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『若年者就業の経済学』太田聰一教授に聞く

ポスト・バブル世代の若者は、就職でどれだけ「損」しているのか?

41WWmtPELtL.jpg『若年者就業の経済学』
(日本経済新聞出版社)

 昨年10月に厚生労働省と文部科学省が発表した全国の大学生の新卒内定率は、過去最低の57.6%だった。これは就職氷河期を上回る数値だ。このように、1990年代後半から深刻化してきた日本の若年者雇用問題。それを経済学の視点から分析し、日本独自の雇用システム、今後の若年雇用対策についての考察などがまとめられた『若年者就業の経済学』(日本経済新聞社)が今冬に出版された。著者は、労働経済学を研究している慶應義塾大学経済学部の太田聰一教授だ。これまで漠然としていた若者の就職難の実態をデータとロジックでの説明する同教授に、生まれた年や学校を卒業した年によって、就職の機会にどれほどの違いがあるのか? 世代間格差とはどのようなものなのか? などについて聞いてみた。

――まず、若年者の雇用問題に関心を持った経緯を教えていただけますか?

太田聰一教授(以下、太田) 私はバブル経済になるちょっと前に大学を卒業した世代ですが、その時代は、就職状況が良く、私の友人なども良い会社に入った人が多かった。一方、バブル崩壊後の世代は、バブル期に就職した人と比べると明らかに損をしているんじゃないか。そして、希望通りの職種に就いていないゆえ、景気が良くなったら会社を離れる人が多いんじゃないかと。まず、そういった離職問題に関心を持ちました。

――実際にはどうだったのでしょうか?

太田 調べてみると、やはり景気が良い時の世代は、求人が多く、選択肢がたくさんあったので、同じ会社に定着する傾向が強いことが分かりました。逆に、景気が悪い時に就職した世代には、自分にとって望ましい職に就けなかった人が多く、職場内でトラブルがあるとすぐに辞めるなど、離職傾向が非常に強いことが分かりました。こうした若年の離職傾向が強まり始めた時代は、「若い人の堪え性がなくなった」「今は豊かな時代だから、ちょっとのことでもすぐに辞めてしまう」などという、その要因を本人の資質や時代性に集約してしまう見方が大半でした。しかし、私はそれはあまりにも一方的な見方なんじゃないか、奥を探れば、若い人にとっての仕事が、質や量の面で十分でなく、仕事が選びようのない中で発生している出来事なのではないかと考えていました。そしてそのことを、実際の離職率データを使って確認しました。

――離職傾向が強いというほかにも、不況期に就職した世代が抱える問題はあったのでしょうか?

太田 離職だけでなく賃金に関しても、不況期に就職した世代は、すごく損をしているんじゃないかと考えました。その時に、ちょうど私と似通った関心を持っていた東京大学の玄田有史教授、大阪大学の近藤絢子先生と本格的に賃金に関する「世代効果」を分析するようになりました。一方で、私は企業の側に立って、企業はどうして不況になると、若年の雇用を抑制するのか、そちらも研究しました。

――先ほど、お話の中に出た「世代効果」とは、何でしょうか?

太田 世代効果というのは、学校を卒業する時点での景気の良し悪しなどの条件が、その後しばらく経ったとき、賃金にどれだけダメージを与えているか、または離職率がどれだけ上がっているかなど、世代による経済的ロスを調べる考え方のひとつです。

――経済的ロスは、具体的にはどのように現れるのでしょうか?

太田 例えば、中学・高校卒の場合、卒業時の失業率を不況を示すひとつの指標としたとき、失業率が1%高くなると、その後12年以上にわたって実質年収はおおよそ5~7%程度持続的に低くなることが分かりました。大卒の場合はまだましですが、若干の賃金の低下が見られます。学校卒業時の不況は、学歴が低い人に対して、より大きな経済的ロスを生じさているのです。そもそも不況期では、中学・高校卒業の時点での求人が少なく、無業状態に陥る人が多いわけです。

――賃金のほかにはどのようなものに、影響が現れるのでしょうか?

太田 職に就けるか否か、また雇用形態(正規雇用、非正規雇用)、離職・転職行動、ほかにもいったん無業になってから、再び職に就ける期間がどれくらいかなどにも世代効果は現れます。例えば、最近の実証分析によれば、この不況下で一度フリーターになった者はその後も低所得に甘んじる傾向があり、フリーター状態から脱し難くなっていることが分かっています。

■必要なのは新卒採用の改革? ワークシェアリング?

――一見当たり前のようなことですが、生まれた年という、自分の資質や努力などとは無関係の要素によって、就職に関する大きな世代間格差が生じているとは、確かに不平等だし、機会不均等です。こうした状況に対して、政府はどのような政策を行っているのでしょうか?

太田 今、政府が考えていることは、新卒採用の扱いが非常に大事であると。今は、新卒と認められる期間は非常に短く、その間に就職が決まらずに学校を卒業してしまう人がいる。すると、企業側は彼らを中途採用で扱おうとするのですが、実際には実務経験もなく、企業に売り込むだけのスキルがない、中途半端な立場になってしまいます。現在、政府が「卒業後3年間は新卒として見なしてほしい」と企業側に要請している背景には、そうした実態があるのです。これを推進するために、政府は「3年以内既卒者トライアル雇用奨励金」などの補助金を設けたりしています。

――こうした過酷な状況の中で、学生自身はどのような対策を採っているのでしょうか?

太田 就職できないまま卒業すると中途半端な状態になってしまうので、留年をして卒業を延ばします。1年後の景気がどうなるかは分かりませんが、そのまま卒業するよりは、もう一度チャレンジするという選択をします。これは、私立大学でも国立大学でも共通にして見られる現象です。

――先生が考えている政策はありますか?

太田 小手先のことをやっても根本的な解決はできないわけですから、非常に当たり前なのですが、企業の経営状態を良くして、正社員の求人が増えるようにならないと難しいと思います。新卒者の扱いなどを変えたところで、結局は少ない正社員というパイをみんなで奪い合うような話になりかねませんからね。あとは、教育や訓練で若い人たちの能力をできるだけ高めて、企業に「それだけ若い良い人材がいるなら雇用しよう」という風に思わせることが大事だと思います。

――その他にはありますか?

太田 いま生じている深刻な問題は、まだ雇われていない若年の人たちにしわ寄せが集中してしまっていることです。それに対して、すでに正社員として雇われている人が、自分たちの有利さというものを一切手放さないで良いのかという点は、もう一度考えてみてもいいのではないかと思います。つまり、雇用というものがそう簡単に増やせるものではないとしたら、一部の人たちに負担させるのではなく、ある程度みんなで負担を分かち合う必要があるんじゃないかと思います。

――それはワークシェアリングなどですか?

太田 ワークシェアリング的なものは、ひとつ考えられると思います。正社員と非正社員が何らかの形で仕事をシェアするようなことは、まだ十分には研究されていない、またそう簡単にできるかどうかは分かりませんが、方向性としてはあり得る話だと思います。それから、正社員と非正社員という両極端の中間に、もっと多様な働き方を作り出していくことも有効かもしれません。

――一方で、新卒の一括採用なんて辞めてしまえばいいという意見
もあります。

太田 そういう主張も分からないではないです。ただ、その一方で新卒一括採用がない国では、若年の失業率が低いかというと、必ずしもそうではない。新卒一括採用は、ある期間に、教育機関を含めたいろんな機関が、企業と若い人をうまくマッチングさせようとするので、そこの面だけ見れば割とスムーズに流れている部分もあるんです。ただ、そこからあぶれた人にもう少しオープンにチャンスを拡げることが大事だと思います。

――本書出版後の反響はいかがですか?

太田 私の両親は、データが多いので、はっきりと面白くないと(笑)。読者からはあまりまだ批判はないのですが、あり得る批判としては、あまりに当たり前のことを言っているということでしょうか。他には、企業の活力を高めて、求人を増やせというメッセージを含んでいるので、話が企業に対してばかりで、若い人のサポートがおざなりになっているんじゃないかという批判はあると思います。僕はあえてそれを否定はしません。苦労している若い人のサポートばかりしても、結局、それを受け入れる側の企業が元気になってもらわないといかんともしがたいですからね。

***

 本書は、データが豊富で若年雇用の問題を考えるには必読の一冊である。統計に明るい読者ならば、実際に使用した統計解析の数式も詳述してあるので楽しめる。いわゆるロスジェネ世代の著者は、政府に一日も早いデフレからの脱却、そして求人が増えることを期待したい。
(取材・文=本多カツヒロ)

●おおた・そういち
1964年京都市生まれ。京都大学経済学部卒業。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス博士課程修了。名古屋大学助手、講師、助教授、名古屋大学大学院経済学研究科教授を経て、慶應義塾大学経済学部教授、ロンドン大学Ph.D.

若年者就業の経済学

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最終更新:2011/01/26 09:51

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