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来日16年、全盲のスーダン人が“見た”日本とは──『わが盲想』(中編)

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前編はこちらから

■日本での日々を支える「聴界」

――アブディンさんを見ていると、目が見えないって全然わからないです。

アブ 実は見えているかもしれないよ(笑)。

――見えているとしたら相当な詐欺師ですが、実際のところアブディンさんは日本語がうますぎですよね。アルバイトもしているんですか?

アブ マッサージや翻訳のアルバイトを時々やったこともありますが、僕は人の何倍も勉強に時間がかかるんですね。教材が読めないから、スキャンしてテキストにしてもらって音声ソフトで聞き取って……となると、すごく時間がかかるので、アルバイトをしていたらたぶん勉強できないと思います。でもラッキーなことに僕は奨学金が途切れたことがなくて、ずっと渡り歩いているんです。かわいそうな盲人の外国人に奨学金をあげなくてどうする、みたいな感じで、そこはやっぱり弱者の武器として共感を抱いてもらってる(笑)。

――確かに、それなら食いっぱぐれなさそうですね。

アブ でも、審査に落ちたこともありますよ。文部科学省の奨学金は大使館推薦と大学推薦があって、日本語が話せることが条件なんですが、最終審査に残ったのが僕と日本語のできない外国人で、当然自分がもらえると思っていたのに落ちたんですよ。日本語が話せることが条件だったのに。結局そのあとに違う奨学金がもらえたんですけど、日本語が話せない外国人はたぶん落ちたら国に帰るしかなかったので、やっぱり捨てる神あれば拾う神ありで、結果としてはよかったのかなと思っています。

――いくら日本語が流ちょうとはいえ、音やにおいの情報だけでの異国暮らしの実態は、どんな感じなんですか? というか、音やにおいだけで、普通に行動できるんですか?

アブ 東京外国語大学1年生の時、寮から御茶ノ水を経由してキャンパスに行く途中にある、シュークリーム屋のにおいを目印にしていました。目印があればあるほど楽なんだよね。家の近所にはガソリンスタンドがあるので、においですぐわかる。においを発する店や、音を発するパチンコ屋があればあるほど、それを目印というか耳印にするんです。

――雨が降るとにおいとか消えると思うんですが、そうなるとどうなるんですか?

アブ 雨が降るとダメ。僕の移動は徒歩が基本だけど、いつもは人にぶつからないのに、雨の日はぶつかるんですよ、本当に。「視界」という言葉がありますが、「聴界」が狭くなるんです。頭から袋をかぶって歩いている感じになって「もしかしたら行き止まりかな?」という感覚がわからなくなる。湿度が上がって空気が濁るから、聴界が悪くなるんです。

――聴界が発達しているというのはわかりました。著書『わが盲想』の中では、声だけで美人かどうかわかると書かれていますが、それは本当ですか?

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