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フィリピン貧困層に助けられながら生きる”困窮邦人”『日本を捨てた男たち』

konkyu_hojin.jpg『日本を捨てた男たち』(集英社)

 「フィリピンへ移住」と聞くと、どんなイメージをするだろうか。

 年中温暖な気候の南国で、会社をリタイアした老夫婦が物価の安さを利用し、大きな家を買ったり借りたりして悠々自適に暮らす……。

 個人的な妄想をいえば、こんな感じだ。

 しかし、本書『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』(集英社)には、そんな夢のような世界で生活をする人々は登場しない。異国の地でホームレス状態で暮らす、”困窮邦人”と呼ばれる日本人が主人公なのだ。彼らは無一文で、現地の人にお世話になりながらその日暮らしを続けている。

 そもそも「困窮邦人」とは、海外で経済的に困窮状態に陥っている在留邦人のこと。2010年に在外公館に駆け込んで援護を求めた邦人数は、全世界で768名にも上る。

 中でもフィリピンの困窮邦人数は332名ともっとも多く、2位のタイ92名を大きく引き離す。また、2001年から10年連続最多で、他の国を寄せ付けない重症さだ。

 著者の水谷竹秀氏は、04年からフィリピンの「日刊マニラ新聞社」で働く記者。取材生活をする中で彼らに興味を持ち、追いかけ始める。

「異国の地でこんな惨めな状態になって、一体どんな思いで日々生きているのか」

 当初は、そんな短絡的な発想があったものの、何かそれだけではない、惹き付けられるものがあった。

 本書には、水谷氏が出会った5人の男性困窮邦人が登場する。

 日本のフィリピンパブで出会った女性を追いかけてフィリピンに来たものの、お金を使い果たしてしまった48歳。知人に紹介されたフィリピン人女性との婚約が偽装結婚だった58歳。暴力団に500万円以上の借金をつくり、それから逃れるために国外逃亡してきた37歳……。

「助けて下さい、お願いします」
「日本の弁当を届けて下さい」
「空腹で意識が飛びそうになります」

 1年以上にもおよぶ取材中、何度となく繰り返されたのは、援助の懇願、甘えにも似た要求。そして唐突に浴びせられる罵倒。彼らへの同情心も次第に薄れ、彼らと対等に向き合っていない自分自身との葛藤もあった。

 水谷氏は、本人だけでなく、周辺の人や日本で暮らす彼らの両親にまで会いに行く。その中に、困窮邦人のひとりが「神様みたいな人」と慕う、フィリピンのお母さんのような存在の人物がいる。彼は毎日、彼女の店の仕事を手伝わせてもらい、その代わりに、多少の賃金と、朝昼のごはんを分けてもらっていた。

 小太りで目が垂れ、いかにも人のよさそうなお母さんは、こう話す。

「私たちのような貧しい人は、自分たちがつらい経験をしたら、同じ経験をさせたくないと思います。金持ちには、貧しい人の状況を理解することはできない。(中略)だから、彼にはテーブルにある物は食べてもらっていいし、石けんやシャンプー、たばこぐらいはあげてもいい」(本文より)

 陽気で人懐っこいフィリピン人は、困窮邦人にも優しい。たとえ彼ら自身が貧しくとも、困っている人がいれば、まっすぐな優しさを与えている。

 モノは豊富だけれど、どこか閉塞感があり、助けを求めづらい日本。お金もモノもないが、笑いながら手を差し伸べてくれる人がいるフィリピン。

 私たちが、求める豊かさの先は……と、考えさせられる1冊だ。
(文=上浦未来)

●みずたに・たけひで
1975年三重県桑名市生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業。ウェディング写真専門のカメラマンを経て、2004年からフィリピンの日本語新聞「日刊マニラ新聞社」の記者を務めている。主に殺人事件や逃亡犯逮捕などの邦人事件、邦人社会に関する問題などの社会部ネタを担当している。2011年、本作品で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。

日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」

ある意味、しあわせ?

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最終更新:2013/09/09 17:47
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