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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第44回

「場の空気を引き込む力」おぎやはぎが放散し続ける規格外の違和感

『おぎやはぎ BEST LIVE 「JACK POT」』
ポニーキャニオン

 8月17日、バナナマンとおぎやはぎの4人が、音楽ユニット「宇田川フリーコースターズ」として歌手デビューすることが明らかになった。9月9日にエイベックスからミニアルバム「宇田川フリーコースターズ童謡集『みなさんのうた』」が発売される。それに先駆けて、世界26の国と地域での楽曲配信も開始された。

 若手からベテランまで数多くのお笑い芸人がテレビ界を席巻する現在、芸歴10~15年の中堅芸人たちの生き残りを賭けた戦いはますます加熱する一方だ。そんな中で、おぎやはぎの2人は、司会を任される機会も多く、頭一つ抜け出して独自のポジションを確立している感がある。彼らがここまでの地位を築いた最大の勝因は、「空気を読むこと」が求められるバラエティ空間の中で、それとは全く異なる方法論を実践したという点にあった。

 昨今のテレビ界で主流となっているのは、いわゆる「ひな壇番組」に代表されるような、タレントや芸人が多数出演するタイプの番組である。そこでは、司会者の巧みな仕切りのもとで、その場に合った役割をきっちり果たすことが求められている。要するに、ここで行われていることの本質は、空気の読み合いにある。空気を読める人が勝ち残り、空気が読めない人は淘汰されていく。

 だが、そんな戦場に臨むにあたって、おぎやはぎの2人は全く逆の発想をした。そもそも、芸人にとって、空気を読めるようになることは、それ自体が目的ではない。それによって自分たちの存在が認められ、実力が評価され、笑ってもらうことが最終目標のはずだ。

 つまり、自分たちのキャラを効果的に打ち出して笑いを取ることができるならば、必ずしも空気を読む必要はない、ということになる。むしろ、自分が空気を読むよりも、周りに空気を読ませるように仕向けた方がいいのではないか? ここに彼らの独創がある。

 そして、おぎやはぎは、独特のたたずまいとゆるい言動を武器に、人々の興味と関心を誘う方向にどんどん突き進んでいった。これは、恐るべき発想の転換だった。テレビで目立つためには、空気を読むという手もあるし、あえて空気を壊すという手もある。だが、「空気を読ませてしまう」というのはそれらとは別次元の発想だ。いわば彼らは、空気に自分を合わせるのではなく、自分に空気の方を合わせるという作戦に出たのである。

 そして、それは見事に功を奏した。共演者や視聴者のおぎやはぎに対する「こいつらは何者なんだ?」「よくわからないけど気になる」という意識は日増しに高まっていったのだ。両者とも不気味な黒ずくめの衣装とメガネ姿。大げさにボケたりつっこんだりせずに、優しくじゃれ合うスタイルの漫才。お笑いコンビは不仲という定説をくつがえす、コンビ愛をアピールする妙なキャラクター。そんな彼らの我が道を行く芸風は、すべてが規格外で圧倒的な違和感を放っていた。

 おぎやはぎの2人は、いつでも堂々と逆張りをして、いちばんおいしいポジションをちゃっかりかすめ取っていく。そうやって彼らは現在の地位を確立した。周りと違う道を選んでも、それが打算や反抗心からではなく、単なる無邪気さと遊び心から来ているように見えるのも彼らの持ち味である。おぎやはぎが編み出した「逆張り戦略」の有効性は、デビュー以来14年経った今も揺らぐことがない。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)

●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は2009年11月下旬予定。ご期待ください。

おぎやはぎ BEST LIVE 「JACK POT」

なにか?

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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる
【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ
【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末
【第40回】ブラックマヨネーズ  コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」
【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心
【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは
【第37回】島田紳助 “永遠の二番手”を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」
【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは
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【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由
【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」
【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」
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【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在
【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは
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【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者
【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略
【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由
【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」
【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃
【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力
【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」
【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児
【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」
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【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」
【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」
【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」
【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」
【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

最終更新:2013/02/08 12:19
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