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深読みCINEMA コラム【パンドラ映画館】Vol.03

水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は……

mizunoharuogirara.jpg『ギララの逆襲』に友情出演した水野晴郎先生。宇宙怪獣ギララの出現に対し、
少年のようなイノセントな笑顔を見せている。
(c)2008「ギララ」製作委員会

 『ALWAYS 三丁目の夕日』(05)、『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(07)など製作委員会に日本テレビが参加している作品が度々主要賞を独占することで知られる日本アカデミー賞。78年に始まったこの式典の発案者は08年6月に亡くなった水野晴郎先生だった。『水曜ロードショー』の解説を務めていた水野先生が「映画の素晴らしさをさらに盛り上げる祭典」として松竹、東宝、東映のトップや日本テレビのプロデューサーらに持ち掛けて準備を進めていたが、途中から電通が仕切ることになり、水野先生は単なるいち会員として投票するだけの立場となっていた。

 今年、日本アカデミー賞は映画界に貢献した故人として市川崑監督、緒形拳の両氏に会長特別賞を贈っているが、映画宣伝マンおよび映画解説者として映画文化の普及に広く努めた水野先生の名前が日本テレビの授賞式中継番組で告げられることは最後までなかった。

 しかし生前の水野先生は日本アカデミー賞が自分の手から離れていったぐらいではメゲることなく、91年には日本映画批評家大賞を設立し、自身の監督&主演作『シベリア超特急』シリーズ(96~05)に出演した須藤温子や大塚ちひろら若手俳優に新人賞を贈り、また三田佳子や岡田眞澄らベテラン俳優に特別功労賞を渡す傍ら『シベ超』シリーズへの出演を打診していた。転んでもタダでは起きない、タフな映画人だった。

 人間臭いエピソードに事欠かなかった水野先生の最後の映画出演作となったのが、河崎実監督の怪獣映画『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』(一髪ではなく一発となっているのは、水野先生が邦題を考えた『007危機一発』へのオマージュ)だ。ライフワークだった『シベ超』シリーズが遺作ではなく、うっかり出演した『ギララの逆襲』が遺作となってしまった。『シベ超3』(03)の冒頭の長回しシーンで、監督である自分がうっかりカメラに映ってしまった水野先生らしい、最後までチャーミングなうっかりぶりだ。

 列車内のシーンなのにセットが微塵も揺れてないことで伝説と化したシリーズ第1作『シベ超』(96)は、英文ダイアログ/戸田奈津子、コスチュームデザイン/コシノジュンコがクレジットされていることでも話題を読んだが、公開前の段階では「編集/市川崑」というクレジットもあったそうだ。”映像の魔術師”市川監督なら揺れていない列車を揺れているように見せてくれるのではと多大な期待を寄せて編集を頼んだそうだが、ラッシュを見終えた市川監督の言葉は「こりゃダメだよ、水野くん。列車が揺れてないじゃないか」というものだったらしい。そんな逸話を愛弟子の”ぼんちゃん”こと西田和昭と大笑いしながら打ち明ける気取りのなさが、水野先生の魅力だった。

 その一方、『シベ超』という底抜け爆笑シリーズを撮りながら、水野先生は軍服姿になっているときは一切ギャグはやらないというケジメの部分も持ち合わせていた。自分はいくら笑われてもいいが、自分が少年だった頃に悲惨な戦争があったという事実を若い世代に伝えたいという明確なメッセージが『シベ超』シリーズを貫いていた。

girara02.jpg 『ギララの逆襲』に話を戻そう。水野先生は”シベ超”の名付け親であるみうらじゅんやリリー・フランキーらと共に北海道で暴れ回る宇宙怪獣ギララについて語るコメンテーターとして1シーンのみカメオ出演している。

 07年に撮影する予定だった『シベリア超特急ファイナル』のクランクイン直前に骨折、さらに体調を崩し、入退院を繰り返していたが、河崎監督からの出演オファーに応え、08年4月に自宅から歩いて『ギララ』の撮影現場に入っている。水野先生の体調を配慮して、台詞は「いやぁ、ギララってやっぱりすごいですねぇ」のひと言だけの予定だったが、夕方5時からの撮影にも関わらず午後1時には現場入りしていたそうだ。うっかり時間を間違って入ったのか、それとも撮影が待ち切れずにまだ誰もいない現場に来てしまったのか。

「やっぱり現場に少しでも長くいたかったんじゃないかと思うんです。すでに体調はあまり良くないようでしたが、台本上ではひと言だけのシーンなのに水野先生は出身地である岡山弁でしゃべりまくって台詞を増やしていましたね。 アドリブで思わず故郷の言葉になったのかなぁ」と河崎監督は水野先生の最後の現場を神妙に振り返っている。

『シベ超』シリーズの舞台となる満州から母親や弟たちと共に命からがら引き揚げてきた水野先生は、10代後半から20代前半を岡山県高梁市で過ごしている。地元の郵便局に勤めながら、地方ではなかなか観る機会のない名画の上映会を企画し、手描きのポスターやチケットを準備するのが無性に楽しかったと福々しい笑顔でインタビューに応えていた姿が思い浮かぶ。『ギララ』の撮影で思わず岡山弁になっていたのは、水野先生の頭の中は映画に夢中になっていた青春時代の思い出でいっぱいだったからなんだろう。

 ビリー・ワイルダー監督の『サンセット大通り』(50)でグロリア・スワンソンがカメラ目線で見栄を切る場面は、映画女優の貫禄と狂気が混在した映画史上に残る有名なシーンだ。『ギララの逆襲』の水野先生の出演シーンも、映画に人生を捧げた男の情念がくっきりと画面に映し出されている。
(長野辰次)

『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』
脚本・監督/河崎実 脚本/右田昌万 出演/加藤夏希、加藤和樹、福本ヒデ、松下アキラ、渡部又兵衛、森下悠里、堀内正美、きくち英一、中田博久、黒部進、古谷敏、夏木陽介、みうらじゅん、リリー・フランキー、水野晴郎、ビートたけし 発売・販売元/松竹
www.shochiku.co.jp DVD発売中。プレミアム・エディションには、みうらじゅん、リリー・フランキー、水野晴郎らゲスト撮影時のメイキング映像や本作が出品された「第65回ベネチア映画祭」のレポートなども収録。

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最低で最高な松竹怪獣映画。

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最終更新:2012/04/08 23:04
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