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アジア・ポップカルチャーNOW!【vol.7】

「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能

trylifeinanotherlanguage2.jpgTry Lie another Language(2008)©Ann Xial

 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』……子どもの頃、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火を付けていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。

第7回
アニメーション作家

アン・シャオ(Ann Xiao)

 アン・シャオは、ロンドンをベースに活動する、北京生まれのアニメーション作家だ。世界中のさまざまなアニメーション・フェスティバルにひっぱりだこの彼女の作品は、「建設的な空間と、シュールリアリスティックな夢との遭遇」と評されることが多い。どこの都市でもない、しかし、どこの都市にもあるような見覚えのあるリアルな風景と、ファンタジーなキャラクターが妙にしっくり共存している。

akira.jpg『AKIRA 1』(講談社)

「子どもの頃読んだ『AKIRA』のビジュアルスタイルに憧れて、なんとか近づこうと努力したものです。AKIRAたちが疾走する、ドラマチックな都会のランドスケープの魅力に、今も取り付かれているのかもしれません。ストーリー作りには、村上春樹の小説に影響を受けました。”ちょっと現実離れした設定に、孤独な、でも愛すべきキャラクターが登場する”という展開が好きなんです」

 もちろん、アンは他にも豊かなインスピレーションの素を数多く身につけている。それにしても、「『AKIRA』の街で展開する村上春樹的ストーリー」という組み合せが、中国人である彼女の口から出てくるのは、ちょっとした驚きだ。

 「始まりは、日本のマンガとの出会いです」と、アン。

「マンガは、私の子ども時代の大きな部分を占めていました。今の私のビジュアル感覚や作品のスタイルに影響を与えただけでなく、”マンガ・アーティスト”になることは、当時の私の一番大きな夢でもあり、野心でもありました。『AKIRA』、『ドラえもん』、そして手塚治虫の世界が大好きでした」

mean-street_1s.jpgmean-street_4s.jpgMean Street Visual Design(2009)©Ann Xiao
<クリックすると拡大されます>

 マンガ・アーティストを目指して、地元の雑誌に、せっせとマンガを描いては投稿していたというアン。アニメーション・ディレクターとしての今の活動は、「元の夢からそう遠くはないかな」とも思っている。

 ところで、1980年代生まれのアンが子どもの頃と言えば、中国では、今よりもかなり厳しい情報規制が敷かれていたはずだ。日本のマンガが、そんなに自由に読めたのだろうか…?

 「日本のクリエイターに対して、失礼にあたることなのですが……」と、恐縮しつつ、アンが話してくれたのは、80〜90年代のリアルな中国の文化的状況だった。

「私とマンガの出会いは、正直に言えば、正規のルートではありませんでした。90年代前半の中国には、海賊版しかなかったんです。当時、中国政府は、カルチャーコミュニケーションの対象としてマンガを禁止していたので、海賊版を見るまで、私たちはマンガがどういうものなのか全く知らなかった。でも、一度知ってしまったら、ハマらずにはいられません。高価なもので、アンダーグラウンドなルートでしか入手できませんでしたが、みな血眼になってマンガを追いかけていました」

dreamland01s.jpgostrich_s.jpgThe Locked Dreamland(2004)/The Ostrichman Utopia(2008)©Ann Xiao
<クリックすると拡大されます>

 90年代後半以降には、本物のマンガがちゃんとした本屋さんで堂々と(!?)買えるようになったが、それでも、マンガ・アーティストになりたいアンにとっては、全然量が足りなかった。

「私がラッキーだったのは、90年代後半に初めて行った香港で、『AKIRA』のコミックを手に入れたことです。涙が出るほど高かった……。でも、香港にはいたるところに(海賊版ではない)本物の日本のマンガを売る店があって、私にとってはまるで天国のような場所でした!(笑)」

 アンによれば、80〜90年代の中国の若者は、マンガだけではなく、本や音楽、ソフトウエアまで、彼らにとって必要なものは、全て海賊版に頼るしかなかったという。

「海外のクリエイターにとって、本当に申し訳ないことだと思います。でも、それは、精神的にも、新しい文化に飢えた若い中国人たちを満たしてくれる唯一のものだったんです」

AnnXiao.jpgTry Lie another Language(2008)©Ann Xial

 
 アンは、数年前から、CDR(Chinese Designers’ Region/チャイニーズ・デザイナーズ・リージョン) という、中国人デザイナーのための、交流とコラボレーションを支援する、ネットを中心としたコミュニティのマネジメント活動も行っている。

「アジアのクリエイターたちがつながり、何かを一緒に創造するのをサポートするのは、本当にわくわくします」

 文化に飢えた子ども時代、その後自国を離れて異文化で活動し、さまざまな経験をもつアンに励まされるメンバーは多いだろう。

 プライベートでも、相変わらずコミックを描きためているという。

「まだ到達できていない、コミックに対する子どもの頃の夢を、追い続けているんです」。
(取材・文=中西多香[ASHU])

ann-photoshoot.jpg

アン・シャオ(Ann Xiao)
中国、北京生まれ。2004年、ロンドン芸術大学卒業後、ロンドンでアニメーション・ディレクターとして活動開始。建築家、コミック・アーティストとしてのバックグラウンドが生み出す、シュールでユニークなビデオ作品を発表。MTV、トヨタ、タイガービール、ディスカバリーチャンネルなど、国際的なコマーシャル作品も多く手がける。現在、自身のアニメーションブランドを立ち上げ、アニメやイラストの分野で活動するアジアのクリエイターたちをサポートしている。
<http://www.annxiao.com/>
<www.cdregion.com>
<http://www.cdregion.com/blog/>

なかにし・たか
アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com >
オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>

AKIRA(1)

言わずもがな。

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最終更新:2012/04/08 23:20
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