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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.4

フランス、中国、日本……世界各国のタブーを暴いた劇映画続々

inochinosenjo.jpg『いのちの戦場-アルジェリア1959-』(C) 2007 LES FILMS DU KIOSQUE – SND – FRANCE 2 CINEMA

 はためく三色旗に”自由・平等・博愛”を高らかに謳うフランスだが、その一方、国歌「ラ・マルセイエーズ」には”血染めの軍旗””喉をかっ切る”など血なまぐさい歌詞が並んでいることでも知られる。美しい理想を手に入れるために、かくも流血の歴史があったことを物語っている。そんなフランスの近現代史にあってタブー視されてきたのが、アルジェリア独立戦争(1954~1962)だ。フランス政府は132年間にわたって植民地として統治してきた北アフリカのアルジェリアとの間に戦争があった事実を1999年まで正式に認めようとしなかった。

 現在、渋谷シアターTSUTAYAほかで公開中の『いのちの戦場-アルジェリア1959-』は、フランス軍がアルジェリアの反抗勢力に対し”正式な戦争以外では使用禁止”のナパーム弾を投下し、捕虜への拷問、さらには捕虜が逃走したと見せかけて射殺するなど、戦場にはモラルなど存在しないことを突き付けた戦争映画だ。

 フランス版『プラトーン』(86)とも『ディア・ハンター』(78)とも言える『いのちの戦場』を立案したのは、アルジェリア独立戦争を知らない世代であるフランスの若手実力派男優ブノワ・マジメル。アルジェリアに200万人ものフランス兵が送り込まれ、そのうちフランス側は2万7,000人が死亡、アルジェリア側の死亡者は30~60万人(推定)という悲惨な戦場で、人道主義を唱える志願兵が徐々に理性を失っていく様をブノワは切々と演じている。

 ジダン(アルジェリア移民2世)の頭突き事件が欧州であれほどの社会問題になったのは、フランスとアルジェリアの間に今なお深い傷が残っていることが背景となっているためと言われている。フランス政府が認めようとしなかった事実とは一体何だったのか、スクリーンで見届けてほしい。

 この春、世界各国のタブーに迫った劇映画が次々と上映されている。4月11日(土)から渋谷アップリンクほかで公開される『風の馬』(98)は、チベットが中国によって政治・思想的に弾圧されている状況を生々しく伝えたもの。ダライ・ラマ14世の写真を自宅に飾ることを禁止され、「チベット独立」を口にした尼僧が刑務所に収容され、リンチに遭うなどの実話をベースにドラマ化している。

 チベット問題は、ブラット・ピット主演作『セブン・イヤーズ・イン・チベット』(97)でも取り上げられていたが、ハリウッド資本の『セブン・イヤーズ』がアンデス山中にセットをつくっての撮影だったのに対して、『風の馬』は中国当局の監視をかいくぐってチベットやネパールでビデオ撮影されたものだ。また、ワシントンDCの国際映画祭での上映の際には、中国当局が『風の馬』の上映中止を求めてきたことをニューヨーク・タイムスなどが報じている。ハワイ国際映画祭は中国の圧力に屈して、『風の馬』の上位入賞を控えたという。10年前の作品だが、現在のチベットはさらに報道規制された状況ゆえに、貴重な映像作品といえるだろう。

 日本においてマスコミタブーのひとつとなっているのが、”原発問題”。電力会社や原発にからむ大手電機メーカーなどがテレビの有力スポンサーであることから、犠牲者を出した”東海村JOC臨界事故”級の大事故にならない限りニュース番組で取り上げられることは非常に少ない。ポレポレ東中野で現在ロングラン上映中の『へばの』は、今年から本格稼働を開始する青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場で働く人々を主人公にしている。再処理工場で働く若い男性が勤務中にささいな事故から内部被爆してしまい、結婚の約束をしていた恋人との間に亀裂が生じるという悲しいラブストーリーだ。

 青森弁で「じゃあね」という意味のタイトル『へばの』を自主製作したのは、青森県出身の木村文洋という29歳の新人監督。六ヶ所村の関係者に取材した上で、再処理工場近辺でゲリラ的に撮影を進め、この問題作を完成させている。「タブーであることを意識して撮った作品ではありません。ただ、自分が生きている現代とは一体どんな時代なのかを、映画を撮ることで明らかにしてみたかったんです」と木村監督は語っている。

 最近DVD化された、その他の作品も紹介しておきたい。ハンバーガー工場の悲惨な裏事情をドラマ化したアメリカ映画『ファーストフード・ネイション』、東欧の女性たちが欧州のアングラ市場で売買されている事実をあぶり出した『イースタン・プロミス』、欧米の大手製薬会社が新薬開発のためにアフリカの人々を廉価な実験台にしていることを暴いた『ナイロビの蜂』、タイの児童買春に日本人も関与していることを告発した阪本順治監督の『闇の子供たち』など世界各国のタブーに斬り込んだ力作が近年少なくない。

 どの作品も劇映画ならではの方法で”現代の闇”に向き合ったものだ。また、リスクを冒してまでそれらの作品に取り組んだ監督たちは”肝”が座っているだけに、観る者の胸にずしんと迫る演出となっている。
(長野辰次)

『いのちの戦場-アルジェリア1959-』
監督/フローラン=エミリオ・シリ 脚本/パトリック・ロットマン 出演/ブノワ・マジメル、アルベール・デュポンテル、モハメッド・フラッグほか
配給/ツイン http://www.1959.jp/
2月28日(土)より渋谷シアターTSUTAYA、新宿武蔵野館ほかロードショー上映中

『風の馬』
監督・脚本・編集/ポール・ワーグナー 共同監督・共同脚本/テュプテン・ツェリン 出演/ダドゥン、ジャンバ・ケルサン、リチャード・チャンほか
配給/アップリンク http://www.uplink.co.jp/windorse/
4月11日(土)より渋谷アップリンクほか全国順次ロードショー

『へばの』
脚本・監督/木村文洋 音楽/北村早樹子 出演/西山真来、吉岡睦雄、長谷川等、工藤佳子ほか
製作・配給/team JUDAS http://teamjudas.lomo.jp/
3月6日(金)までポレポレ東中野で公開中。3月7日(土)~20日(金)大阪プラネットプラスワン、3月21日(土)~27日(金)松山・シネマルナティックにて公開

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最終更新:2012/04/08 23:04
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