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電子書籍の"黒船"アマゾン上陸できない!?

電子書籍の販売数はふた桁増! キンドル販売を阻む”契約問題”とkoboへ吹く大手版元の逆風

■アップルの姿勢に対し、大手出版が取引を警戒

 なぜ日本の大手出版社は、新しいビジネスチャンスであるはずのガフマとの契約を警戒するのか。それには次のような経緯がある。

1211_tablet_2p.jpg都内の某電気店。電書コーナーはどこもスペース
が小さく、取り扱いメーカーも少ない。本当にニ
ーズあるの?

 まず、10年5月に日本で発売されたアップル「iPad」のヒットを契機に、出版社は矢継ぎ早に電子書籍のアプリを提供し始めた。講談社や小学館も積極的にコミック作品などを提供し、アップストアは『最も電子書籍が売れる電子書店』との称号も得た。出版社は、こぞってアップルと直接販売契約を結び始めたのだが、雨後の筍のように湧いて出てくるアプリの許可申請に、アップルが業を煮やしたのか、10年7月に書籍の単独アプリによる登録がいきなり禁止となった。いわゆる電子書店アプリ(「紀伊國屋書店Kinoppy」など、複数の書籍を取り扱うアプリ)での申請でなければ却下されてしまうのだ。

 加えて、アダルト関連コンテンツを排除したいアップルは、電子書籍の検閲も開始。下着の一部が見える女性や水着姿などの絵図がリジェクトされるようになった。こうした一方的な姿勢に、出版社内部では疑問の声が上がり始めた。

 さらに、アップルへの不信を高めたのは、海外で日本の出版物の海賊版がアプリ化され、それをアップルが登録・販売していた事件である。村上春樹の『1Q84』(新潮社)、東野圭吾の『白夜行』(集英社)など、大御所の作品が次々とアップストアで販売されている事が発覚。10年12月、出版界は業界4団体の名でアップルに対して、アプリの削除とともに海賊版対策を講じるべきと抗議した。だが、アップル側の反応はかたくなで、権利侵害が明白であるにもかかわらず要請をしてもなかなか削除しなかったうえ、海賊版の対策のための、登録申請の審査基準も非公表のまま。こんな、日本とは異なるビジネス風土に、出版社は不信感を募らせていった。

 一方、ガフマが日本の出版社との契約締結に苦労している間に、国内市場での覇権を握ろうとしているのが、カナダのコボ社を買収した楽天だ。今年7月に電子書籍専用端末「kobo Touch」を発売し、「楽天kobo」サイトで電子書籍の販売を開始した。

 楽天の三木谷浩史社長は「端末は10万台以上売れ、作品も売れているので出版社も喜んでいる」と発言。電子書籍サービスに懸ける意気込みは相当なものだ。あるIT関連会社の営業担当者は言う。

「この事業は社長室直轄で、フロアも社長室と一緒。今、楽天社内で最も人員が増強されており、営業部員も4人から20人と増えている。発売当初に起こった端末の起動トラブルなどによる炎上事件もとりあえず終結したようだ」

 楽天がうまいのは、同社が抱えている7500万人の会員向けにサービスを開放している点だ。今は電子書籍をkoboの端末かPC上でしか閲覧できないが、今年中にアンドロイド用アプリを提供してスマホにも対応予定だ。そこでも同社サービス共通のIDを使用し、顧客の囲い込みを進める。

 だが、このkoboにも出版社からの逆風が吹いている。

「サービス開始前に、ほとんどの出版社が対応していないEPUB3(主流はPDF、XMDFなど)のファイル形式で作品提供を求められた。これには、同形式のファイルを作成できる業者を紹介してもらうなど、その対応には苦慮した。さらに、ビットウェイやモバイルブック・ジェーピーといった電子書籍を電子書店に卸す『取次』が持つ作品をあまり調達していない。これもシステムや取引条件の問題ではなく、単に日本国内ではEPUB3というファイルフォーマットの電子書籍がほとんど製作されておらず、取次でさえ供給できないからなのだ」(別の出版関係者)

 同社の紙の本の通販サイト「楽天ブックス」と、koboのサイトとを統合すればアマゾンに対抗できうるが、システムがカナダの会社のものであるため、そう簡単にはいかないようだ。

■電子書籍市場の覇権は販売サイトで決する

 このようにガフマや楽天が、出版社との契約に四苦八苦している現在、国内の状況はどうか?

 メイドインジャパンの電子書籍リーダーでは、楽天kobo以外に、ソニーの「リーダー PRS-T2」、シャープの「ガラパゴス」などがある。いずれもなかなかブレイクに結びついていないが、強力なプラットフォームを持つグーグルやアップルが自社サイトでの販売を推し進めているのに対し、これらの端末は、紀伊國屋書店ブックウェブプラスなど複数の電子書店サイトで電子書籍を購入でき、自由度は高い。タブレット&電子書籍専用端末のシェア争いが繰り広げられる中で、今後の電子書籍のシェア争いは、販売サイトの優劣に左右されてくるはずだ。

 こうした販売サイトの優劣は、コンテンツの質と量がものを言う。日本では、今年設立された出版界が主導する出版デジタル機構が、経済産業省の「コンテンツ緊急電子化事業」を通じて6万点、5年後に100万点という目標を掲げて、電子書籍化を推進している。だが、ほぼすべての新刊を同時に電子化していく講談社のような熱心な会社は、まだ少数派だ。

 また、日本には「電子書店パピレス」や「イーブックイニシアティブジャパン」など老舗の電子書籍販売サイトもある。パピレスは12年3月期決算で売上高は約47億円、イーブックは11年1月期決算で売上高は21億円と、両社とも二桁増で成長している。大日本印刷グループの「honto」は電子書籍と紙の書籍の販売をクロスオーバーさせた戦略を進めている。

「hontoでの電子書籍の月商は4000万円。そのうち講談社だけで1000万円あったこともある」(IT企業関係者)と好調なようだ。多くのマスコミではガフマの動きばかりが目立ってしまっているが、日本の電子書籍サイトも市場をけん引する大きな力であることを忘れてはいけない。

 国内市場にとどまるにせよ、外資系企業と手を組むにせよ、日本の出版界がもっと電子書籍化を進めないと電子書籍の市場が活性化しないのは自明の理。ビジネスとしての旨みが見えないからと消極的にならず、電子媒体で新たな表現手法を開発していくことも出版社(表現者)に求められることだ。

(文・写真/碇 泰三)

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最終更新:2012/10/27 09:30
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