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凶悪犯罪の真相

「秋葉原事件は止められた」加藤智大の手記から読み解く、現代社会の生きづらさ

中島 加藤は、地元の青森や仙台に中高からのゲーム仲間がいて、しかもメーリングリストでつながっている。友達と呼べる人がたくさんいたんです。もしかしたら、私が教えている学生の方が友達がいないかもしれません。しかも、勤務していた関東自動車の同僚を連れて、秋葉原ツアーを行ったり、伊豆にドライブに行ったりもしています。

――いわゆる“リア充”のような生活ですね。

中島 彼よりもコミュニケーションが下手で、友達がいない若者なんてたくさんいます。加藤はうまくやっている方なんです。なのに、彼は孤独だった。問題は友達がいないことではなくて、友達がいるにもかかわらず孤独だったことです。同じように、本書で加藤は「本音と建前」という言葉を何回も使います。現実は建前で、ネットは本音の場だと言っているんです。少し話は難しくなるんですが、これはジャン・ジャック・ルソーの問題に近いのではないかと思います。

――『社会契約論』を記したルソーのことですか?

中島 ルソーによれば近代人は内面と外観の世界の間にヴェールがかけられており、心と心でつながっていない状態です。私たちは内心ではものすごく怒っていても表面的に笑ってみたり、ものすごく愛しているのにすましてみたり、内と外が分断されていますよね。ルソーはそこに近代人の疎外を見だしました。この疎外感は他者と透明な関係でつながっていないという不全感と共に、自分自身を本当の自分から疎外しているという考えにつながっていきました。そこで、彼が理想とするのが「未開人」とされる人々。そして「子ども」。あるいは「古代人」です。つまり、近代の外部ですね。怒りたい時に怒り、笑いたい時に笑う。人間として、どちらが優れているだろうか……と彼は言います。

――加藤の目指す「本音の場」とは「未開人」のような関係だった。

中島 建前という外観を超えた関係ですね。心にかぶせられているヴェールをはぎ取った関係。彼は、ネットで同じネタを共有できれば、心と心の透明な関係を結べると思っていました。事件の大きな要因となるネット上の掲示板は、彼にとって心の関係を結ぶことができる場所だと思えたんです。彼はそこを「素の自分でいられる」「開放感があり、楽な場所」と書いています。

――しかし、心と心で結び合いたいというのは、加藤だけでなく、誰しもが持つ普遍的な感情ですよね。

中島 例えば自殺した上原美優は、ブログで「心友」という言葉を使っていました。彼女は心と心でつながり合った「心友がほしい」と書いていたんです。一方、自分に対しては「本当の美優はヤバイ」と自己嫌悪に陥っている。自殺との因果関係はわかりませんが、「心と心の透明な関係」や「本当の自分」という、加藤のような問題を抱えていたのは事実ではないでしょうか。こういった問題は、現代では普遍的な問題だと思います。

――しかし、現実では「心と心の関係」や「本音で話す」ということは、とても難しいですよね。そのための処方箋もないのではないでしょうか。

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