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ラジオ批評「逆にラジオ」第28回

『たまむすび』スペシャルウィークに降臨した井上陽水が紡ぎ出す、夏の終わりの白昼夢

tamamusu0830.jpgTBS RADIO『たまむすび』

しゃべりと笑いと音楽があふれる“少数派”メディアの魅力を再発掘! ラジオ好きライターが贈る、必聴ラジオコラム。

 夏の終わりのスペシャルウィーク、真っ昼間のAMラジオに最も不似合いな男が8月28日の『たまむすび』(TBSラジオ 月~金曜13:00~15:30)に降臨した。井上陽水である。彼の歌詞世界のユニークさは今さら言うまでもないが、トークも抜群に面白い。この日の放送は、彼の放つつかみどころのない言葉の数々が周囲を煙に巻くだけ巻いて鮮やかに去ってゆくような、「陽水無双」とでも言うべきものだった。

 そもそも今回の『たまむすび』スペシャルウィークは、同じくTBSの人気ドラマ『半沢直樹』効果に完全に乗っかって「笑われたら笑い返せ たまむすび バカ倍返しウィーク」とうたっており、そのコンセプトで陽水を呼んだという文脈がまずすごい。もちろん、この日の曜日パートナーである博多大吉の「福岡コネクション」あってこそだが、この企画主旨で陽水に声を掛けたスタッフの勇気も素晴らしい。

ラジオで使われる「バカ」という言葉には、一般社会で使われる「バカ」に比べて愛や称賛の気持ちが多分に込められているケースが多く、それは芸術の世界でも同じことが言える。それは「既存の価値観からはみ出している」ことであり、「想定外の角度や切り口を持っている」ことであって、トークの合間からこぼれ落ちてくるそういった意外性のある言葉を愛する懐の深い文化が、ラジオには間違いなくある。そしてこの日の井上陽水のトークは、まさに既存の価値観を覆す想定外の言葉の連続であった。
 
 パーソナリティーの赤江珠緒と大吉のオープニングトーク開始直後、1分足らずでいきなり軽々しく登場するというのがまず大物らしくなく、聴いているほうからすると早くも想定外だが、あの甘い声で放ったひとこと目の挨拶「歌をやっている井上です」というフレーズの絶妙さにいきなり心をつかまれる。言っていることは全然間違っていないのに、どこか予想外なこの感じ。歌手でもミュージシャンでもなく、「歌」と「井上陽水」の間の適切な距離感を感じさせる絶妙な言葉のチョイス。本来、大人の男に使うべき言葉ではないのかもしれないが、実にチャーミングとしか言いようがない。

 そして、芸能人として遙か後輩の大吉を芸人仲間のように「先生」と繰り返し呼び、「僕にとっては(大吉は)ピカピカの芸能人ですから」と妙に持ち上げたかと思うと、自分は「芸能人恐怖症」な上「初対面恐怖症」であり「横に娘(依布サラサ)がいる恐怖症」であると、ひとりで突っ走って見事な3段オチを決める。しかし、天才肌にありがちなひとりよがりなしゃべりかというとそんなことはまったくなく、むしろその独特の言語センスが対話相手の琴線に触れ、「ドラ3ですね」という大吉の秀逸なツッコミを導き出す。特に自ら相手に合わせにいっているわけではないのに、結果として絶妙なコンビネーションが成立しているというのは、ある種ジャムセッション的な、音楽的なコミュニケーションといえるかもしれない。目の前の相手に単に調子を合わせるだけでなく、むしろ意外性のある刺激的なフレーズをぶつけることで相手のポテンシャルを引き出すような、そんな言葉の使い方が陽水トークの真髄だ。

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