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【元木昌彦の「週刊誌スクープ大賞」第20回】

「股間のサイズは普通だった」市橋達也容疑者事件で見せる各誌独自の切り口とは

post1117.jpg「週刊ポスト」11月27日号

●第20回(11月10日~11月17日発売号より)

第1位
「市橋容疑者『仮面』の誤算」(「週刊ポスト」11月27日号)

第2位
「世界最大! アダルトエキスポ見聞記 一本のバイブから世界が見えてきた!」(「週刊朝日」11月27日号)

 今年上半期の雑誌の発行部数(日本ABC協会)が発表になった。「文春」(文藝春秋)はついに50万部を切り、「新潮」(新潮社)は40万台を死守。「ポスト」(小学館)が僅かに「現代」(講談社)を抑えているが20万台半ばと、依然苦しい。

 だが7月以降、民主党・のりピー特需で、各週刊誌とも部数を伸ばし、このところの事件大量発生で好調のようだから、下半期はもう少しいい数字が期待できると、各誌の編集長は意気込んでいる。

 週刊誌への関心が高まってきたのか、ラジオからの出演依頼が続いた。11月3日のTBSラジオ『Access』に続いて、昨日はJ-WAVEの『PLATOn』に出て、週刊誌の現状とこれからについて話してきた。

 8月はじめに押尾学、酒井法子夫婦の事件が起き、その騒ぎが一段落したと思ったら、千葉大女子大生の殺害放火事件、関東の34歳と鳥取の35歳の豊満詐欺女たちによる「殺人疑惑」、島根県立大学女子大生のバラバラ殺人事件が起きた。そして11月10日に、1年8カ月の逃亡生活の末逮捕された市橋達也容疑者と、私が週刊誌に関わってきた中でも、これほどの大事件が続いたことは記憶にない。

「事件は週刊誌の華」である。事件取材ほど面白いものはない。新聞の通り一遍の警察発表記事ではない裏を追いかけ、事件の細部を掘り起こしていくと、報道されているのとは違った「事件の貌」が見えてくる。事件編集者をやっていてよかったな、と思える至福の瞬間である。

 だが、残念ながら週刊誌の現場は、編集部員や取材記者の大幅な削減と、取材費の締め付けの両方が原因で、小さな事実を丹念に拾い集めて、新聞やテレビ、他の週刊誌とも違った視点や切り口で見せることができにくくなっているようだ。どの週刊誌を読んでも、新聞と同じような横並びの内容に愕然としてしまう。

 市橋容疑者逮捕の記事は、締め切りの関係で時間的余裕がなかった「文春」「新潮」は仕方ないとして、「現代」は、市橋が働いていた大阪・茨木市の建設会社の寮で、隣の部屋にいた男性の「独占手記」を掲載している。一緒に風呂へ入ったことが5~6回あったそうで、

「風呂では、いつも被っていた帽子はさすがに脱いでいましたが、黒の伊達メガネはしたままでした。私が見た井上の体は、まさに筋骨隆々。事件前の写真のようなスレンダーな体ではなく、長く肉体労働系の仕事をしてきて鍛えぬいた肉体に見えました。股間のサイズは、普通だったと思います」

「朝日」では、英国人女性ナタリーさんが大阪市西成区の釜ケ崎に滞在しているとき、ナンパしてきた男が、市橋に間違いないと証言している。

「タケシって言います」と言って近づき、英会話のレッスンをしてくれませんかと話したという。逮捕時、彼のバッグにはコンドームが残っていて、捜査員が「どうしたんだ」と聞いたら、「(遊郭街の)飛田新地に馴染みの女がいた」と答えたという。

 市橋の記事でよく出てくるのが「ハッテンバ」という言葉。主に男の同性愛者が「同好の相手」と出会い、恋愛に発展する場所の意味だという。新宿2丁目には小部屋を備えたハッテン場があり、市橋もそこで男たちと「恋愛」をしていたという情報もある「ポスト」によれば、「20代後半~30台前半の男性に、同性愛者やバイセクシャルが増加しているのだという。これは、「原因としては、母親による過干渉が考えられます。いわゆる教育ママが、”マザコン”男性を生んだとはよくいわれるが、(中略)母親が敵になってしまうと、”女はこりごりだ”という意識を持ったまま大人になる。それがいわゆる”草食系”と同時に、同性愛者やバイセクシャルをも増加させていると考えられます」(「ポスト」)

 それにしても、男に体を売り、貯めた金で整形をしてまで逃げ切りたかった、市橋の生への執念には、驚くと同時に、哀れなものがある。

 あまりの事件の多さに、各誌とも散漫な記事が多い中、比較的まとまっていた「ポスト」の記事を今週のスクープ大賞にした。

 事件関連以外で面白く読んだのは、「朝日」の「世界最大のアダルトグッズ展覧会」ルポだった。

 ドイツのベルリンには、まだベルリンの壁が壊れる前に行ったことがある。ドイツは公娼制度が法律で認められている国で、東ベルリンの町中に、売春専用のビルが建っていたことに驚かされた。

 そこで10月半ば、アダルトエキスポ「VENUS」が開催された。60カ国から300社以上が出店し、多くのアダルト産業の関係者が訪れた。

「目の前のステージでバイブを持った女性が全裸で踊り出した。(中略)背後の通路では、全身を縛られ猿轡(さるぐつわ)をはめられたモデルがロバの格好でしずしずと歩いている。(中略)ふと気がつけば、目の前の女性がバイブをヴァギナに入れはじめていた」(コラムニスト北原みのり)

 EUでは、アダルトグッズにもCEマーク(EU加盟国の基準を満たすものにつけられるマーク)が適用されるようになり、子どものオモチャや医療器具などのように、高くても機能がよく安全な商品として、バイブが変わってきているのだそうだ。

 中でも韓国製の卵形のバイブが素晴らしい。「手のひらサイズの楕円形の卵を半分にわると、中で陰陽太極図のように二つが絡まっていて、片方は女性に、もう片方はへこみがついた男性用にと使うバイブ。男女が二人で仲良く分け合うバイブなんて、史上初ではないか」(同)

 意外にも、日本企業の出店は少ない。それは、日本人女性は幼く見えるため、チャイルドポルノに厳しいヨーロッパではビジネス的に厳しいのではと、北原氏は推測している。

「イギリスは舌のように動くバイブや、熱を持つバイブなどフェティッシュなものを作らせたら世界一だし、スウェーデンはやはりデザインで群を抜いている」(同)

 2ページのルポではもったいない。こういうものこそ、カラーグラビアで見てみたいと思うのだが、「朝日」の編集長はそうは思わないのだろうか。

 どちらにしても、これほど興味深い事件が続発することは希である。この好機を逃がさず、じっくり取材した読み応え、切り口の鮮やかな記事を期待したい。

 そしてこれを、長引く週刊誌不況から脱出するきっかけにしてもらいたいものだ。
(文=元木昌彦)

motokikinnei.jpg撮影/佃太平

●元木昌彦(もとき・まさひこ)
1945年11月生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社入社。90年より「FRIDAY」編集長、92年から97年まで「週刊現代」編集長。99年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長を経て、06年講談社退社。07年2月から08年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(2006年8月28日創刊)で、編集長、代表取締役社長を務める。現「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催、編集プロデュースの他に、上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで教鞭を執る。

【著書】
編著「編集者の学校」(編著/講談社/01年)、「日本のルールはすべて編集の現場に詰まっていた」(夏目書房/03年)、「週刊誌編集長」(展望社/06年)、「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社/08年)、「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス/08年)、「競馬必勝放浪記」(祥伝社/09年)、「新版・編集者の学校」(講談社/09年)「週刊誌は死なず」(朝日新聞社/09年)ほか

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最終更新:2009/11/18 22:24
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