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 >  >   > 萩本欽一 テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」
お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第72回

萩本欽一 テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」

hagimotokin.jpg『欽ちゃんの人生コントだよ!!』実業之日本社

 3月27日、特別番組『悪いのはみんな萩本欽一である』(フジテレビ系)が放送された。これは、BPO(放送倫理・番組向上機構)が発表した「最近のテレビ・バラエティー番組に関する意見」を受けて、フジテレビが「バラエティーとは何か」という問題に正面から向き合った異色の企画。演出を手がけたのは、『誰も知らない』『空気人形』などの映画作品で知られる是枝裕和監督。テレビドキュメンタリー出身の是枝監督は、バラエティーの世界とは無縁の人物。放送局の外部の視点から、バラエティーはなぜ、時に人々から嫌われるのか、ひんしゅくを買うのか、その理由を探っていくという内容だった。

 番組は、芸人・萩本欽一を被告人とする法廷劇の形で進行していった。萩本は、バラエティー史に残る数々の業績を残した偉大なコメディアンではあるが、「いじめ」「素人いじり」「低俗」など、バラエティーが忌み嫌われる要素をテレビの世界に持ち込んだ主犯格とも言える人物である。そんな萩本の歩んだ道のりを振り返りながら、本人や関係者の証言を交えて、バラエティーとは何かということを浮き彫りにしていた。

 萩本は、バラエティーの歴史の中で初めて、「テレビ芸」というものを発見した人物だった。テレビで笑いを取るには、プロの芸は必要ない。本職の芸人が磨き抜かれた芸を見せるよりも、歌手やアイドルといった別ジャンルの人間にコントをやらせたり、素人に質問を投げかけたりした方が、新鮮なリアクションがあって大きな笑いが生まれる。

 演芸の街・浅草で自らの芸を磨き、「コント55号」の一員としてテレビの世界に殴り込みをかけた萩本は、皮肉にもある時期からそのことに気付いてしまった。プロの芸人が、舞台で生身の観客を相手にするときに必要とされる「場の空気を支配する技術」は、テレビのカメラ越しでは悲しいほどに伝わらない。伝わるのは、素人の自然な反応と、それが引き起こすハプニングだけだった。そして、それこそが、笑いを取るには最も手堅くて有効な手段だということが分かってきたのだ。

 その後、萩本は、少しずつテレビという魔物に呑み込まれていく。1976年、ファミリー向けドラマの枠だった午後9時台に新番組『欽ちゃんのどこまでやるの!?』(NETテレビ=現・テレビ朝日系)がスタートした。女性や子どもの視聴者を意識した結果、柔らかい物腰でしゃべる癖がついて、「ダメだよー」といった女々しい調子のオネエ言葉が身についてしまった。萩本は、テレビが求める「みんなの欽ちゃん」のイメージに徐々に縛られ始めたのだ。

 そして、その決定打となったのが、78年に始まった『24時間テレビ「愛は地球を救う」』(日本テレビ系)だった。お笑いの仕事を専門にしていた萩本は、「お世話になったテレビに恩返しをする」という意味で、このチャリティー番組の司会をあえて引き受けたのだ。

 だが、そこで萩本が目にしたのは、純粋な善意から人々が笑顔を振りまく姿だった。それが、萩本の心を揺さぶった。面白いことをやって笑いを取るのとは違う、別の笑いがここにはある。それに気付いた萩本は、3年連続で同番組の司会を引き受けた。そんな彼には、次第に「いい人」というイメージがつきまとい、離れなくなっていく。いつの間にか、若手の頃の暴力的な芸風は影を潜め、萩本はただの善良なお人好しに成り下がってしまったのだ。

 番組の後半、当時のことを振り返って、萩本は苦笑しながらつぶやいた。

「いい人になると、お笑いってやりづらいよね……」

 萩本は、テレビを支配する原理を自らの手で発見して、それを武器にしてバラエティーの世界を席巻した。「テレビ芸」こそがテレビの本質だと信じて、そこに情熱のすべてを注ぎ込んだのだ。だが、いつしか、彼はテレビという魔物に呑み込まれ、退路を絶たれ、お笑い芸人としてのアイデンティティを失っていった。是枝監督は、この番組全体を通じて、そんな萩本の足跡を丁寧にたどっていた。

 萩本が第一線を退いた後にも、彼が作り上げた「テレビ芸」の方法論そのものは、バラエティーの世界に脈々と受け継がれてきた。その意味では、現存するバラエティー番組のほぼすべては、彼の影響下にあると言っても過言ではない。テレビバラエティーに対する功と罪を一身に背負って、「お笑い界の巨人」は静かに証言台を下りていった。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)

お笑いトークラリー特別編
「ラリー遠田×岩崎夏海 ~もしM-1に挑む若手芸人がドラッカーの『マネジメント』を読んだら~」
お笑い評論家・ラリー遠田が、話題沸騰のベストセラー小説「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(ダイヤモンド社)の著者である岩崎夏海さんをゲストに招いて、「お笑い」をテーマに熱いトークを繰り広げます!

【日時】5月4日(祝)
【出演】ラリー遠田
【Guest】岩崎夏海
【会場】ネイキッドロフト
OPEN18:30 / START19:30

●ラリー遠田「おわライター疾走」 <http://owa-writer.com/>
●岩崎夏海「ハックルベリーに会いに行く」 <http://d.hatena.ne.jp/aureliano/>

前売りチケットは3月26日からローソンチケットで販売。(Lコード:36287)
問:tel.03-3205-1556(Naked Loft)

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●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が書籍化されました。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オードリー、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算や「M-1グランプリ」の進化を徹底分析など、盛りだくさんの内容です。手元に置いておくだけで、お笑いを見るのがもっと楽しくなる。そして、お笑い芸人を通して現代が見えてくる。そんな新時代の”お笑い批評”をお楽しみください。
ラリー遠田×担当編集S「お笑いを楽しむための”ツールとしての批評”でありたい」

欽ちゃんの人生コントだよ!!

欽ちゃん……。

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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第71回】アンガールズ  キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い
【第70回】エハラマサヒロ   「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする
【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは
【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」
【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論
【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道
【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」
【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」
【第63回】青木さやか 仕事も家庭も……不器用に体現する「現代女性の映し鏡」
【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」
【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する
【第60回】ハライチ “ツッコミ”を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは?
【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由
【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」
【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」
【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」
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