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中東の“裏歴史”を伝えるドキュメンタリー映画『NAKBA』

20080414_nakuba1.jpg1948年の抵抗運動に加わったため、難民キャンプへ移送された老人

 高校の教科書に出ていた、“キブツ”を覚えているだろうか? 1948年にユダヤ人によって建国されたイスラエルで、直接民主主義制を取り入れた実験農場の名称だ。フォトジャーナリストであり、月刊誌「DAYS JAPAN」(デイズジャパン)の編集長である広河隆一氏の初監督作となるドキュメンタリー映画『パレスチナ1948・NAKBA(ナクバ)』は、そのキブツのひとつであるキブツダリアという農業共同体から物語が始まる。

20080414_nakuba2.jpgフォトジャーナリストの広河隆一氏

 67年、当時23歳だった広河氏は理想郷としてのキブツに興味を持ち、研修生として働きながらキブツダリアで1年間を過ごしている。しかし、ある日、畑のはずれに白い瓦礫の山を見つけ、「なんの跡なの?」とキブツダリアの人たちに尋ねるが、誰も答えてくれない。やがて、広河氏はその瓦礫はパレスチナ人が暮らしていた村ダリヤトルーハだったことを知る。映画のタイトルになっているNAKBA(ナクバ)とは、パレスチナ人にとっての“大惨事”を意味する言葉。ホロコーストを経験したユダヤ人の理想の共同体は、実は先住者であるパレスチナ人の土地の上に造られたものだと知った広河氏の衝撃は計り知れない。

 映画『NAKBA』は、ダリヤトルーハをはじめとする郷里から追い出された人々の望郷の念を伝えるとともに、難民キャンプで知り合ったキファーという美しい女性の流転の人生についても追いかける。パレスチナゲリラとして戦い、6年間にわたって収容所に監禁されたキファーの言葉は、観る者の胸を撃ち抜く。収容所から解放され、結婚式を直前に控えたキファーは広河氏との久々の再会を喜び合うが、祝福の言葉をもらったキファーは「収容所の中のほうが幸せだった」と涙を流すのだ。肉体的にも精神的にも拷問を受けていた収容所での戦いの日々のほうが、パレスチナ人としてのアイデンティティを100%感じることができていたということなのか。

 本作は、ある意味で青春映画でもある。しかし、ここで描かれている青春は甘いセンチメンタリズムから遥か遠く、自分たちにとってのアイデンティティとは何かを問い掛ける、さまよえる辛い青春だ。

20080414_nakuba3.jpg検問所で、イスラエル兵に対してVサインをかかげ
るパレスチナ人女性(02年4月)

 4月2日、上映中の渋谷ユーロスペースで広河氏のトークイベントが開かれ、生の声を聞く機会があった。銃弾や催涙弾が飛び交う戦場を取材してきた広河氏は、「ジャーナリストたちはホテルにいて、そこで最前線に立っているかのように記事をまとめることもできるわけです。でも、戦場は最前線から 100~150m離れれば、そこはもう安全圏になってしまう。僕は本来は怖がり。フォトジャーナリストと名乗っているのは、自分自身の背中を押すため。現場に立って、自分で観ることを責任づけるためなんです」と満席状態の客席に語りかけた。

 さらに「ジャーナリストは2種類いる。本当のことを伝えるジャーナリストと、嘘を伝えるジャーナリスト。後者が増えているのが現状。現地の悲惨さを過小して伝えているケースがどれだけ多いことか」と訴えた。

 広河氏がスチールカメラと共に回し続けた映像資料は膨大にあり、今後は全40~50時間ほどのアーカイブス版『NAKBA』の制作を予定している。パレスチナの人々が故郷に戻る日を熱望し続けているのと同時に、広河氏の過酷な取材はこれからも続く。
(長野辰次)

『パレスチナ1948・NAKBA(ナクバ)』
フォトジャーナリストの広河隆一氏が、40年かけて取材した長編ドキュメンタリー映画。4月25日までユーロスペース(東京都渋谷区)で上映中。その後は、全国順次公開。/製作・著作:広河隆一パレスチナ記録映画制作委員会(広河隆一事務所、『1コマ』サポーターズ)  http://nakba.jp

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最終更新:2008/05/21 22:34

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