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「持ち物検査は一切なかった」福島第一原発潜入ジャーナリスト・鈴木智彦の見た景色(後編)

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前編はこちらから

――先ほど、原発内で覚せい剤の注射器が見つかったという話がありましたが、今回鈴木さんが潜入した時も持ち物チェックなどはなかったんですか?

鈴木智彦氏(以下、鈴木) ない、何にもない。オレ自身、ラップトップ(パソコン)と一眼レフカメラを持って行ったし。もし事故が起こったら、その場で発信しようと思ってさ。フクイチの敷地内では携帯電話の回線もつながる。

――作業員の持ち物検査なんかしている余力はなかった、ということでしょうか?

鈴木 通常の原発というのは本当に厳格なセキュリティーでタバコも持ち込めないんだけど、当時のフクイチだけはすべての規則が当てはまらない。拠点となっていたJヴィレッジからのバス乗ってフクイチに向かうんだけど、オレが入った時に、バスの中から外にいる民間の警備員に向かって身分証を見せるということを始めたんだよ。オレがいる間はその身分証に顔写真が入っていなかったんだけど、出た後には顔写真入りになっていったから、どんどん厳しくなっていった。震災直後はチェックは何もなかったそうだけど、時間が経つにつれて東電が徐々に「通常」を取り戻していったんだろうね。

――作業中に危険を感じたことはありましたか?

鈴木 ないない。だって、何も知らされないもん。何かあったとしても、宿泊先である温泉旅館のテレビで知るんだもん。作業員たちは自分たちの持ち場の状況しか知らないし、東電としても作業員にグランドデザインを話す必要はないと考えているんだろうね。情報が漏れることに気を使っているようだったからさ。週刊誌とかに作業員の話が載ったりすると問題になって、「テレビや雑誌のインタビューを受けるな」という指示があったよ。なので、実際に原発の中で作業員をしているより、外で取材したほうがよく分かった。

――鈴木さんは原発に入る前に、造血幹細胞を採取(編註2)しています。その費用は医療関係者の厚意を受けても、10万円という高額な費用をご自身で払っています。作業員のほとんどはそういった施術を受けず作業をしていますね。

鈴木 もちろん彼らも頭のどこかでは「遠い未来に白血病とかになったらイヤだな~」と思っているんだろうし、若い子にも造血幹細胞の話とかもしたんだけど、なかなかみんな行かなくて。考えないようにしてるんだろうね。そもそも、危険性を真剣に考えたら原発では働けないよ。事故が起こって、協力企業もすぐに撤収したところもあったし、辞めた人もいた。「原発で働く=死んでくれ」だから。

――作業員の被曝リスクに関する話というのは、東電側から説明があるんですか?

鈴木 ちょっとはあるけど、「ちゃんと管理するからなんともないですよ」って話。管理というのは数字の話なんだけどね。

――鈴木さんがいたころは作業員に高額な日当が付き、作業員が高級外車を乗り回すようになったそうですね。

鈴木 ただね、東電はいまだに「危険手当」を出していないから。東電がそれを出しちゃうと、フクイチが危険だと認めたことになるわけだから、協力企業が作業員に出していたわけ。でも今や日当は2,000円~3,000円ぐらいにまで下がってきているし、協力会社も経営が苦しくなって今後原発から撤退する企業が増えていくでしょう。

――日立、東芝などプラントメーカーは事故収束に関するアイデアなどを持っているのに、情報共有ができていないことも指摘されていますね。

鈴木 日本のプラントメーカーは、日立、東芝、三菱があるんだけど、これまで三菱はフクイチに入っていなかったのね。去年の年末に三菱がフクイチに入ってきたから、企業間のパワーバランスが崩れて、情報共有もできているんじゃないかな。でも、「冷温停止状態」=「通常状態」になったということで、東電からお金が出ないのね。事故収束にお金を出すべきだと思うんだけどね。

――フクイチだけじゃなく、福島第二原子力発電所の危険性も指摘されていますね。

鈴木 直接行ったわけじゃないんだけど、いまだにオレは福島第二原発が怪しいと思っている。12月の終わりに東芝が3号機に入る予定だったのに、入らなかったんですよ。8月の終わりに4号機に日立が入ったあとで、「4号機が爆発してるんじゃないか」というウワサが広がったの。メディアも事実確認に行ったけど、掴めなかったみたい。現状に関しても、現場のごくごく一部の人しか知らないみたい。第二原発は一見普通に見えるんだけど、炉心周りの業者に聞くと、みんな「怪しい」と口をそろえるわけ。いろんな専門家に聞いてみたけど、可能性は否定できないと言ってた。

――フクイチを目の当たりにし、原発で働いた鈴木さんでさえ「脱原発とは言えない」と書かれたことが驚きでした。

鈴木 この目で見て、ここまで調べて、今のフクイチが「完全にアウトな状態」と分かっているのに、今すぐ「脱原発」って言えないのよ。それだけ原発というものが共同体に組み込まれていて、今の日本から原発を抜くのは相当に難しいし、実際に原発をなくしたら大変なことになる。今はフクイチから帰ってきたから、「基本的には原発はないほうがいいな」と言えるけど、オレみたいな一時的に働いただけの人間でも、あそこで友達もできたし、雇用を生み出しているのを見ると、「原発はいらない」とは言えなくなるんだ。オレも”原発ムラ”の一員になったということなんじゃないのかな。だから、地元の人なんてもっと言えないと思うよ。
(取材・文=小島かほり)

※編註2:血液の細胞(造血幹細胞)を前もって保存しておくことで、放射線被曝などで血液になんらかの障害・症状が出た時に移植する治療法

●すずき・ともひこ
1966年、北海道生まれ。ジャーナリスト、写真家。広告カメラマンを経てヤクザ専門誌「実話時代」編集部に入社。「実話時代BULL」編集長を務めフリーに。以降、暴力団専門ジャーナリストとして取材活動を続けている。近著に『潜入ルポ ヤクザの修羅場』(文春新書)、『ヤクザ1000人に会いました!』(宝島社)など。東日本大震災後の7月から約2カ月間にわたって事故を起こした福島第一原発に作業員として潜入。取材をまとめた『ヤクザと原発~福島第一潜入記~』(文藝春秋)を上梓。

ヤクザと原発 福島第一潜入記

闇深し。

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最終更新:2013/09/09 17:12
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