日の技術的な未熟さから、自分たちが正統派の漫才を極めることができないと気付いた2人は、春日のキャラを立てる「キャラ漫才」へと芸風の転換を図った。そして、試行錯誤を経て、少しずつ現在の「春日」のキャラを作り上げていったのである。ボケに対してつっこむのではなく、ツッコミそのものがボケているというオードリーの「ズレ漫才」は、こうした過程の中で生まれた。

 昨年のM-1での敗者復活と決勝ファーストラウンド1位という結果は、若林が磨き上げた「春日」というキャラが1つの到達点に達したことを示すものだった。全58組の芸人の中から見事に敗者復活を果たしたオードリーの漫才は、話芸の技術の粋を尽くしたNON STYLEのハイスピード漫才を制して、決勝ファーストラウンドで1位の評価を受けたのである。

 NON STYLEは昨年、「M-1優勝したいんですツアー」と題したライブツアーを敢行するなど、常にM-1優勝を意識しながら1年を過ごしてきた。だが、正統派漫才師への道を一度は挫折しているオードリーには、いい意味でそのような気負いはなかった。オードリーは敗者復活から勝ち上がり、「春日」という最終兵器を持ってM-1決勝の舞台をぶっ壊しに来た。そして、その試みは見事に成功し、優勝こそ逃したものの、彼らはある意味で優勝者よりも人々の記憶に残る準優勝者となったのである。

 DVD『キャラ☆キング おいっ!サイコ野郎!!の巻』は、芸人たちがオリジナルキャラに扮して人気投票で1位を目指すという趣旨の番組『キャラ☆キング』(テレビ朝日)をDVD化したもの。ここでもオードリーは、春日がアメリカかぶれのヒゲ面の父親を演じる「アメリカン親父」というキャラで、第1回、第2回と続けて人気投票1位を獲得している。長年かけて春日というキャラを育ててきた若林にしてみれば、そこにもう1つ新たにキャラを乗せるのはたやすいことなのだろう。若林が世に放った春日というモンスターが、これからどこまでお笑い界で暴れ回ってくれるのか、大いに楽しみなところだ。
(お笑い評論家/ラリー遠田)

●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は2009年11月下旬予定。ご期待ください。

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キャラの強み。

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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは
【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ
【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者
【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略
【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由
【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」
【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃
【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力
【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」
【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児
【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」
【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ
【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」
【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」
【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」
【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」
【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

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最終更新:2013/02/07 13:00
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