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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.377

これはホラー? それとも極上のファンタジー? 男の潜在的欲望の扉を叩く『ノック・ノック』

knockknock01既婚者を悶絶させる官能サスペンス『ノック・ノック』。据え膳を美味しくいただいたキアヌ・リーブスはこの後、地獄の責苦を味わうはめに。

 どんな男も簡単に墜ちてしまう魔法の言葉がある。密室空間で若い女性が甘く囁く「ここだけの秘密よ」というひと言だ。相手が秘密を守る確約はまるでないのに、男はあっさりとズボンとパンツを下ろしてしまう。男はどうしようもなく秘密という言葉に弱く、そして女はそんな秘密は守ろうとしない。かくして快楽と背中合わせの惨劇が訪れ、平和な家庭は次々と崩壊していく。キアヌ・リーブス主演のエロチックサスペンス『ノック・ノック』は、男なら誰もが隠し持っている潜在的欲望の扉をいとも簡単に開けてしまう。男が夢見る極上のファンタジーであり、同時に背筋が凍る現実味たっぷりなホラーでもある。

 悪魔は天使のコスプレ姿で現われる。建築家のエヴァン(キアヌ・リーブス)は芸術家の妻・カレン(イグナシア・アラマンド)との間に2人の子どもに恵まれ、良き父・良き夫として平和に暮らしていた。妻と子どもたちがバカンスに出掛け、エヴァンは自宅での仕事を片付けてから合流する予定だった。そんな夜、玄関のドアをノックする音が聞こえてくる。ドアを開けると、そこに立っていたのは若い女性2人組。外はどしゃ降りで、2人は全身ぐっしょりズブ濡れ。シャツの下のブラジャーまで透けて見える。訪問販売や宗教の勧誘ではなさそうだ。「道に迷ってしまって」という2人を、エヴァンは親切に自宅に招き入れ、タオルを手渡す。金髪のベル(アナ・デ・アルマス)はロリータ好きには堪らないタイプ。もうひとりのジェネシス(ロレンツァ・イッツォ)は黒髪がとてもセクシーだ。タクシーを呼び、乾燥機で2人の洋服を乾かしている間、エヴァンはバスローブを羽織った美女2人から「全然オジサンに見えない」と言われてまんざらでもない。「ひとりぼっちで仕事していたの? 私たちが慰めてあげる」「男が望むものは何でもしてあげる主義よ」と言いながら、やたらボディタッチしてくる。

 ここまでは大人の男の余裕を見せ、笑ってやり過ごしていたエヴァン。タクシーが到着したようなので、乾燥機の洋服を取り出しに行くと、2人の姿が見当たらない。美女たちは図々しくも浴室でシャワーを浴びていた。それでもエヴァンは紳士然として「ここに洋服を置くよ」と浴室のドアを開けると、もうそこは天国経由地獄行き深夜超特急の乗車口だった。生まれたままの姿のベルとジェネシスが妖しく微笑み、軟体動物のようにエヴァンに絡み付いてくる。「やめろ。俺は妻帯者なんだ」と抗っていたエヴァンだが、天使の姿をした悪魔はくだんの台詞を囁く。「私たちだけの秘密にするから」と。この魔法の言葉の効果はてきめん。『マトリックス』(99)や『ジョン・ウィック』(14)で無敵のヒーローを演じたキアヌ・リーブスは、全裸美女たちの肉弾攻撃にあっさり陥落してしまう。複雑に交じり合う3人の男女。洗練させたインテリアに彩られていたエヴァン宅は、たちまち罪深き肉欲パラダイスと化していく。

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