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ラジオ批評「逆にラジオ」第28回

『たまむすび』スペシャルウィークに降臨した井上陽水が紡ぎ出す、夏の終わりの白昼夢

 そのほかにも読めないトーク展開は頻繁に訪れ、どんな生活をしてるのかという話題になると、まだ何も質問していないのに「歯ももちろん磨きますよ」と一足飛びに答える。意外とテレビをよく見るという陽水に、大吉が「お気に入りの番組とかあるんですか?」と訊ねれば、「ハハハハ。すいません、変なとこで笑って」と突然笑い出し、その先には「報道番組ですかね」という恐ろしく真面目な返答が待っている。

 そして、スペシャルウィークの「バカ倍返し」というコンセプトに沿った若き日のバカ話として陽水が語ったのは、彼の現在のイメージからはあまりにかけ離れた純度の高いバカ話で、まるで同局の素人参加型おバカ番組『サタデー大人天国! 宮川賢のパカパカ行進曲!!』に出てくるような、この上なく庶民的な失敗談だった。

 博多から山2つ越えた筑豊に住んでいた中学生時代の陽水は、ラジオの電波が入りにくいことに頭を悩ませ、エナメル線のラジオアンテナを隣の家の屋根まで這わせることを思いつく。そうすると画期的にクリアに聞こえることを発見し、それから陽水は頻繁に柿の木をつたって屋根を登り降りするようになる。そんなある日、陽水少年は柿の木の上から隣の家の風呂場の窓が丸見えであることに気づく。そこは思春期の男の子。気にならないことはない。しかし、見てはいけないというのもわかっている。でも、やっぱり気にならないことはない。そして、欲望は得てして悲劇を呼び込む。いわく、「中途半端な気持ちで柿の木から降りたら、足を踏み外して落ちた」。

 陽水の代表曲に「少年時代」というこの上なく美しい名曲があるが、まさか本当はこんな少年時代だったとは。しかし純粋の方向性が違うだけで、どちらも純粋であることに変わりはない……というのは多少無理があるような気もするが、あの曲が表だとすればこの陽水の「裏・少年時代」のエピソードもまた違った意味で魅力的だ。

 陽水は同じ福岡の先輩であるタモリと仲が良く、以前2人がテレビで共演しているのを見て、この両人には遊び心や、ある種の諦念から来るユーモアという部分で間違いなく共通感覚があると感じてはいた。とはいえ、ここまで素のしゃべりが面白く語り口が滑らかで、なおかつ芸人や女子アナとの連携が機能するタイプの人だとは正直思っていなかった。独自の感覚と論理で展開されるこのシュールでつかみどころがなく、しかし終始コンスタントにつかみどころがないという意味では一貫している不思議なトークには、その声の甘いトーンも相まって、まるで現世の価値観から解き放たれた白昼夢のような誘引力があった。陽水のしゃべりがもっと聴きたい。
(文=井上智公<http://arsenal4.blog65.fc2.com/>)

「逆にラジオ」過去記事はこちらから

最終更新:2013/09/13 13:35
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