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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第80回

高田純次 還暦過ぎても華衰えぬ「日本一の適当男」が歩み続けた孤高の道程

takadaokada.jpg『タカダオカダ 適当ドライブ・
熱海温泉編』(ポニーキャニオン)

 5月28日、高田純次とお笑いコンビ「ますだおかだ」の岡田圭右が、都内で行われた新作DVD『タカダオカダ 適当ドライブ・熱海温泉編』(6月16日発売)の記者発表会に出席した。このDVDは、関西テレビで5月に放送された特別番組に、未公開シーンなどを加えてまとめたもので、2人が熱海で秘宝館に潜入するなど、珍道中を繰り広げる。

 高田は「シリーズ化したら共演したいのは沢尻エリカさん。生尻? 触ってって言われれば触るけどね」といい加減なコメントを連発。自身のDVDについても「買いたい人は買って、買いたくない人は買わなくていい」と適当一筋の高田節を貫いていた。

 高田純次といえば、現在では「日本一の適当男」として、ダンディーなルックスとは裏腹の超いい加減なキャラクターで世間には知られている。常に行き当たりばったりでその場限りの発言を連発して、「適当」という言葉が彼の代名詞になっているほどだ。


 だが、高田に「適当男」というイメージが定着したのは、比較的最近になってからのことである。タレントとしてテレビに出始めの頃には、マイク片手にロケに出て、きっちり笑いを取って場を盛り上げるリポーター役として非凡な才能を発揮していた。その頃には、どちらかといえば「適当・いい加減」というよりも、「破天荒・自由奔放」という印象の方が強かったのだ。

 そんな彼のテレビでのブレイクのきっかけになった番組といえば、『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)だろう。ここで高田は、番組の名物リポーターの一員として、アクの強い素人や有名人を相手にして一歩も引かず、自由に暴れ回って笑いを取り、一気に世間の注目を集めた。中でも、女優の故・清川虹子の自宅に訪問したときに、彼女が大事にしていたダイヤの指輪を口に含んで吐き出した事件などは、今でも伝説として語り継がれている。

 この番組を通して彼は、爆笑を勝ち取るためのリポート術を身につけていったのだろう。その具体的な内容とは、例えば、陽気に振る舞う、とにかくボケの数を多く打つ、自分の言ったことを自分で笑う、というようなことだ。明るい態度でテンションを上げていくことで、共演者を自分のペースに巻き込むことができる。また、間断なくボケ続けていくというのも、編集でどこが使われるかわからないロケだからこそ必要な心構えである。そして、自分の発言で笑ってしまうことで、その前に言った冗談の質や中身を問わず、見る者の警戒心を下げて笑いが生まれやすくなる。このようなテクニックによって、彼は日本一の名リポーターとなった。

 その後の高田は、この方法論を他のバラエティー番組にも応用していった。スタジオでトークをするときにも、クイズの回答者として出演するときにも、立て続けにジョークを連発したりして、場の空気を強引にさらっていくことができたのである。

 高田のこのスタイルの最大の利点は、歳をとってからもそのパワーが落ちない、ということだ。即座にシャープな言葉をひねり出す瞬発力を売りにしているような芸人は、歳をとって反射神経が衰えたときに、全盛期の力を再現できずに苦しむことになってしまう。だが、高田にはそんな心配はない。彼は、天性の明るさを武器に、自分の言った冗談が本当に面白いのかどうかという価値基準そのものを破壊してしまう。いわば、彼は「面白いこと」を言う能力だけに頼らず、自らが「面白い人」になることによって笑いを生んでいるのだ。

 高田のやっていることは、昔からそれほど大きく変わっているわけではない。そんな彼が、近年になって「適当男」のレッテルを貼られているのは、単に彼が年齢を重ねたせいで、実年齢と中身のギャップが大きくなっているからだろう。歳を重ねれば、普通は体力や気力が衰えたり、節度を知って落ち着いたりするはずなのに、そうなっていないのは驚異的だ、というふうに思われているのだろう。

 さらに言えば、下ネタやくだらないことを平気で口にしたりするのも、還暦を過ぎた彼がやると、妙にとぼけた味わいが出てくるようなところがある。老いてなお盛んな「平成の無責任男」に死角はない。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)

タカダオカダ <適当ドライブ・熱海温泉編

適当、バンザイ!

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最終更新:2013/02/08 12:18
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