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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第24回

「時代が追いついてきた」ケンドーコバヤシがすべらない3つの理由

niketsu.jpg『にけつッ!!』よしもとアール・アンド・シー

 土田晃之は、『アメトーーク』(テレビ朝日)の「サッカー日本代表応援芸人」という企画の中で、同番組の出演芸人たちをサッカー日本代表のメンバーに例えていた。そこでフォワードの玉田圭司に例えられ、「チームの点取り屋」として高い評価を受けていた男こそが、ケンドーコバヤシである。土田のこの解説には共演者も観客も深く納得していた。このことからもわかるように、ケンコバの作る笑いに対する世間の信頼はもはや揺るぎないものとなっている。彼こそは、世にも珍しい「すべらない芸人」なのだ。ケンコバはなぜすべらないのだろうか。その理由は大きく3つに分けられる。

 まず最初に挙げられるのは、彼の中にあるベーシックなお笑い能力の高さだ。とある雑誌のインタビューでも、彼は冗談半分に「笑いを取るのなんて簡単」と豪語していたことがある。実際、ケンコバの芸人としての実力は並々ならぬものがある。『アメトーーク』のような複数の芸人が絡むバラエティ番組で力を発揮するのはもちろん、『人志松本のすべらない話』(フジテレビ)のような番組のエピソードトークで笑いを取るのもお手のもの。それ以外にも、コント、大喜利、漫談など、あらゆるジャンルのお笑い芸を高いレベルでこなす天性の才能を備えている。あまりに身も蓋もない話だが、ケンコバが笑いを取れるのは、まず何よりも彼が面白いからなのだ。

 次に挙げられるのは、「常に堂々としている」ということだ。彼はどんな時でも決してあせらないし、必死にならない。自信満々の態度で悠然とボケを放つ。雑誌などの取材や自身が書いているブログでも、受け手を煙に巻くような異次元的なギャグを連発する。いつも自分のペースを保っているケンコバの立ち振る舞いからは、「モテたい」という欲望や「笑ってほしい」という卑屈さが全く感じられない。彼は自分が面白いと思っていることに揺るぎない自信を持ち、それを真っ直ぐに表現しているだけなのだ。こういうことを理想として胸に秘めている芸人は多いが、それを本当に貫き通している芸人はほとんどいない。そんな彼の態度から器の大きさが感じられるからこそ、人々は安心して笑うことができるのだ。

 そして、最後に挙げたいのは、ケンコバの芸が本質的に「マイナー芸を装ったメジャー芸」である、ということだ。ケンコバはプロレス、マンガ、下ネタなど、万人に通じるとは思えないマニアックな話題を積極的にネタに取り込む。だが、いくら話題がマイナーでも、ケンコバの作る笑いの根底には万人に通じるわかりやすさがある。いわば、話題のパッケージだけでマイナー感を偽装しているのだ。このことによって、「この人の面白さは自分にしかわからない」と多くの人に感じさせることに成功している。この点こそが、ケンコバがすべらない最大の理由だろう。

 DVD『にけつッ!!』は、ケンドーコバヤシと千原ジュニアの2人によるトーク番組をDVD化したもの。互いにその才能を認め合っている2人が、小道具無し、台本無しのフリートークに挑んでいる。ここでは、尊敬する先輩芸人に気を使う、礼儀正しくおとなしいケンコバの意外な一面が見られる。

 ケンコバの堂々とした芸風は、実は昔からほとんど変わっていない。最近になってケンコバ人気に火が付いているということは、時代が彼に追いついてきたということを意味している。見る者をただ笑わせるというお笑いの王道を突き進むケンコバは、これからもますます多くの支持者を得ることだろう。
(お笑い評論家/ラリー遠田)

●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は2009年11月下旬予定。ご期待ください。

にけつッ!! [DVD]

風格。

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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来
【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代
【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中
【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性
【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」
【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在
【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは
【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ
【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者
【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略
【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由
【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」
【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃
【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力
【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」
【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児
【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」
【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ
【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」
【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」
【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」
【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」
【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

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最終更新:2013/02/07 12:58
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