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写真家・小林伸一郎が切り取る瀬戸内の穏やかな日常『島波』

shimanami.jpg『島波 瀬戸内景』(講談社)

 昨年開催された「瀬戸内国際芸術祭2010」には、現代芸術のフェスティバルにもかかわらず、93万人もが訪れた。距離的に近い広島や大阪はもちろん、東京からも数多くのアートファンが押し寄せ、地方で開催される芸術祭としては異例の大成功を収めたことは記憶に新しい。この芸術祭の成功や、しまなみ街道から眺める美しい風景など、観光地としての瀬戸内には近年注目が集まっている。

 大小合わせて3,000もの島々が点在する瀬戸内。日本のエーゲ海と比喩されるその美しさは、以前から小津安二郎や大林宣彦、木下恵介、そしてヴィム・ヴェンダースまで多くの映画人を魅了してやまない。そんな瀬戸内の素朴な風景や、そこに暮らす人々の生活のワンシーンを切り取った写真集が小林伸一郎による最新刊『島波 瀬戸内景』(講談社)だ。

 青々と広がる海や、緑に覆われた島々、そしてノスタルジーを覚えさせる古ぼけた街並みを背景に写し出された人々の姿は、あたかもタイムスリップをしたような錯覚にさせられる。離島の堤防で犬の散歩をする老人、海水浴場ではしゃぐ子どもたち、桟橋で連絡船を待つセーラー服の女子学生など、ゆるやかな時間の中で生きる人々の顔はどこか生き生きと魅力的に感じられる。もちろん、代表作である『廃墟遊戯』(メディアファクトリー)や『亡骸劇場』(講談社)などで高く評価された小林氏の得意とする、廃墟や産業遺産などの写真も豊富に盛り込まれている。

 あとがきにて、小林氏は瀬戸内への思いを述べている。若き日に氏が放浪の旅をしたという瀬戸内。しかし、30年の歳月を経て眺めたとき、その姿は大きく変わっていたという。かつてはアートシーンで最も話題を集める場所でもなければ、日本の技術力の粋を集めて建設された橋も架かっていなかった。昔日を追体験するかのように、この写真集には、最新の観光地としての瀬戸内は存在しない。ここに存在するのは、日本の原風景とも言えるような瀬戸内の穏やかな日常であり、30年前となんら変わることはない瀬戸内に生きる人々のあるがままの暮らしである。この写真集に掲載されているのは、瀬戸内に生活する無名の人々のポートレートであり、人々の息遣いや手触りが感じられる産業遺産や風景写真だけである。

 時代の波を逃れた風景は、いつもわれわれの心を魅了してやまない。「流行の観光地」として消費される風景としての瀬戸内ではなく、永遠に続く日常として『島波』の風景はまぶしく輝いている。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])

●こばやし・しんいちろう
1956年生まれ。講談社出版文化賞写真賞、コニカ写真奨励賞、東京国際ビエンナーレ・キヤノン賞などを受賞。主な写真集に「亡骸劇場」「東京ディズニーシー」「廃墟遊戯」「軍艦島」「Tokyo Bay Side」など。

島波 瀬戸内景

美しき日本。

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最終更新:2013/09/17 21:02
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