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五輪、W杯……スポーツは腐った世界を変える!『インビクタス/負けざる者たち』

mandera.jpg2009 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.

 バンクーバー冬季オリンピックが開幕し、連日、活躍する選手たちの様子が伝えられて盛り上がりを見せている。オリンピックはスポーツを通じて世界をひとつにする平和の祭典としての側面ももつが、そんな”スポーツを通じて人々の心をひとつに”という精神を実践した、南アフリカ共和国の元大統領ネルソン・マンデラを描く映画『インビクタス/負けざる者たち』が現在公開中だ。


 物語は1995年の南ア。同国で開催された第3回ラグビー・ワールドカップで、南ア初の白人黒人の混合チームが、奇跡の快進撃を起こす姿を描き出す。アパルトヘイト(人種隔離政策)と戦い、27年間も投獄されていたマンデラ(モーガン・フリーマン)は94年、大統領に就任する。対立する黒人と白人の融合を推進し、まずは自身の警護係にも4人の白人を配備。「オレたちを殺そうとしたやつらですよ」と諫言する黒人の警護責任者を、「さまざまな人種で作る”虹の国”は君たちから始まるのだ」と諭す。そして当時、白人が愛好するスポーツで、黒人にとってはアパルトヘイトの象徴でもあったラグビーを観戦。同国代表チームのスプリングボクスは、長らく国際試合からも追放されて弱体化が進み、”南アの恥”とまで呼ばれていたが、マンデラはそこに希望を見出す。1年後に同国で開催されるラグビー・ワールドカップに向けてラグビーの強化を推し進め、スプリングボクスの主将フランソワ・ピナール(マット・デイモン)とは指導者のあり方について気さくに語り合う。スプリングボクスは過酷なトレーニングを続けつつ、大統領のお達しで各地の黒人地区で子どもたちのコーチも務め、スポーツの楽しさを伝えていく。

 そして95年、ついに開かれたワールドカップ。それまではラグビーに目をくれず、応援するとしても他国のチームばかりだった黒人たちも、スプリングボクスに声援を送るようになっていた。そして「良くて準々決勝まで」と言われたスプリングボクスの快進撃が始まる。

 あまり知られてないが、これが実話だというから感動もひとしおだ。それゆえにラストは予想できてしまうのだが、だからといって鑑賞に支障をきたすものでもない。もちろん、ラグビーの知識もなくても問題ない。大事なのは、人々の心をひとつにするという難題を、スポーツを通して実現してみせた、マンデラという人の物語でもあるというところだ。監督は『ミリオンダラー・ベイビー』『グラン・トリノ』のクリント・イーストウッド。マンデラ役のフリーマンがプロデューサーを務め、イーストウッドに企画を持ち込んで実現させた。3月7日に発表となる第82回アカデミー賞では、フリーマンが主演男優賞、デイモンが助演男優賞にノミネートされている。

 マンデラは27年間も、毛布だけを敷いた2畳程度の小さな牢獄という過酷な状況下で生き抜いてきた。それだけの苦行を強いられながらも、大統領に就任してから、自分を投獄した白人たちにひとかけらの復讐心も抱かず、赦しの心で接していく。スプリングボクスのチーム名やエンブレムを変更しようという側近たちからの提案も、「白人たちが愛しているチームを消してしまえば、人種間の亀裂はさらに広がってしまう」と断固として受け入れなかった。そんなマンデラの聡明さ、心の広さのひとつひとつに感銘を受けざるを得ないはず。ちなみにタイトルの「インビクタス」とは、マンデラが獄中生活で心の支えにしていた詩のことで、”征服されない”といった意味を持つとか。

 南アといえば、今年6月にはアフリカ大陸で初のサッカー・ワールドカップが開催される。治安の問題などで同国でのW杯開催に疑問の声もあがったなか、同国の歴史にこんな事実があったことを知っておけば、少し違った目で楽しめるかもしれない。オリンピックやワールドカップで盛り上がる2010年だからこそ、より身近に感じられる映画でもある。
(文=eiga.com編集部・浅香義明)

『インビクタス/負けざる者たち』作品情報
<http://eiga.com/movie/54387/>

『インビクタス/負けざる者たち』クリント・イーストウッド監督 インタビュー
<http://eiga.com/movie/54387/special/>

『インビクタス/負けざる者たち』特別対談 イーストウッドの魅力
<http://eiga.com/movie/54387/special/3/>

自由への長い道―ネルソン・マンデラ自伝〈上〉

涙なしには読めません。

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最終更新:2010/02/19 21:00
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