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『四〇〇万企業が哭いている』著者・石塚健司氏インタビュー

巨悪を撃つべき検察特捜部が、身勝手な“正義”で中小企業を潰した訳

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巨悪を撃つべき検察特捜部が、身勝手な“正義”で中小企業を潰した訳 – Business Journal(1月5日)

『四〇〇万企業が哭いている』
(講談社/石塚健司)

 平成不況真っ只中、ある中小企業経営者とコンサルタントの男性が逮捕された。

 この経営者とコンサルタントは会社の決算を粉飾し、融資金を引き出し、会社の運転資金に回していた。会社を潰すまいという一心で、地道に経営努力し、つい不正に手を染めてしまった経営者。その経営者を支えるために、相談に乗っていたコンサルタントは通常のコンサルティング料以外は受け取っていたわけでもなく、両者ともに贅沢をしていた形跡もない……。

 2011年に元銀行マンで中小企業向けコンサルティングをしていたコンサルタント・佐藤真言氏と衣料品製造卸売り会社を経営する朝倉亨氏が、東京地検特捜部に詐欺容疑で逮捕・起訴された。容疑の発端は、朝倉氏の会社の決算書を粉飾し、保証協会の景気対応緊急保証制度や東日本大震災復興緊急保証制度を利用した保証付き融資1億1300万円を銀行から受けたこと。粉飾決算をし、銀行から融資金を受け取ったことは許されることではないが、大型経済事件などを担当してきた東京地検特捜部が扱い、朝倉氏の会社を潰すほどの事件だったのか?

 そんな疑問のもとに、産経新聞多摩支局長で、過去にも『特捜崩壊』(講談社文庫)などの著作もある石塚健司氏が関係者への取材をもとに執筆したのが『四〇〇万企業が哭いている ドキュメント検察が会社を踏み潰した日』(石塚健司著、講談社)だ。

 崩壊が叫ばれる検察のエゴが露呈し、取り調べの際に特捜検事が「中小企業が100万社潰れても関係ない」と言い放ったというこの事件について、著者の石塚氏に

 「捜査途中で撤退しない特捜部」
 「特捜部と裁判所の関係」
 「その後の裁判の様子」

などについて聞いた。

ーーはじめ、東京地検特捜部の捜査を受けていた佐藤氏から、特捜部に詳しい石塚さんへ手紙が送られ、同氏が逮捕される1カ月前に喫茶店で具体的な話を聞いたそうですが、その時にはまだあまり興味を持てなかったそうですね。それなのに、書籍を書き上げるまでに至ったキッカケはなんだったのでしょうか?

石塚健司氏

石塚健司氏(以下、石塚) 2011年8月に佐藤氏から手紙が届きました。その手紙の内容や実際に喫茶店で会ったときに聞いた話がすべて事実だとしても、東京地検特捜部は事件性がないと判断し、捜査を打ち切るのではないかと思っていました。とても逮捕状が出るまでには至らないのではないかと。

 ところが、その後捜査が進展し、同年9月には佐藤氏、朝倉氏が逮捕された。「どうしてこの事件を特捜部が捜査するのか」「これでは弱いものいじめではないか」と思い、この事件に興味を持ちました。佐藤氏が実際に逮捕された日、ちょうど私は彼の上申書を提出するため検察庁に出向きました。

 上申書の内容は、捜査対象とされた朝倉氏の会社の経営状況などの事実、そして中小企業が一度赤字を計上すると資金調達の道が絶たれてしまうという問題点。また従業員の生活を守るため事業継続のために必死になっている中小企業経営者の姿が書かれていました。そんな中で会社や従業員のために粉飾決算に手を染めたとしても、会社が潰されたり、経営者として復帰できなくなるような厳罰が下されることはあってはいけないと思ったんです。

 そうした上申書を提出した以上、責任をもって最後までこの事件を見届ける必要があるという思いもありましたし、佐藤氏の逮捕をキッカケに、あらためてこの事件とはなんであったのかということを考え始めました。

ーー今回の事件の背景には、日本の中小企業の7割超が粉飾決算をしているという根深い問題があると思います。佐藤氏の上申書でも書かれていた通り、一度でも赤字を計上すると銀行からの融資等が受けられず、会社の資金繰りが悪化し、最悪倒産してしまう。そこで中小企業は粉飾決算をしてしまうと。

石塚 私も今回調べるまでは、これほど多くの中小企業が粉飾決算を行っているとは知りませんでした。上場企業の場合には、金融商品取引法などで禁じられ、それ自体が違法行為です。ただし非上場企業やほとんどの中小零細企業の場合には、実質的には誰も損害を被ることはないので粉飾決算自体は法に触れないんです。ただし、粉飾決算をし、銀行から融資を受けたり、取引先から支払いを受けると詐欺罪に問われる可能性があるわけです。本書に出てくる佐藤氏や朝倉氏もその部分では法に触れていましたし、私も今回の事件が冤罪だとは思っていません。

 ただし、粉飾決算自体は、古くからあるものです。特に、建設業界では広く蔓延っていると取材中に聞きました。というのも、建設業界は公共事業を主としていますから、赤字を計上し、いつどうなるかわからない会社には公共事業を国や自治体から受注することが難しいからです。

●検察の勘違い

ーー中小企業の7割超が粉飾決算をしている状況で、朝倉氏が捜査対象になったのは、やはり「震災復興保障制度」を利用したことを追及したほうが、世間受けが良いと特捜部が考えたからでしょうか?

石塚 特捜部はそもそもまったく別の事件(本書では種田<仮名>事件と書いている)を追っていました。この事件とは、種田という元銀行員の男が、銀行員時代に次々と融資契約先の企業の決算報告書を粉飾し、自らが勤めていた銀行から大口の融資を引き出していた。さらに銀行の顧客らと共同で設立したコンサルティング会社に、融資契約先からリベートを振り込ませていた事件です。この事件での被害総額は立件されただけで計15億円にものぼります。種田はほかにも粉飾絡みの怪しい融資を繰り返していました。

 その中に、佐藤氏や朝倉氏と一緒に逮捕された井原という男がいます。種田事件では立件されなかった人物です。また、実は佐藤氏はかつて井原の会社のコンサルタントを務めていました。特捜部は種田事件で立件できなかった井原という男への一種のリベンジとして、朝倉氏の件を捜査していた節があり、井原の背後にいる種田というコンサルタントと似た経歴を持った佐藤氏を、種田と同じような悪徳コンサルタントだと勘違いしていたというのがあります。

 また、井原という人物を捕まえただけでは、高々3000万円の詐欺事件にしかならない。特捜が扱う事件は1億円に届かないと寂しいと考える検察上層部もいます。そこで目をつけたのが、悪徳コンサルタントと見立てられた佐藤氏がコンサルタントを務めていた朝倉氏です。伊原も保障制度を利用していましたが、朝倉氏は震災復興保障制度を自分の手で手続きをし、利用していたため、特捜部としても朝倉氏のほうが世間に受けると考えたのではないでしょうか。そうして、朝倉氏の会社は捜査対象企業とされたわけです。ただ、朝倉氏は佐藤氏のお客さんの中でも、非常に真面目で、地道にやってこられた方なので、とても今回のような仕打ちを受けるべき必然性が見当たらない。これは特捜部の身勝手な判断ではないかと思いますね。

ーー穿った見方をすると、最近、外資系コンサルタントを筆頭に目立つ人が多い。そこが特捜部にとって目障りだったのかと。

石塚 あくまで推測ですが、コンサルタントという職業に対し、特捜部は先入観や偏見を持っていたのかもしれません。実際に中小企業の経営者の方に取材をすると、「会社の借金をゼロにして、一からやり直す方法を伝授します」といった中小企業向けコンサルタントからのダイレクトメールがよく来るようです。確かにそういう怪しいコンサルタントがはびこっているのも事実です。そうした中で佐藤氏もまた悪徳コンサルタントに違いないと特捜部は見立てわけです。

●消えない被害金に関する賠償責任

ーーその後、裁判が行われ、一審では佐藤氏、朝倉氏ともに2年4カ月の実刑判決が下りました。その後状況はどうですか?

石塚 佐藤氏は、今年9月に高等裁判所で二審判決が出ました。控訴棄却で、一審と同じ判決です。直ちに上告手続きをしていますが、もう土壇場まで来てしまいました。佐藤氏の弁護団は執行猶予を取る戦略をとっていたのですが……。

 一方の朝倉氏は、10月に控訴審の1回目が行われましたが即日結審しました。ただし、昨年11月7日に予定されていた判決言い渡しは延期され、高裁は弁論再開を決定しました。これには、支援者が集めた被害弁済のための460万円を供託したことが大きかったのではないかしょうか。というのも、私の本を読んでくれた元金融大臣の亀井静香氏さん、作家の高杉良さん、評論家の佐高信さんらが呼びかけ人となり「朝倉亨さんを支援する会」を結成し、支援者の方々が支援金を集めたり、嘆願書を集めてくれました。

 朝倉氏は、逮捕されるまで銀行からの融資金を1度も欠かさずに返済してきました。また今後もそうしていくつもりでしたが、逮捕されたことで会社が倒産し、返済できなくなってしまいました。また、会社倒産後、彼は自己破産をしたので借金はなくなったのですが、詐欺事件の被害金に関する賠償責任は消えないのです。事件の被害金1億13000万円の賠償をしないと罪を償ったとは言えない。しかし、現在、朝倉氏は毎晩徹夜で日雇い労働をしていますが、日給1万2000円にしかならない。それではとても被害金額を弁済できる経済力はない。そこで、朝倉氏を支援する日本全国の中小企業経営者の方々が寄付をしてくれた。また郷原信郎弁護士が、自身のブログで今回の事件を取り上げてくれただけでなく、郷原さん自身が朝倉氏の弁護団の主任に就任されました。

【編註:当インタビュー後、朝倉氏の裁判で東京高裁は11月30日、一審の懲役2年4カ月の判決を破棄し、懲役2年を言い渡した。支援活動は執行猶予の判決を勝ち取ることを目標にしてきたが、執行猶予は付かず、刑期が4カ月短縮された結果となった。朝倉氏は上告の手続きを取った。詳しくは「朝倉亨さんを支援する会」にて】

●意味の「ない」裁判

ーー今回の裁判の意味とはなんだとお考えでしょうか?

石塚 「ない」と思います。この事件を法廷で裁いたこと自体、またこの事件を法廷にあげた検察の間違いだと考えています。佐藤氏と朝倉氏が有罪となり、しかも実刑判決を受けることで、助かる人や喜ぶ人もいなければ、社会にとってプラスになることもありません。

ーーこの事件を捜査した特捜部の大義や政治的な意図とはなんだったのしょうか?

石塚 今回の事件では、当時の特捜部特殊・直告第二班が捜査を担当しました。検察庁の組織改編により、佐藤氏の事件の捜査を開始した3カ月後に、その班は解体されることが決まっていました。これはあくまで私の想像ですが、特捜検事という仕事に憧れ、特捜部の「特殊・直告」という看板を最後に背負うことになった彼らは、なんとしてでも世の中の喝采を浴びるような捜査をしたいと意気込んでいたはずです。そういったタイミングで彼らのもとに転がり込んできたのが今回の事件で、それを自分たちの描いたシナリオに当てはめ、材料を組み立てて、捜査をし、法廷にまで出してしまった。

ーー検察がシナリオを描き、それに沿って捜査を進めるというやり方に対し、批判があるわけですが、今回の検察改革(特捜部の組織編成を一部改める、取り調べの可視化、特捜部の捜査に対し組織内で重層的にチェック)でそのようなことはなくなりますか?

石塚 なくならないと思いますね。大阪地検特捜部の証拠改ざん事件があり、その衝撃は検察庁にとってものすごく大きなものでした。そこで、検察庁は思い切った改革を始めたわけですが、その改革の中身をよく見ると、冤罪をなくすことや証拠の捏造といった捜査の仕方をチェックしようというのが主旨です。今回に関して言えば、冤罪や証拠が捏造されたような類の事件ではない。ただ、「特捜がする捜査としていかがなのものか」ということです。

 今回の事件のように、悪徳コンサルタントと見立てた当初のシナリオが捜査途中で崩れてしまったときに、特捜部はブレーキをかけるものではないのです。お題目として捜査途中で、当初描いたシナリオと違う事実が出てきた場合には、捜査から撤退してもいいと最高検察庁は改革の中で謳っています。しかし、東京地検特捜部の捜査というのは、古くから主任検事あるいは特捜副部長が捜査を指揮し、この人たちが集まった情報をもとに事件のシナリオを見立てる。そして、そのシナリオに沿った証拠を収集し、事件を組み立てるというのが特捜部のやり方です。そのシナリオを決める主任検事や特捜部副部長といった人たちの能力が低かったり、経験の浅かったりした場合、シナリオと事実が乖離したまま捜査を強引に進めるという方法は今後も変わらないと思います。

 さらに言えば、今回の検察改革により、特捜部の捜査は非常にやりづらくなった。取り調べの可視化の導入や捜査のチェック機能が多重に設けられたことで動きづらくなったわけです。また、裁判員制度の影響で、検察内の人員配置が変わり、特捜部に人員を割きづらくもなった。そうすると、佐藤氏や朝倉氏のような大きな組織が背後になく、少しでもひねれば有罪にできてしまうような弱い立場の人が特捜部の捜査対象になる可能性もあります。

ーー本書を読んでいると、裁判所が特捜部の意を汲みやすいのかなという印象を持ちました。

石塚 前著『特捜崩壊』でも書きましたし、決して一概には言えないのですが、多くの検察OBからは「君は検察の問題だというが、実は裁判所が問題なんだよ」と言われました。つまり、裁判所は良い言い方をすれば、特捜部の捜査に全幅の信頼をおいている。悪い言い方をすれば、検察がどれだけしくじっても裁判所は検察を擁護する。それが日本の裁判の実態と言ってもいいと思います。

 そもそも日本の刑事裁判では、検察が起訴した場合、有罪になる確率が99.9パーセント。これは「検察は有罪にするのが当たり前」という世界を見回しても稀なことです。検察官が起訴した事件は有罪にしなくてはならないということになっていて、裁判所がそれに対し無罪判決を出すことは稀です。無罪判決を出すためにはどんな角度から攻められても無罪だと言えなければならない。裁判官も官僚ですから、無罪判決を出すと経歴の汚点になりかねないのです。一審で有罪であった事件を、二審で無罪にすると、その判決を下した裁判官は出世を捨てるようなものです。

ーー約20年前に特捜担当の記者だった石塚さんですが、よくマスメディアが検察発表を垂れ流していると批判されますが、実際にはどうなのでしょうか?

石塚 局面により違いはありますが、基本的にはその通りです。司法記者クラブというのがあります。記者クラブに加盟しているのは新聞社やテレビ局、通信社など約20社のマスメディアだけで、いわばマスコミにおける特権階級とも言えます。その記者クラブに加盟している記者だけが唯一検察庁に直接取材ができます。

 記者クラブの記者は、検事を追いかけ、検察の発表を聞き、記事を書きます。特に新聞社の記者は、夕刊や翌日の朝刊に間に合わせるために半日や1日単位で仕事をしているので、すべてそうではありませんが、必然的に事件についての報道内容は検察の論理に基づいたものになりがちです。しかし、検察庁が捜査をする事件のうち、かなりの数の事件は、マスコミが先行取材をし、検察庁に持ち込むパターンです。大阪地検特捜部の証拠改ざん事件以来、検察に対する記者クラブの立ち位置もだいぶ変わってきているのではないでしょうか。

ーー出版後、朝倉氏を応援する会が発足したりと反響があったと思いますが、他にはどうでしょうか?

石塚 お手紙やメールを数多く頂きます。中でも、自分も粉飾決算をしているという会社の経営者の方々の声には心をうたれます。そういう方々が、本書を読み、朝倉さんのことを思いながら涙し、その勢いで手紙やメールを送ってくれるんです。そういう手紙を受け取ると、私も本書を書いたことは間違っていなかったのかなと思います。
(構成=本多カツヒロ)

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●石塚健司(いしづか・けんじ)
1961年茨城県生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、産経新聞社入社。司法記者クラブキャップ、社会部次長などを経て、現在は多摩支局長。著書に『特捜崩壊』(講談社文庫)がある。

最終更新:2013/01/07 07:00
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