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日本史愛とラップの関係

ラップと日本史の親和性  KOHEI JAPAN、かく語りき

――自他共に認める日本史フリーク、KOHEI JAPAN。生業はラッパー兼料理人。過去にリリースした作品の宣材写真やアートワークからもわかるように、浮世絵を模したり、和装でしゃれ込んだり。そんなヒップホップ街道を歩む一方で、大山街道への造詣も深く、なによりラッパーとしての懐が深い。「もともと日本史に興味はなかった」と語った彼が、そこに没頭し、楽曲にまでその影響を落とし込むに至った経緯とは――。KOHEI JAPANの歴史を掘り下げる。(「月刊サイゾー」2021年9月号より転載)

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(写真/渡部幸和)

 ヒップホップグループ〈MELLOW YELLOW〉のメンバーとして1990年代から活躍し、誇り高きリリシストとして高く評価されているラッパー、KOHEI JAPAN。実兄であるRHYMESTERのMummy-Dと共に、実は日本のヒップホップ界随一の日本史好きとしても知られる彼は、膨大な読書量を武器に、一般的な歴史マニアとは異なる視点で独自の歴史探究を行っている。メディアに登場するのは久しぶりという彼だが(ちなみに現在、10年以上ぶりとなるニューアルバムを制作中)、歴史に関心を抱いた経緯や、オリジナルな歴史のディグを行うようになった流れを追いながら、最終的にはヒップホップと日本史の深い関係性にまで迫ってみたいと思う。

 なお、今回は解説役として、KOHEI JAPANのメジャーデビュー時の担当ディレクターである株式会社ポニーキャニオンの村多正俊氏(現・経営本部エリアアライアンス部 部長)にも同席していただいた。実は村多氏はKOHEI JAPAN、Mummy-Dと共に結成した「歴史クラブ」の会長を務める人物で、兄弟MCを日本史の世界に引き込んだ張本人でもある。

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KOHEI JAPANの知識欲を突き動かした作品たち【1】『お~い!竜馬』(86年/小学館)

――日本史に興味を持ったのは社会人になってからとのことですが、きっかけから教えてください。

KOHEI JAPAN(以下、KOHEI) 30代になってからかな? 今の嫁と付き合っていたときに、彼女の家にマンガの『お~い!竜馬』【1】があったんです。それを読んだら「おもしれーじゃん!」ってなったのがきっかけ。それから兄貴(Mummy-D)が読んでいた『風雲児たち』【2】を借りたりして、そのあたりから村多さんとも親交が深くなって、歴史の話を聞いたり本を借りたりして、まんまとハマっていった感じです。

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【2】『風雲児たち』(79年/リイド社)

――マンガから入るというのは結構王道だったりするんでしょうか?

村多正俊(以下、村多) 本や小説で歴史の知識を得るのは小難しいイメージですが、マンガであればハードルは一気に低くなりますからね。私も入口はマンガで、学級文庫にあった『学研まんが 日本の歴史』(学研)シリーズを読むところから始まったのですが、読者に媚びない描写は子どもだけでなく、大人も興味を抱きやすいと思います。

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【3】『薩摩義士伝』(01年/リイド社)

KOHEI そういう意味では『風雲児たち』も全然媚びてない描写が面白く感じたんだと思う。『お~い!竜馬』は歴史が脚色されているんだけど、『風雲児たち』は史実に忠実なんですよ。ただ、『風雲児たち』は画風がギャグマンガみたいなタッチなので、まずそれに耐えられるかっていうのが最初の壁。かくいう自分も最初は全然ダメだったので。劇画タッチを選ぶなら『薩摩義士伝』【3】。これも日本史にハマった初期に読んだ作品なんだけど、内容はエグいです。

村多 すぐ人が死にますからね。しかも壮絶な死に方で。

KOHEI 作者の平田弘史先生は(ラッパーの)UZIの作品のジャケットを描いてたり、歴史好きからは超リスペクトされてる先生です。『風雲児たち』も題字だけは平田先生が描いてたりします。

――『薩摩義士伝』はどのような物語なんでしょうか?

KOHEI 江戸時代に起きた「宝暦治水事件」を扱った群像劇で、幕府が薩摩藩に「おめえらちょっと川、治してくんねぇ?」って押しつけて、自腹で治水事業をやる話。もともと木曽川/揖斐川/長良川がしょっちゅう氾濫するための治水事業なんだけど、本来なら幕府がなんとかしなくちゃいけないわけですよ。でも、薩摩藩は幕府からの依頼で断ることもできず。

村多 これは当時の幕府が力を持つ薩摩藩を恐れ、藩の力を削ぐための政治的な思惑で行われた、といわれています。そんな中、薩摩藩の侍たちはろくに食べものも与えられず、真冬でも川の中に入って工事をしなければならない。そして、事あるごとに幕府が工事の邪魔をするんです。この時の恨みが幕末の流れを作ったひとつの要因、といわれた歴史でもあります。

――小説や歴史書と違い、台詞と絵で描かれていることがマンガの醍醐味だと思いますが、どのような部分に惹かれたのでしょうか?

KOHEI 学校の歴史の授業で習う「○○年に××が起きた」ってのは興味ないんですけど、「ほう、日本人は昔こんなことをしてきたのか」ってところに惹かれるんですよ。そうした歴史を少しずつ知り、日本人がどんな暮らしをしてきたかを知るうちに好奇心がどんどん強くなっていく。

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【4】『坂の上の雲』(99年/文春文庫)

 最初は明治維新から入ったんだったかな。実際、多くの人が「明治維新」って言葉を聞いたことがあっても、そこで何が起きたのかはほとんど知らないじゃないですか。坂本龍馬や新撰組にしても、表面的な部分だけじゃなく、掘り下げていくと一つひとつが面白い。それが引き金になって、「戊辰戦争はどんな戦いだったんだ?」「長州が気になってしょうがない」とか、点と点を線にする作業が面白く感じてくるんですよ。それからマンガだけじゃなく司馬遼太郎の時代小説を読むようになり、『坂の上の雲』【4】から日露戦争への興味を持ち、明治以降の日本史も読むようになりました。

――ラッパーで歴史好き、という言葉からは武将や城に関心を持つイメージもあったんですが、そちらは?

KOHEI 幕末や明治維新に絡んでくるから最低限のことは知ってるんだけど、正直興味はないかな。武士の話はいろいろ語られているけど、江戸時代以前の武将って、かなり脚色されてて嘘くさく感じちゃうんですよ。そもそも「日本に武士って何人いたの?」って疑問も生まれて、調べてみたら当時の人口の10%くらいで結構少ない。「学校の授業で学んだ日本史って、その10%の人たちの話だけ?」って感じるようになっちゃって。そこから「当時の民衆は何をして、何を考えていたのか?」っていうほうに興味が湧くようになったんです。

村多 KOHEIさんの日本史に対するアプローチは、生活や風習などの民俗学なんです。つまり、柳田國男的。リリースツアーでいろんな地方を回り、それこそお城にも連れて行ったんですが、無反応でした。逆に民俗学的な知見からは、大山道(大山街道)の魅力を教わりました。

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隙さえあれば歴史小説を読み漁るKOHEI JAPAN。彼のインスタグラム〈koheijapan_〉では、まぶたを蚊に刺された写真や家族愛あふれる写真がアップされる一方で、読書備忘録として無数の歴史本が紹介されている。 (写真/渡部幸和)

――SNSに大山街道を歩く写真をアップしていましたが、なぜ街道に惹かれたのでしょうか?

KOHEI ライブで地方に行くとき、事前に「その土地では何があったのか?」を調べておくと、より楽しめることがわかったんですよ。そんな流れから、自分の身近に大山街道があることに気がついて。大山街道っていうのは、現・国道246号線のもとになった旧道で、気づくまではなんも思わず通ってたけど、「そんな昔から存在してたんだ?」ってところから火が付いちゃって。実際に歩くと今でも狭い道幅でグネグネとした感じが残っている道もあって、基本的に住宅街を通っているんだけど、たまに地蔵があったりする。

村多 そうしたお地蔵さんの裏には、寄進した方の名前や年数が彫られているので、まさに民衆の営みが感じられる点でもあります。

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