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映画『イヴの時間 劇場版』公開記念緊急インタビュー(前編)

個人制作から劇場映画へ──アニメ作家・吉浦康裕が「忘れないもの」とは?

ivu01.jpg新進気鋭のアニメ作家・吉浦康裕氏。

 2000年代初頭の個人制作アニメブームの最中に頭角を現し、数々の賞を受賞してきたアニメーション作家・吉浦康裕。彼が08年から09年にかけてWeb上で発表し続けてきた、初の連作アニメーション『イヴの時間』が2010年3月に劇場作品として公開される。

 Webアニメとしてスタートした『イヴの時間』、その魅力とは何なのか。そして吉浦監督にとって、理想のアニメーション制作現場とは何なのかをうかがった。

■『イヴの時間』が生まれるまで

――映画『イヴの時間 劇場版』完成、おめでとうございます。まずは作品を知らない読者に本作の簡単な説明をお願いいたします。

吉浦康裕監督(以下、吉浦) ありがとうございます。『イヴの時間』は、人間とアンドロイドが共存する未来、「イヴの時間」という不思議な喫茶店に集うアンドロイドと、そこに迷い込んでしまった少年の奇妙なドラマを描いた作品です。

――『イヴの時間』を作るに至った経緯を教えてください。

ibu03.jpg(c)2009/2010 Yasuhiro YOSHIURA / DIRECTIONS, Inc

吉浦 大学の頃から自主制作でアニメを作っていました。当時はまだ動画投稿サイトなどがなかったので、学内の上映会で流したり、自主制作映像作品を評価するテレビ番組に応募したりしていました。その中でディレクションズ(『イヴの時間』をプロデュースする映像制作会社)が制作しているNHKの『デジタルスタジアム』に作品を応募したことがきっかけになって、一つ前の『ペイル・コクーン』という個人制作アニメを作らせていただきました。それが終わった後で、「次は連作をやらないか」とプロデューサーからお話をいただいたんです。それが全ての始まりになりました。

――そして、その『イヴの時間』ですが、Webで約15分のエピソードを全6話発表していきましたが、なぜこういう形での発表になったのでしょうか。(注:ただし第6話は27分)

吉浦 実際のところ、制作を開始した当初はどうやって発表していくかはあまり考えてなかったんです。アニメ業界にも全然繋がりがなかったので、作画作業に関しても個人的なツテを頼ってフリーのアニメーターの方にお願いしたりしていました。そんな状況の中、2話目を作った辺りで、ようやく「Yahoo!動画」(現Gyao!)で配信することが決まりました。2カ月に1本というかなりの長期スパンでしたが。

──ものすごく地道な展開ですね。

吉浦 そうなんです。たまたまコミケに企業ブースで参加していた時に、ドワンゴさんから「『イヴの時間』を観ています」とご挨拶をいただきまして、そこでとんとん拍子で話が進んでニコニコ動画でも公式に配信されることになったんです。ただ、プロデューサーの意見によると、15分というパッケージを6本作ったのは15分×6本、30分×3本。90分×1本という風に、いろいろな売り方ができるから、という策略はあったみたいですね。

■「吉浦作品」の作り方

──影響を受けた映像作品などはありますか?

吉浦 押井守さんの作品ですね。ただ、ストーリーとかテンポの点だと、演劇好きなので三谷幸喜さんの作品ですね。

──ああ、分かります。『イヴの時間』の密室での人間ドラマも三谷作品っぽいですよね。

吉浦 お話のテンポとかギャグの座り方とか『王様のレストラン』(フジテレビ系)みたいですよね。コメディーは入れるんだけれども、顔がでかくなったり、アニメっぽく顔を崩すんじゃなくって、あくまでも生身のキャラが掛けあって、そこに面白さが生まれるような。あと『イヴの時間』には引きの絵が多いのですが、舞台中継みたいな感じでやりたかったというもあります。

――今回の『イヴの時間』だけではなく、前作の『ペイル・コクーン』でも音楽が作品のキーワードになっていました。吉浦監督の音楽への特別な思い入れを感じたのですが。

吉浦 ミュージカルシーンのあるアニメがすごく好きで、いつか歌って踊るシーンを自分もやりたいと思っていたんです。その予行演習が『ペイル・コクーン』でした。そして『イヴの時間』でも、最初は歌うか楽器を演奏するシーンをやりたいと思っていたんです。それで喫茶店っていう舞台と、実現可能な難易度。それにギターとかロックっていうと、もう散々あちこちでやられているじゃないですか。という事で『イヴの時間』ではピアノを弾くことにしました。後は音楽を使った演出という点でいうと、劇場版『イヴの時間』では主題歌をkalafinaさんが歌ってくれているのですが、一番最後に彼女たちを使ったちょっとした仕掛けがあるので、そこもぜひ見ていただきたいですね。

ibu06.jpg(c)2009/2010 Yasuhiro YOSHIURA / DIRECTIONS, Inc

──作品を作る時に大切にするのは、どういう部分でしょうか。

吉浦 僕はお話が破綻していたら、すぐに突っ込みたくなっちゃう。例えばピクサーが『トイ・ストーリー』を作るときに、徹底的にストーリーを作りまくったという話があるのですが、やっぱりまずは物語なんじゃないかなと思うんですよ。物語の作り方とか、企画の立て方とかはピクサーさんを尊敬しています。

――吉浦監督の作品は、一見強い作家性を感じさせながらも、実はエンタテインメント志向なんですよね。

吉浦 自分はエンタテイメントの方が好きなんです。だから作家としてツボを押さえつつも、エンタテインメント作品として完成させる、というのが自分の理想ですね。

■『イヴの時間 劇場版』の見所は?

――先程話に出てきた『イヴの時間 劇場版』なんですが、Web配信版からどう変わっているのかをうかがいたいのですが。

吉浦 まずは、とりあえず全6話を繋げてみたんです。改めて観てみると、オムニバス形式の一応完結してる物語になっていたのですが、それだけでは映画館で観る意味はないと感じたんです。そこで、とにかく新規カット追加と編集の力で6本の話を1本筋の通った話にする。しかも、その新規シーンを個別に見ていくとそこに一つのバックストーリーが見えてくる。そういう仕組みの作りに変更しました。さらにWeb配信版で描ききれなかったものを描けた、というのが嬉しかったですね。「イヴの時間」というお店が何なのか。ナギさんって何者なのか。

──より密度が濃くなったドラマが楽しめるという感じですね。

吉浦 音を全面的に強力にして、映画館でしか体験できないような立体的な音響にしたり。あとは、1話の完成から6話の完成までの間が1年くらいあったので、やっぱりいま観てみると、1話の絵作りが甘い。ということで、6話までに培った技術を使って、大きな画面での鑑賞に耐えられるよう一から再撮影しています。その他、新規シーン以外でも、作画が不満足な部分が何箇所かあったので手直しを入れています。幸いいまはデジタル技術を使って、比較的楽に書き直せるので。とにかく決定版みたいな形で作っていきました。

――それにしても面白いですよね。既存のアニメ業界的なところからスタートせずに、Web主導で作品が展開して最終的に劇場作品にまでなってしまった。

吉浦 そうですね(笑)。ただ、最近はWeb配信をするアニメもけっこう増えてきたじゃないですか。もしかしたら、今後はテレビ放送が前提ではないプロダクションアニメが普通になるかもしれないですよね。すでに現在も、テレビでは月1放送で、Webと渾然一体になった作品もありますから。
(後編につづく/取材・文=有田シュン)

■『イヴの時間 劇場版』
<http://timeofeve.com/>
3月6日(土) 池袋テアトルダイヤ、テアトル新宿(3/6~12限定レイトショー)
春休み テアトル梅田

■「GyaO!」オンライン試写会
「イヴの時間 劇場版」オンライン試写会
<http://gyao.yahoo.co.jp/lot/anime/timeofeve/>
実施中~2月28日(日)午後11:59ごろ

■ニッポン放送主催試写会イベント
ネクスト・リアル1 『イヴの時間~上映&トーク~』
<http://ent.pia.jp/pia/event.do?eventCd=1002722&perfCd=001>
公演日:2月19日(金) 開演 午後7:00 開場 午後6:30

※詳細はリンク先を参照。

イヴの時間 オフィシャルファンブック

あわせて読む。

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最終更新:2010/02/20 01:44
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