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アジア・ポップカルチャーNOW!【vol.23】

「ヤクルトとカップヌードルに洗礼?」MOJOKOのユーモラスな世界

Attack on Golden Mountain_s.jpgAttack on Golden Mountain(c)MOJOKO

 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』……子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。

第23回
アーティスト

MOJOKO(モジョコ)


 数年前、”シンガポールの裏原宿”と呼ばれる”ハジ・レーン”という小さな路地にある、地元の若者が経営するオシャレブティックで、フリーペーパー「Kult」 を手にしたときの衝撃。ローカルなのか無国籍なのか判然とせず、うさん臭くて尖っている、なのに愛嬌のあるユーモラスな世界に一瞬で引き込まれた。「シンガポールでこんな”変なこと”をしているクリエイターがいる」と、妙にうれしくなった。

 その頃、ファンククリス・リーたちの「地元の飲み会」で、いつもゆるゆると和んでいるイギリス人、スティーブ・ローラーがいた。そして彼がイラン生まれの香港育ちで、MOJOKO(モジョコ)というアーティスト名でシンガポールをベースに活動し、さらに「Kult」のクリエイティブ・ディレクターでもあると知ったときの2度目の衝撃。だが同時に、いろいろなことが腑に落ちた。

51gEA+iGJNL.jpg『ガンダム30thアニバーサリー
コレクション
機動戦士ガンダム』
(バンダイビジュアル)

 子ども時代を過ごした香港で、MOJOKOはほかの香港人の子どもたちと同様、日本のコミックカルチャーの洗礼をもろに受けて育ったという。その最初の記憶は、テレビで流れる日本のアニメーション。ガンダムやドラえもん、タツノコプロの『ゴールドライタン』や『宇宙の騎士テッカマン』の超ハイパーカラーは、今も鮮明に覚えている。

「僕の人生における最重要品目は、ヤクルトとカップヌードル。それとスーパーマーケットにディスプレイされていた、日本語の商品広告やポスター。意味は全然分からないけど、パッケージやポスターに印刷されているグラフィカルな文字の形に惹かれました。カラフルで生き生きして、子どもの僕にはたまらない刺激だった」

 広告であれ娯楽であれ、日本の「グラフィックに妥協しない姿勢」は、彼の作品作りに大きく影響しているという。

Megadeath02_sm_s.jpgMegadeath02(c)MOJOKO
Trasher_s.jpgTrasher(c)MOJOKO

「特に日本のゲームはすごい。香港の大きなゲームセンターには、カプコンの最新ゲームを宣伝するグラフィックスが店中に飾られていた。僕は、ほとんどの時間をゲームセンターで過ごしていたから、強烈な体験として残っているし、初期のテレビゲームカルチャーや、任天堂のスーパーファミコンには、今でもすごく影響を受けていると感じるんだ」

 MOJOKOの手法として知られる、東西津々浦々の大量のグラフィックや文字のコラージュ。ひとつひとつはてんでバラバラのスタイルや意味を持つものが、作品の上では、不思議な統一感を醸し出す。「みんな違うけど、みんなどこか同じ」ということを視覚的に感じる驚きや楽しさ。それは、多くの国で暮らした経験を持つMOJOKOからのメッセージでもある。”MOJOKO語”は、世界共通の”見ることで通じる”言語なのだ。

CultureFuck_s.jpgCultureFuck(c)MOJOKO
nobodycansaves.jpgNodody can save us(c)MOJOKO

 MOJOKOにとって、アジアで暮らすことは「驚きに満ちあふれたもの」だという。

「古いもの、新しいものに限らず、素晴らしいタイポグラフィやパッケージ、職人の技、建物の装飾などなどが至るところに存在している。シンガポールなんか、一つの標識に、タミル語、マレー語、英語、中国語が書かれているんだよ。みんな、そういうものに普通に囲まれて暮らしているんだ。そんなふうにすさまじくミックスされたカルチャーが、ハイブリッドなアイデアを大量に生み出していく力になるのだと思う」

 プロジェクトを構想するときには、現地のカルチャーや感受性に目を配りながら、かつ国際的な視点を持つことが大切だというMOJOKO。

「そのイメージソースは、香港とシンガポールの広告。多文化、多国籍の人たちが暮らす場所だから、広告も言語の壁を越えた多くの人々に狙いを定めている。つまり、そういうものを日常的に見ている人たちは、視覚的なリテラシーが高いということ。僕は”イメージという言語”を探求したい。そしてグラフィックによって、文化や言語を越えて、僕のアイデアを伝えたいと思っているんだ」

kult.jpgKult magazine

 これからも「Kult」の活動はもちろん、これまでも数多くこなしてきた展覧会のキューレーションも続けていきたいという。

「アーティストとしては、インドやブラジル、日本で展覧会をするのが夢です。インタラクティブ・アートの展示をしてみたい」

 地元のクリエイティブ界でもすっかり”顔”になりながら、そこで収まることなく、飄々と国籍や文化を越えてフィールドを拡げていく。世界中のどこにいても”MOJOKO語”を目にする日は近いかもしれない。
(取材・文=中西多香[ASHU])

Mojoko_portrait.JPG
●スティーブ・ローラー
イラン生まれ。シンガポール・ベースの英国人アーティスト。イタリアのファブリカ、ニューメディア部門での訓練後、商業的、個人的な実験的プロジェクトに多数従事。現在Kult magazineのクリエイティブ・ディレクターであると同時に、現地のアンダーグラウンドな活動に、キュレーター、アーティストとして関わっている。グラフィック&インタラクティブ・デザインのバックグラウンドを持つ彼の最近の作品は、世界中のマスメディアに現れる現代における衝撃的なイメージを反映させたもので、世界中の多くのメディアで紹介されている。
http://www.mojoko.net.
http://www.stevelawler.com

なかにし・たか
アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com >
オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>

ガンダム30thアニバーサリーコレクション 機動戦士ガンダム

『機動戦士ガンダム』劇場3部作の第1弾。

amazon_associate_logo.jpg

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最終更新:2012/04/08 23:18
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