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荻上チキの新世代リノベーション作戦会議 第1回

“エセ経済学者”に踊らされないために必要なことってなんだろう?【前編】

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──若手専門家による、半熟社会をアップデートする戦略提言

■今回の提言
「専門家よ。書を手に、街へ出よ!」

ゲスト/安田洋祐 [経済学者、政策研究大学院大学助教授]

──政治経済から社会のインフラ、インターネットの使われ方まで、あちこちガタの来てる日本社会。そんな状況を打破すべく、これから躍進が期待される若手論客たちが、自身の専門領域から日本を変える提言をぶっ放す新連載がスタート。第一回は、ゲーム理論を使って日本のシステム更新をはかる安田洋祐さんから、同胞たる専門家たちへの提言です。

荻上 さまざまなシステム不全を起こしている現代社会に切り込むべく始まったゲスト対談連載「新世代リノベーション作戦会議──若手専門家による、半熟社会をアップデートする戦略提言」、ホストの荻上です。第1回のお相手は、経済学者の安田洋祐さん。誰もが認める経済学界のサラブレッドにして、日本におけるメカニズムデザイン理論・ゲーム理論研究の先駆者です。

 安田さんの専門であるゲーム理論は、ミクロ経済学、広くとらえれば社会科学の中でも特に重要なセオリーといえるもの。「囚人のジレンマ」で知られるように、まず市場なり社会状況なりをシンプルな「ゲーム」に見立てます。そして、それぞれのインセンティブ(誘引)に基づいて行動するプレイヤーたちが、「ゲーム」のルール(制約)の中で戦略的な行動を取るさまを分析する。1950年代冷戦体制下の軍略分析、たとえば核抑止議論などで注目されていたのが有名ですが、この数十年での発達も目覚ましいと伺っています。

 社会科学の目的はいろいろですが、人間集合の行動原理を明らかにした上で、より多数の人が満足できるような社会への最適な道筋を考察する、という理念が薄ぼんやりとあるようには思います。社会科学といっても幅が広すぎなので、怪しいのもたくさんありますけど(笑)、中でもインセンティブ体系に注目し、その設計にもアプローチできるゲーム理論は、数ある理論の中でも非常に「使える」ツールです。

安田 あらゆるものを数値や合理性に還元して進める経済学者の議論は、一般的には「冷たい」とも言われがちですが、その分、ほかの社会科学に比べ、論点や現状をクールダウンして整理するのに長けています。理由はいくつかありますが、ひとつは立脚すべきデータがはっきり取れるため。そしてもうひとつは、対象を素朴に観察して解釈しようとするのではなく、数字という汎用性の高い表現に落としこむ作業を挟むためです。ゲーム理論も、こうした利点を備えた優れたアプローチですね。

荻上 数値データを共有してから議論をするので、実証性も高く、解釈対象もはっきりしているので論点がクリアになるんですね。僕も著書などで携わっている、「いじめ」に関する議論を例に取ってみます。

 多くのいじめ論は、いじめっ子やいじめられっ子の資質、たとえばソーシャルスキルの有無であるとか道徳性の欠如などに注目してしまいます。しかしゲーム理論的な見方をすれば、そこにいるプレイヤーに何かしらの「いじめをしたくなるインセンティブ」が存在していることを見いだせる。そして、その「ゲーム」のあり方を変えてあげることで「いじめを直す」という発想ができるようになる。導かれる具体的な方法としては、ペナルティを用意するとか、学校選択制などによりゲームから降りやすくすることで、プレイヤーの振る舞いを変えてあげるなどですね。

 いじめをめぐる議論は象徴的ですが、社会科学が取り扱うテーマの多くは、議論への参入障壁が著しく低い一方で、炎上係数がとにかく高い。語り手の内面やイデオロギー、信仰などが密接にかかわるため、とてもホットになりやすい。そうした議論に対して、ゲーム理論的な思考は、議論そのものをクールダウンさせると同時に、具体的にどの方法が効果的なのかという議論へとスムーズに移らせることができる。

安田 そうですね。客観性と論理性は、ゲーム理論の大きな武器だと思います。ゲーム理論は、数学者フォン・ノイマンと経済学者モルゲンシュテルンの共同研究によって20世紀半ばに生まれた、かなり新しい学問分野です。”ゲーム”理論と聞くと、「ゲーム=遊戯=子供の遊び」というような連想で、何やら大人が真剣に分析する学問対象に思えないかもしれませんが、彼らのアプローチは非常に画期的でした。それは、「複数の参加者(プレイヤー)が独自に戦略を決定し、その戦略の組み合わせに応じた得点(「利得」)が各プレイヤーにもたらされる」というゲームの基本構造が、ジャンケンやチェスなど、僕たちがイメージするいわゆる”ゲーム”を超えて、さまざまな社会・経済現象に対応している、というものです。

最終更新:2010/05/10 10:00

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