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“金づる視聴者”卒業!『おもしろいアニメとつまらないアニメの見分け方』

519AbwsDCtL._SS400_.jpg『「おもしろい」アニメと「つまらない」
アニメの見分け方』
(キネマ旬報社)

 「全米ナンバーワンヒット」というキャッチコピーに何度だまされたことだろうか。小説は出だしの3行を読めばわかる、なんてよく言われるけれども、映画だとそうはいかない。1,800円を払い、2時間、暗い場内で苦痛の時間を過ごすことになる。テレビアニメの場合だと、ヤメ時がわからず、「これから急展開が待っているのかも」と、つまらないアニメを1クール延々と見続ける……なんてことも、ままある。

 ビジュアルはカッコイイけど、ストーリーはつまらない。一見判断しがたいアニメの“おもしろさ”だが、名作には共通した普遍的法則が存在している。『「おもしろい」アニメと「つまらない」アニメの見分け方』(キネマ旬報社)は、脚本家の沼田やすひろ氏が、おもしろいアニメの法則とその構造について言及した本だ。『天空の城ラピュタ』や『トイ・ストーリー』『輪るピングドラム』などのおもしろさを論理的に解説している。その一方、『フラクタル』などにはかなり辛口な評価をしており、同作を監督したヤマカンこと山本寛氏が自身のTwitterで怒りをあらわにしたという、業界で話題沸騰中の本だ。

 では、沼田氏の考える“おもしろさ”とは一体何なのか? アニメの第一印象は「キービジュアル」「画創り」「ミスペンス」「論理骨折がないこと」の4点がポイントになるという。「キービジュアル」「画創り」は魅力的な絵柄や構図、「ミスペンス」はミステリーとサスペンスを合わせた造語で、ストーリーに“危機のある謎”があるか、「論理骨折」はストーリーや世界観に矛盾点があり、論理的に破たんしていることを指す。例えば『フラクタル』でいうと、主人公の父親は“交易の仕事をしている”のに、この世界は“仕事をしなくてもいい”と説明される。解決されない矛盾=論理骨折があり、素直に物語を楽しめなくなってしまうのだ。

 上記4点に加えて、“安心から恐怖へ”“拒絶から受容へ”という感情のゆさぶりを画創りで表現する「リマインダー」の要素や、“対立→葛藤→変化”といったキャラクターの変化を13段階の流れで示す「13フェイズ構造」も、おもしろさを判別する大きな指標となる。この構造に適っていない作品、――例えば『ゲド戦記』のような、理由のない唐突な変化や成長は、視聴者に強い違和感を与え、途端“つまらない”作品となってしまうのだという。なお、同作については、約20ページにわたり“つまらなさ”の構造が語られており、駄作に金銭と時間を浪費した著者の怨念さえ感じられる。

「――アニメの創り方を知らない後進が、『売れるはず』という思い込みのレッテルだけでプロデューサーに創作の機会を与えられ、結果『つまらない』、商業作品でない実験作が、商品として平然と世に出てしまっているのです。正直、そんな作品を観るのはお金と時間のムダです。『おもしろさ』の本質をとらえることのできない商業リマインダー主義のアニメ制作システムに、踊らされているだけです。もう、彼らの『金づる視聴者』でいることをやめませんか」(本文より)

 現在のアニメ・テレビ業界のヒサンな状況をつくっているのは、われわれ視聴者自身であるのかもしれない。
(文=平野遼)

最終更新:2012/04/19 19:00
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