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荻上チキの新世代リノベーション作戦会議 第15回

政府が復興の妨げに!? 肥大化した政府が生んだ地域医療への障害とは?【前編】

──若手専門家による、半熟社会をアップデートする戦略提言

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■今回の提言
「政府でなく県でもなく 地域主導で被災地医療を!」

ゲスト/上 昌広[医師]

 病院間のたらい回しや医師不足など、現行の医療制度の穴はこれまでも指摘されてきた。そして東日本大震災以降、平時を上回る、医療をめぐるトラブルが被災地では発生し続けている。健康調査等のためにたびたび福島県へ赴いている医師・上昌広氏に、医療ガバナンスの観点から、今回の被災地医療における最大の問題点を問う。

荻上 東日本大震災からの復興に際して、新しい経済的支援の枠組み「CFW(キャッシュ・フォー・ワーク)」を紹介した前回に続き、今回は医療の問題にスポットを当てます。お尋ねするのは、医療ガバナンスをご専門にされている東京大学医科学研究所特任教授の上昌広先生。震災発生直後から精力的に福島県に入られて医療支援活動に携わりつつ、独自の地域医療ネットワークを駆使し、編集長を務められるメールマガジン「MRIC」(by 医療ガバナンス学会)をベースに、「何が現場で求められているのか」についての情報発信を積極的になされています。

 震災を機に、医療をめぐる現行制度の難点が多く露呈しました。東京電力福島第一原発事故による、放射能流出の影響に関する専門的情報をどう一般の人々に向けて発信していくかなど、応答責任の面でも課題が示されています。まずは、南相馬市などでの活動から見えてきた、原発事故とその対応が引き起こした、福島県内の医療現場への具体的影響について、教えていただけますか。

 はい。ご存じのように、政府は事故当初、福島第一原発の半径20キロ圏内を「避難対象区域」に、半径30キロ圏内を「屋内退避区域」に定めました。この枠組みがそのまま4月下旬に、法的に立ち入りが禁止される「警戒区域」と、立ち入りは自由だけど指示があればすぐに屋内退避ないし避難できるよう準備しなければならない「緊急時避難準備区域」に移行しましたが、このことが大きな問題を引き起こしています。

 例えば、南相馬市の中心市街である原町区は、屋内退避が解かれて緊急時避難準備区域になりましたが、ほとんどの学校や病院は閉鎖されて、入院できる病院がひとつしかなく、毎日のように患者のたらい回しが起こっています。民間の中小の病院は4~5つあるんですが、スタッフを雇ったままでの待機状態ですから、このままでは資金的にも枯渇して倒産してしまう。もともと医師の数が極度に少ない地域なのですが、病院が潰れると働き口がなくなって、ますます医師が離れてしまいます。

 後になって公開された米軍や文部科学省の測定による実際の放射線量の測定結果によれば、放射性物質の拡散は、ほとんど原発から北西の山間部の方角に集中していました。つまり、汚染は30キロ圏外の飯舘村などがより深刻である一方で、3キロくらいしか離れていない真北の南相馬市の沿岸部は、東京などと変わらない。これは文科省のSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)による予測結果とも、おおむね合致していました。

 政府がもっと早くSPEEDIの結果を公開して措置を取っていれば、もっと合理的な避難政策がとれたはずではないかと強く思います。そうできなかった結果、片や1カ月以上も退避せずに大量の被ばくをしてしまい、片やあまり被ばくの心配がなかったのに十分な救命活動が阻害される地域が出てしまった。このような形で、原発事故による医療面での「人災」は拡大してしまったのです。

■情報開示の遅れと避難策が招いた健康被害の実態

荻上 政府・東電による情報開示の遅れと、地域の個別性への解像度の低い対応の結果、人工的な無医村状態が作られようとしているわけですね。4月下旬になってようやく飯舘村や浪江町の地域が「計画的避難区域」に指定されました。上先生は、こうした地域に医療支援に行かれていますが、そこでは具体的にどのような問題が判明したのでしょうか?

 飯舘村と、東隣の相馬市玉野地区で、5月に健康相談会を行いました。人体が影響を受ける放射性線量は日本家屋の中で50%、鉄筋コンクリートなら10%まで下がるのですが、SPEEDIの結果に基づく屋内退避の対処が行われなかったゆえに農家を中心とした住民の140人以上が震災後1週間は1日508時間ほど屋外で作業しており、放射性物質の乗ったホコリを大量に吸い込んでしまったものとみられます。これは非常に大きな問題で、内部被ばくの影響の調査など、後世に教訓を残すためにも継続的なケアが必要です。

 ただ、被ばくの影響は基本的には何年か後の発がんリスクの増大に行き着くわけですが、特にお年寄りにとって差し迫った問題は、その後に長期にわたって屋内退避生活を強いられたことでした。家の中に閉じこもっていたせいで運動不足になって血圧が上がったり、糖尿病が悪くなったりというケースが目立ちました。この地域はもともと脳卒中なんかも多く、放射能の影響による、なるかどうかもわからない将来のがんの可能性を懸念するあまり、むしろ予測もつかない現在の合併症を引き起こしてしまった側面もあるわけです。

 このように医学的合理性をベースに考えるとき、子どもや若者はまだしも、土地に愛着を持って暮らしている高齢者を一律に集団疎開させるのはどうかと思います。飯舘村の人たちは今、コミュニティから切り離されて福島市や伊達市に移住させられ、ワンルームマンションみたいなところに押し込められて、仕事もありません。そこで屋内退避時と同じように、運動不足になり、かえって健康を害してしまっている。それなら、放射能のリスクとうまく付き合えるようにアドバイスした上で、それまでの暮らしを続けられるような支援をすべきなのではないかと。

 避難の在り方も、地域住民各人に勧告でなくて十分話をして、その方々が避難したいと思うなら、国の責任ですからサポートすればいい。

最終更新:2011/08/04 15:30
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