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【元木昌彦の「週刊誌スクープ大賞」第93回】

原発事故「みんなも無責任であるのです」議論を呼ぶ小学6年生”ゆうだい君”の投稿

motoki110601.jpg「週刊現代」6月11日号 中吊り広告より

第1位
「悪いのは東電ですか、政府ですか、それとも国民ですか」(「週刊現代」6月11日号)

第2位
「食べていいものはこう見分けろ!」(「週刊朝日」6月10日号)

第3位
「法定基準50ミリシーベルトが安全なら息子はなぜ死んだ」(「週刊文春」6月2日号)

 原発事故の処理が長引く中、政府・文科省が発表する放射線の数値に疑問の声が次々挙がっている。

 その上、安全だとされる年間被曝量20ミリシーベルトにも、高く設定しすぎていると、福島県内の子を持つ親たちからの怨嗟の声も大きくなり、ついに文科省は年間1ミリシーベルト以下に抑えることを目指す方針を打ち出した。

 今週の3位は、浜岡原発で働いていた長男が白血病になり、2年以上も闘病を続けた末に亡くした母親の話である。

 長男は、静岡県の浜岡原発で働いていた1989年11月に、慢性骨髄性白血病と診断された。全身に痛みが広がり80キロあった体重が50キロ台まで落ち込んだ。

 彼の仕事は原子炉の計測器の保守・点検だったが、約9年間の勤務での累積被曝量は50.63ミリシーベルト、年間被曝量は最大でも9.8ミリシーベルトに過ぎなかったのだ。

 母親の手元に長男の放射線管理手帳が戻り、見てみると、白血病と診断される1年半前に、血液検査で異常な数値の白血球数が判明していたにもかかわらず「異常なし」と記載されていた。

 その後、長男の死は被曝による労災だと磐田労働基準監督署に認定を申請して、翌年認められる。国が長男の死と原発労働に因果関係があると判断したのである。

 しかし、「被曝から数年後に発病した場合、現在は白血病以外、放射線に関する労災認定には明確な基準がないのです。例えば肺がんでは、炉内汚染の証明までされたのに、労災が認められなかったケースもある」(海渡雄一弁護士)。数年、10年、20年後にがんが発病しても、東電や国に、原発事故との因果関係を認めさせるのは難しいかもしれないのだ。

 だから、今すぐに、万が一を考えて、子どもたちだけでも安全な場所へ移すべきなのだ。

 第2位は、広がり続ける放射能汚染の中で、口に入れてもいいものはこう見分けろという、「朝日」の記事。

 小見出しごとに見ていこう。

「大型魚の放射線量は遅れてくる 汚染度チェックの指標はヒラメ」。「ヒラメは、移動の少ない底魚で、寿命が長く、日本中の沿岸にいる。セシウムの濃縮係数も高く、生物学的半減期も長いので、目安になります」(海洋生物環境研究所の中原元和研究参与)

「魚の骨を食べるとまずいの? ストロンチウム90に気をつけろ」では、「シラスや小アジなど丸ごと食べる小魚は、汚染の有無を確認する必要があります。カサゴなど骨のままで食べる場合も、気をつけたほうが良いでしょう」(日本大専任講師の野口邦和氏)

「葉物野菜、果物、根菜……『汚染度要注意』なのはどれ?」。学習院大理学部の村松康行教授は、断定はできないがとして、こう話す。「過去の実験では、葉菜類よりもニンジンやダイコンといった根菜類のほうが、土中のセシウムを吸収しにくいことがわかっています」

 そのほか、野生のキノコや山菜にはご用心。チーズやヨーグルトは大丈夫だそうだ。面白いのは、日本酒なら大吟醸に限ると書いている。なぜなら、ぬかと白米のセシウムの含有比率はおよそ9対1だから、同じ日本酒でも、より精米の度合いを高めた純米大吟醸などの方が放射性物質の影響は少ないのではないかと、編集部は推測する。だが、日本酒造組合に確かめてみると、「そのような推測は成り立ちますが、実証するデータはありません」。日本土壌肥料学会の見解も、「大吟醸でも普通の日本酒でも、セシウムの濃度に差はないと思われます」とつれない返事。まあ、セシウムを気にして飲むより、飲みすぎに注意する方が体にはいいはずだ。

 今週の第1位は、毎日新聞の小学生新聞編集部に届けられた、都内に住む小学6年生の「投書」をめぐる少々重たい話だ。

 その投書は、同紙の3月27日付紙面に掲載された元毎日新聞論説委員で経済ジャーナリスト・北村龍行氏が書いた「東電は人々のことを考えているか」というコラムに反論するものだった。

 北村氏は、東電という会社が起こした原発事故が、日本社会に与えた影響の大きさをつづった後、自己処理につまずいていることを指摘し、その理由を、東電が地域独占で競争がなく、危機対応能力を磨く訓練を受けていなかったからだと書いた。

 これに対してゆうだい君(仮名)は、父親は東電社員と名乗った上で、こう反論している。

「(北村氏のコラムを読んで)無責任だと思いました。(略)原子力発電所を造ったのは誰でしょうか? もちろん東京電力です。では、原子力発電所を造るきっかけをつくったのは誰でしょう。それは、日本人、いや、世界中の人々です。その中には、僕も、あなたも、北村龍行さんも入っています」

 こう書いた後、少年は、発電所が増えたのは、日本人が電力を過剰に消費してきたからであり、中でも原発が増えたのは、地球温暖化を防ぐためだと主張する。ここまでは原発推進派と同じ理屈だが、少年は、地球温暖化を進めたのも世界中の人々で、だからとこう続ける。

「原子力発電所を造ったのは、東電も含み、みんなであると言え、また、あの記事が無責任であるとも言えます。さらに、あの記事だけではなく、みんなも無責任であるのです」

 ゆうだい君は、「僕は、東電を過保護しすぎるかもしれません」と、自分の立ち位置まで冷静に分析している。この投書が5月18日付で掲載されると、毎日新聞本紙に転載され、大きな反響を呼んだのだ。

 「現代」ではゆうだい君がした問題提起を、各方面に聞いている。保安院や東電社員は、よくぞ言ってくれたと大喜び。当の北村氏は苦笑。鎌田慧氏は「責任は東電と国にある」と反論。

 藤原正彦お茶の水女子大名誉教授はこう言っている。

「少年のほうが正しい。東電にも責任はあるけれど、彼らは政府や保安院、安全委員会など国家の基準に沿ってやってきた。その意味では国にも責任がある。しかし、一番責任があるのは国民です。原発はテロの危険性もあるし、他国では警察や軍が警備するのが常識。そういう体制がないのは、国民の危機意識が低いからです。だから、今回のような危機にも対応できない。(中略)あのコラムのように東電だけがクロというようなオール・オア・ナッシングではいけないのです」

 議論百出だが、多くは東電が悪いという意見だった。そして編集部はこう結ぶ。

「ゆうだい君、納得できないかもしれないが、その時は編集部に反論を送ってくれればいい。言ったこと、起こしてしまったことには責任を持つ。東電だけじゃない。それが大人の社会のルールなんだ」

 「現代」編集部もずいぶん大人になったじゃないか。そう思わせる好特集だと思う。
(文=元木昌彦)

motokikinnei.jpg撮影/佃太平

●元木昌彦(もとき・まさひこ)
1945年11月生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社入社。90年より「FRIDAY」編集長、92年から97年まで「週刊現代」編集長。99年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長を経て、06年講談社退社。07年2月から08年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(2006年8月28日創刊)で、編集長、代表取締役社長を務める。現「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催、編集プロデュースの他に、上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで教鞭を執る。

【著書】
編著「編集者の学校」(編著/講談社/01年)、「日本のルールはすべて編集の現場に詰まっていた」(夏目書房/03年)、「週刊誌編集長」(展望社/06年)、「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社/08年)、「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス/08年)、「競馬必勝放浪記」(祥伝社/09年)、「新版・編集者の学校」(講談社/09年)「週刊誌は死なず」(朝日新聞社/09年)ほか

「責任」はだれにあるのか

なすりつけ合いはもういいよ。

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最終更新:2011/06/01 16:06
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