日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」
お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第49回

フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」

footballhour00.jpg岩尾と同棲相手・糸矢はハロオタ同士。

 9月27日、フットボールアワーの岩尾望とAV女優の糸矢めいが都内で同棲していることが判明した。岩尾が監督を担当した映画『スイッチ』に糸矢を抜擢したことをきっかけに交際がスタート。一時は破局説も流れたが、順調に交際は続いていた様子。2人が住んでいたのが最近何かとお騒がせの沢尻エリカの実家と同じマンションだったことから、詰めかけた報道陣にたまたま目撃されることになった。

 フットボールアワーの岩尾と言えば、吉本ブサイクランキングでも殿堂入りを果たした筋金入りのブサイクキャラとして知られている。今でも、ブサイク芸人の代名詞として真っ先にその名が挙げられるほどだ。


 だが、実際のところ、フットボールアワーの漫才の中では、岩尾の容姿の悪さをネタにする場面は意外なほど少ない。話の冒頭にツカミとしてその話題を持ってくることはあっても、漫才の軸になっているのはあくまでも岩尾のシュールなボケである。岩尾は、そのインパクト抜群の容姿とは裏腹に、純粋に発想力だけで勝負するタイプの正統派漫才師なのである。

 フットボールアワーの漫才では、岩尾の言葉選びに独特のセンスがあり、予測不能な角度から切れ味鋭いボケが飛び出す。そんな岩尾の発想力を武器にして、彼らはM-1グランプリをはじめとする数々の賞レースで栄冠を勝ち取ってきた。

 ただ、彼らのネタを何気なく眺めているだけでは、そのような発想の奥深さはあまり実感できないかもしれない。それをなかなか気付かせないところに、彼らの巧みな戦略がある。

 ボケ役の岩尾は、言わずと知れたブサイクな顔面を持ち、声質は女々しくしゃべり方もゆったりしている。一方、ツッコミ役の後藤輝基は、見た目もスマートではきはきしたツッコミを得意としている。だが、しゃべっている内容を冷静に分析してみると、岩尾のボケの方が発想がとんがっていて、後藤のツッコミは比較的オーソドックスなのだ。

 つまり、彼らは、見た目やしゃべり方の印象としゃべっている中身がちょうど真逆のコンビなのだ。岩尾は、たどたどしくゆったりした口調で、とんでもなくシュールなボケを放つ。それに対して、後藤が簡潔な言葉で激しいツッコミをいれる。この絶妙なバランスによって、岩尾のボケがさりげなく引き立っているのである。M-1グランプリで松本人志が「いいコンビですよね」と絶賛した彼らのチームワークの秘密はここにある。

 岩尾はかつて、後藤と組む前に「ドレス」というコンビで活動していた。その頃には、今のようなネタではなく、彼のシャープなセンスを前面に押し出したネタを演じていたと記憶している。岩尾は、後藤という最高の相方を得て、ブサイクを隠れみのにして笑いを取るコツをつかんだのである。

 がんがん前に出て簡潔なコメントを残すことが求められる最近のバラエティ番組では、岩尾のゆったりした口調は受け入れられず、結果的にはあまり活躍できない場面も多い。だが、かつてM-1を制した彼の卓越した発想力からは、今後も新しいものが次々に生まれる可能性がある。ブサイクの仮面を脱いだ彼の素顔は、紛れもない一流の漫才職人なのだ。
(お笑い評論家/ラリー遠田)

●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は2009年11月下旬予定。ご期待ください。

イベント告知
・ラリー遠田presents
「第2回お笑いトークラリー」
【日時】10/7(水) OPEN18:30/START19:30
【会場】ロフトプラスワン
【出演】ラリー遠田、業務用菩薩
【Guest】大谷ノブ彦(ダイノジ)
詳細<http://owa-writer.com/2009/08/1072.html>

ドレキグラム’08

コントも絶品

amazon_associate_logo.jpg

●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第48回】ますだおかだ  「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化
【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」
【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」
【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける
【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感
【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる
【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ
【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末
【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」
【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心
【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは
【第37回】島田紳助 “永遠の二番手”を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」
【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは
【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」
【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」
【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由
【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」
【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」
【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」
【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か
【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは
【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が”竜兵会”で体現する「新たなリーダー像」
【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」
【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」
【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由
【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来
【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代
【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中
【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性
【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」
【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在
【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは
【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ
【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者
【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略
【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由
【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」
【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃
【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力
【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」
【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児
【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」
【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ
【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」
【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」
【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」
【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」
【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」



最終更新:2013/02/07 12:51
ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

水原解雇に間に合わなかった週刊誌スクープ

今週の注目記事・1「水原一平“賭博解雇”『疑...…
写真
イチオシ記事

さや香、今年の『M-1』への出場を示唆

 21日、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で「賞レース2本目やっちまった芸人」の完結編が放送された。この企画は、『M-1グランプリ』(同)、『キ...…
写真