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押井守、松尾スズキ、菊地成孔......

第一線で活躍する著名人が語る『わたしが子どもだったころ』

watashikodomo.jpg『わたしが子どもだったころ イチ!』
(ポプラ社)

「5歳上の兄貴は勉強ができたんですけれども、『1+1はなんで2や?』って、聞いたんですよ。そしたら、ものも言わんと殴りましたね」

「いちいち『なんでやろ?』と考えてしまうから、九九も覚えられない。いまでも六の段からあとは言えません」

 これは、NHKの大人気番組『わたしが子どもだったころ』内で謎に包まれた凄腕スナイパー『ゴルゴ13』ことデューク東郷の生みの親、漫画家のさいとう・たかを氏が語った一幕。

 今回紹介する『わたしが子どもだったころ イチ!』(ポプラ社)は、この番組を書籍化したものだ。これまで番組に出演した人の中から13名を厳選(全3巻あり、全39名が登場予定)し、一人ひとりの話を本人の語り口調そのままにまとめている。

 この番組では、学問・スポーツ・音楽・演劇・文学などさまざまな分野の第一線で活躍している人の子ども時代のエピソードや、将来を方向づけた強烈な原体験を本人の語りと再現ドラマで描いてきたのだが、その内容はどれもものすごく濃い。

 本になってもその濃密さは保たれ、ページをめくる度、「えぇっ、そんなことってあるの?」「子どもの時にそんな風に考えてたの?」の連続で、自分はなんと平凡な子どもだったのかと驚かされる。

 たとえば、「大人計画」主宰・松尾スズキ氏は小学3年生のころ、「自分がいましゃべっている言葉も行動も、神様にすべて決定されている」という、大いなる妄想にかられていた。給食の時間、パンを手に取るふりをして牛乳を飲んだりと、四六時中、神様の裏をかいて生活する毎日。

 また、映画監督の押井守氏は大学生のころ、学生運動に参加していた。ある日、父親に「出かけるぞ」と言われ、実家の東京都大田区から山梨県北東部にある大菩薩峠の山小屋に連れて行かれ、そのまま軟禁。

 ジャズの鬼才・菊地成孔氏は、生まれも育ちも千葉県銚子市の歓楽街ど真ん中。両親は食堂を営んでいて、7歳から2年間、「昼の定食」をストリップ小屋の楽屋へ届けていた。そこで働く踊り子に抱きしめられたり、身体を触られたり、口紅を塗りたくられたり。何をされても黙ったまま表情ひとつ変えなかったので、お人形さんのようにかわいがられ……。

 こんな風に、彼らの子どものころの考え方や家族、生まれ育った環境などに関するちょっと変わった話が、次から次へと飛び出してくる。

 それにしても、この本を読むと「あぁ、この人はこうやって育ったから今があるのか」と妙に納得し、不思議なほど惹きつけられてしまう。
  
 本書に出てくる著名人はこのほか、よしもとばなな氏、高橋ジョージ氏、荒俣宏氏、映画美術監督の種田陽平氏、世界最高齢の『ミシュランガイド』三ツ星料理人の小野二郎氏ほか、ともかく濃いエピソードを語る面々ばかり。

 1925~1964年生まれと比較的年齢層が高めで、彼らが生まれた時は日本がまだ戦争中であったり学生運動が盛んであったり、ひどく勝手な大人の「ルール」に従うしかなかったという背景もある。

 その中で自分の強烈な個性を生かし、「勉強ができなくたって、大人にほめられなくたっていい」と前に進み、今に至っている。

 「自分は自分」――。そんな彼らの生き方に、心揺さぶられる。
(文=上浦未来)

わたしが子どもだったころ イチ!

平和な世の中でした。

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最終更新:2013/09/24 17:40
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