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福島第一原発事故20km地域の”LOVE & PEACE” 幻のコミューン「獏原人村」の現在

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 通称「獏」こと「獏原人村(ばくげんじんむら)」をご存じだろうか?

 国道399号沿いにある獏林道と呼ばれる山道を4kmほど進んでいくと目の前に現れる「獏」は、共同生活でエコライフを送る場所、つまりコミューン的な伝説の村として一部の人の間で知られている。この村を有名にしているのは、毎年7~8月ごろに開催されてきた「満月祭」。これは、太鼓のリズムに乗って満月をながめることに始まった音楽と仲間のきずなを大事にする、LOVE & PEACEなイベントだ。ウワサは口コミで広まり、今や参加者が毎年1,000人を超える祭となっている。

 ところが、獏がある福島県双葉郡川内村は、一部が福島第一原発から半径20キロ圏内に引っ掛かるため、該当地域の住人たちはすでに避難している。大手マスコミでは報道されることのないこの村の現在がどうなっているのか、現地を取材してきた。

 川内村の避難住民の一時帰宅が始まった5月上旬、「獏」を訪れた。

 県道から脇道に入り、砂利道の続く獏林道を抜けて村にたどり着いた。急斜面にいくつかの建物があり、鶏小屋も見える。畑を開墾し、数百羽の鶏を放し飼いすることで生計を立てる農業共同体は、震災以前と変わることのない姿でそこにあった。車から降りて建物の方へ近づいていくと住居の前に女性の姿が見えた。

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「卵を買いに来ました」

 女性に向かって声を掛けると、驚いたような表情を見せた。この女性は獏に暮らすボケさん。獏を立ち上げたマサイさんの奥さんだ。そもそも獏は、1977年にマサイさんがヒッピーコミューンを目指してこの生活を始めたことに端を発する。30年以上が経過しているが、いまだ当時の理想「何ごとも無理せず、自然のままに、楽しく」を実現するためこの暮らしを続けているのだ。

 突然の訪問者に驚きながらもボケさんはうれしそうな顔を見せ、「ちょっと待ってね」と卵を取りに建物に入って行った。

 自給自足がベースにある「獏」では卵を一個40円で販売している。そのことを知っていたとしても、わざわざ道なき道を越えての訪問者はこの時期に皆無だろう。

 卵を手に持って戻ってきたボケさんに、過去に満月祭に参加した経験があり近くまで来たので村の様子が気になって訪問したことを伝えると、急に「ああ、そうなんだ」と納得した表情になった。

「お茶でも飲んでいきなさい」

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 謎の訪問者の正体が分かった途端にそう言って家に招き入れてくれた。そして、現在の生活について語ってくれた。村に残るのは、マサイさんとボケさんの夫婦だけ。夫のマサイさんは満月祭の中心メンバーでもある。私が訪問したとき、マサイさんは卵の配達で留守だった。

 本当はもう一組、3人家族が住んでいるが、お子さんが小さいとのことで奥さんの実家に避難しているという。

 マサイさんボケさん夫婦も震災発生当初はいったん避難したそうだが、鶏が心配で戻ってきた。今のところかろうじて20キロ圏内に入っていない「獏」は自主避難エリアであり、戻ろうと思えば戻ることはできるため、鶏の世話を優先して出した結論なのだという。だが、福島第一原発の放射能は心配ではないのだろうか。

「これ、ずっとつけっぱなしなんだけどね」

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 ボケさんはそう言ってガイガーカウンターを取り出した。震災直後は警報アラームが鳴りっぱなしだったが、現在は数値も落ち着いているとのことだった(周辺エリアの計測値は毎時0.3~0.4マイクロシーベルト)。

「近いからといって放射能が強いわけではないのよ」

 ボケさんが言うように、放射能数値は距離に比例するわけではないことはすでに報道されていたが、目の当たりにすると納得せざるを得ない。ボケさんは鶏がいる以上は避難できないし、子どもたちも自立しているのでこの場所にとどまると話してくれた。

 今年の満月祭はどうなるのかを尋ねると、「お父さん(マサイさん)はやるっていってたよ」とのこと。留守中のマサイさんにはこのとき話を聞くことはできなかったが、ボケさんの話によれば決意は固いという。

「でも、原発のこともあるからこじんまりとやるみたい。さすがに大々的にはできないから」

 私はボケさんにお礼を告げ、卵を購入して村をあとにした(取材を終えて食べた卵は、本当に美味しかったです)。

 原発事故は自然と一体化した「獏」の暮らしだけでなく、マサイさんボケさん夫婦の理想さえもかき消そうとしている。それほどの大事故であったことを、今一度胸に刻む必要があるだろう。その一方で、大きな困難にも負けずに立ち向かおうとする人たちがいることも忘れてはならない。
(取材・文=丸山ゴンザレス/http://ameblo.jp/maruyamagonzaresu/

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最終更新:2013/09/12 17:16
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