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映画『イヴの時間』公開記念緊急インタビュー(後編)

個人制作から劇場映画へ──アニメ作家・吉浦康裕が「忘れないもの」とは?

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<前編はこちらから>

■個人制作から得たものとは?

――今回の『イヴの時間』において、吉浦監督は初めてグループワークでの制作を経験されました。個人作業の良さと、グループワークの良さというものがそれぞれあると思いますが、今後改めてアニメを個人制作してみたいと思いますか?

吉浦 それは思わないですね(笑)。実は個人で作っていた頃から、早くグループで作りたいってずっと思っていました。自分は性格的にも、皆とのコミュニケーションの中で作品を作っていく方なので。ただ、個人制作を1回やったということは強みにはなりましたね。どの工程の作り方も分かったので、演出家として指示がしやすい。


――逆に個人制作の時の苦労話などありますか? 

吉浦 ひたすら忍耐ですね(笑)。1年くらい一人で作っていましたから。でも自分は個人アニメ製作者の中では完成は早い方だったと思います。3年くらいずっと作っている人もいましたから。だから、兎にも角にも忍耐力が必要でした。

──その忍耐力はどこから来たものなんでしょうか。

吉浦 自分はとにかく「あっ」と驚くものが作りたい、と思っていて、作り終えたときのことを考えてニヤニヤしていましたね。まあ、作品としてはちょっと空回りしていたところもあるんですけれど(笑)。でも、その個人で作った『ペイル・コクーン』がきっかけとなって、次の話をいただけたんですよね。実際『イヴの時間』の第1話を作り始めた時は、アニメ業界との繋がりはなかったので、最初は手探りだったんです。でも1話、2話とやるにつれて『イヴの時間』を観て、面白いから一緒に仕事したっていうアニメーターの方が出てきてくれるようになったんです。

――話数を追うごとに作画スタッフが段々増えていくという(笑)。なかなかそういうアニメもないですよね。

ibu04.jpg(c)2009/2010 Yasuhiro YOSHIURA / DIRECTIONS, Inc

吉浦 そうですね。でも実際に作業時間も段々早くなっていきましたね。1話は作るのに半年以上かかったのですが、6話なんてそのほぼ倍の尺なのに、他の作業やりながら半分くらいの時間で作れたので。やっぱりそこはノウハウの構築と、集団作業の強さが生きたというところです。

──『イヴの時間』では色々な役職を兼任されているんですけれども(絵コンテ、演出、3DCG、撮影、編集、音響監督、原作、脚本、監督)、実際にはどの程度作業にかかわってらっしゃるのでしょうか。

吉浦 基本的に一通り自分がやりました。ただ1話の頃が一番作業量が多くて、2話、3話と進むにしたがって段々とアウトソーシングすることを覚えていって、少しずつ外注していきました。ただグループワークとはいえ、テレビアニメほどの規模でなく少人数ではあったので、個人制作と集団制作の作り方の間という感じです。

──具体的にどういう体制で制作されたのでしょうか。

吉浦 中心となるのは自分を含むスタジオ六花(『イヴの時間』制作にあたり起ち上げられたスタジオ)の3人、ディレクションズの制作進行、作画監督の茶山隆介の5人です。自分たちで制御できる部分は少人数で作って、作画とかのアウトソーシングは既存のアニメ業界の蓄積を使わせてもらっている。アニメ業界に半分だけ足を突っ込んでいるという感じです。

──個人制作の繊細さと集団制作のダイナミズムのいいところどりという感じなんですか?

吉浦 そうですね。ただ、どのくらいいいところどりできているのかは、まだ研究段階ですけどね。できることならもう少し人を増やしたかったです。まだ自分が一人でがんばりすぎている感はありましたので。そこは集団制作のノウハウがたまったので、次の機会に実践という感じですね。

ibu05.jpg(c)2009/2010 Yasuhiro YOSHIURA / DIRECTIONS, Inc

■個人制作の「次」を見据えて

──今までの話をお伺いした感じだと、これまでは個人制作アニメだからすごい、作家性を持っているという風に注目されてきましたが、個人制作アニメは一つの段階でしかなかった。むしろデジタルツールや発表する環境などが整ったことで、現在はアニメーションとしての完成度と強い作家性を兼ね備えた作品が生まれる土壌ができつつある。そういう次のステージの作品が『イヴの時間』ではないか、という印象を受けますが。

吉浦 僕は個人制作アニメを目指している方にぜひ言いたんですけれども、「個人制作をする事」にはすごく意味があると思うんですが、「個人制作し続けること」にはそんなに意味がないと思うんです。2本目を作った方って皆、一度個人で作った後に集団製作に、アニメ業界に片足突っ込んだ作品に移行している。新海誠さん(『ほしのこえ』、『秒速5センチメートル』など)とか、YAMATOWORKSさん(『カクレンボ』、『FREEDOM』など)もそうですし。やっぱり個人制作で腕を見せて、その上でお金を集めてもっと大きなものを作る、っていうのは流れとして自然かなと僕は思います。それに1本目だって完全に個人で作る必要はない。例えば友達に声をかけて2、3人で作るでもいい。今はニコニコ動画とかYoutubeで発表する人もけっこういるじゃないですか。そういう人って意外と個人制作じゃないんですよ。ただ、そういう個人アニメ制作者達が2本目以降をどうやるのかというインフラというか、道筋はまだまだできていないと思います。だから、自分もこれからどうなっていくのかは分かりません。ただ、自分はそういう人達と一緒に作品を作っていきたいな、とは常々思ってます。

──次回作の構想はありますか?

吉浦 あります。『イヴの時間』はもともと12~13本くらいのシナリオで考えていたんですが、今回は結果的に前半の6本だけ作ることになったんです。だから、その後半部分の完成を急ぎたいと思っていますし、また全然違う話をやりたいという考えもあります。『イヴの時間』をやってアニメ業界との繋がりが得られた事で、やれる事が増えたなと。具体的に言うと広大な外の世界描いたり、動きまくるアクションものを作る下地にもなったと思います。

──よりエンタテイメント性を追求した方向性になりそうですね。

吉浦 でも、どんなに自分がエンタテイメントに突き進むといっても、そこに必ず自分でしかできない毛色、匂いとか空気感を絶対に忘れないでいきたいと思います。フィルムを観ただけで「吉浦作品」というのが分かるくらいの個性を、エンタテイメントは損なわなという大前提でやっていきたいですね。
(取材・文=有田シュン)

■『イヴの時間 劇場版』
<http://timeofeve.com/>
3月6日(土) 池袋テアトルダイヤ、テアトル新宿(3/6~12限定レイトショー)
春休み テアトル梅田

■「GyaO!」オンライン試写会
「イヴの時間 劇場版」オンライン試写会
<http://gyao.yahoo.co.jp/lot/anime/timeofeve/>
実施中~2月28日(日)午後11:59ごろ

■ニッポン放送主催試写会イベント
ネクスト・リアル1 『イヴの時間~上映&トーク~』
<http://ent.pia.jp/pia/event.do?eventCd=1002722&perfCd=001>
公演日:2月19日(金) 開演 午後7:00 開場 午後6:30

※詳細はリンク先を参照。

イヴの時間 オフィシャルファンブック

あわせて読む。

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最終更新:2010/02/20 18:00

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