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来日16年、全盲のスーダン人が“見た”日本とは──『わが盲想』(中編)

アブ 使っている素材によると思うのですが、点字本には丸みを帯びた紙や鋭い紙があるんです。鋭い紙は読むときにひっかかるし、痛い。たくさん読まれて、いい案配に潰れていって読みやすくなったものもあるし、表紙がツルツルしていて肌触りがいいとか、大きさがちょうどいいとか、そういうのもある。

 まだ弱視だった子どものころは、インクも活字も黒で太めの字なら読めた。中途半端な色合いの字は読めなかったけど、歴史の教科書は自分で読めたので、ずっと読んでいましたよ。そんなことがあったからか、その歴史の教科書の感触に似た肌触りのものを選ぶようになった。日本に来たばかりの頃は、全部チンプンカンプンだから、どの教科から勉強するかを教科書の手触りで決めていたの(笑)。

 東京外国語大学の入学試験で日本史を選択したこともあって、今でも日本の歴史は大好きです。特に好きな偉人は大久保利通ですね。侍ではなくて政治家として。彼はその時代に合わせて何をするべきかというリアリスティックな考えを持っていた。裏切り者として冷ややかに見る人もいて「西郷隆盛は男だ」とか言うけど、法治国家の視点から見れば、あれは国家への反逆に当たるという捉え方もできなくはないですね。

――熱くなっているところ申し訳ないですが、本題に戻します。その場の空気で相手の機嫌も推し量ったりできると、本に書いてありますが?

アブ そうですね。機嫌が悪いかどうかは、新聞をめくる速度とかでもわかるんですよ。特に自分の父親はライオンのような存在で、機嫌は大事なことだし生死に関わる問題だったから(笑)。

――音や手触りなどの観察力が発達しているのはわかりましたが、アブディンさんは東京外国語大学という日本の中でも外国人が多い特殊な環境にいますよね。相手が名乗る前に、国籍や人種がわかったりするんですか?

アブ よく当てますよ。外国人の話す日本語には、いろいろなアクセントがあるでしょ。例えばインドネシア人は「わたしは」ではなく、「わたすぃは」と言うんです。イタリア人もイタリアのアクセントで「アブディンさんは大学に行きま~したか~」としゃべるから面白いんですよ。中国人は「っ」が言えないから「ちょっと待ってください」ではなく「ちょと待てください」になるし、韓国人は濁点が言えなくて「がっこう(学校)」ではなく「かっこう」になる。結構な確率で当てられますよ。

 ただ、発音はきれいだけど教科書的な日本語をしゃべっているなと思ったら帰国子女だった、ということはありました。ほかにも1時間近く女の人だと思って話を聞いていた人が男の人だったとかね(笑)。
(後編に続く/取材・文=丸山佑介/犯罪ジャーナリスト<http://ameblo.jp/maruyamagonzaresu/>)

最終更新:2013/06/07 17:27
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