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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.211

いつもヘラヘラしていた変なヤツ『横道世之介』和製『フォレスト・ガンプ』を思わせる青春回顧録

yokomichi3.jpg夏休みに世之介が実家に帰省すると、なぜか祥子(吉高由里子)が付いてきた。
笑い上戸の祥子は世之介家族と妙に打ち解けてしまう。

 コメディを得意とする沖田監督らしいシーンがある。夏休み以降、いろいろあった世之介と祥子だが、世之介は祥子の両親にあいさつを済ませ、晴れて正式に交際することに。お正月、祥子が足を骨折して入院したことを知ると実家に帰省していた世之介はダッシュで祥子の入院先へと向かう。怪我をしたことを知らせなかった祥子を世之介は叱る。「オレたち付き合っているんだろう? もっと心配させてよ」。この言葉に感銘した祥子は「これからはお互いを下の名前で呼び捨てしあうことにしましょう」と提案する。病室の中で「世之介!」「祥子!」「世之介!!」「祥子!!」と互いの名前を連呼しあう2人。キスシーンでもセックスシーンでもない、とてもシンプルな愛の交歓シーンだ。病室の片隅でずっとポーカーフェイスで見守っていた祥子の家のお手伝いさん(広岡由里子)は、この様子を見てボロボロと泣く。お手伝いさんは知っている。2人がようやく本当の恋人同士になれたことを。そして、2人の恋愛は今が最も美しく、この時間はもう二度と戻ってこないことも。

 ブラックコメディ『生きているものはいないのか』(11)の前田司郎が脚本を手掛けた本作は、早い段階から各登場キャラクターたちの16年後の姿が描かれ、世之介が思い出の中の人物であることが印象づけられている。16年の間、世の中はいろんなことが起きた。バブル景気はすぐに弾け、阪神大震災とオウム事件が立て続けに起きた。ノストラダムスの大予言は外れたけど、9.11テロのニュース映像に言葉を失った……。オオオッという間の歳月だった。倉持は今も童顔のままだが、阿久津唯との間に産まれた女の子はすっかり反抗期で手を焼いている。千春さんは怪しげな仕事から足を洗い、FM番組のパーソナリティーとして若いリスナーたちのお悩み相談に乗っている。お嬢さまだった祥子は海外留学を経験後、両親が驚くような職業を選択した。日々の生活や仕事に追われて、みんなちょっと疲れ気味。世の中もずいぶん変わってしまった。でも、たまに世之介のヘラヘラ笑っている顔を思い浮かべると、世之介と一緒になってバカやっていた、世間知らずでガムシャラだった頃の自分を思い出すことができる。

 映画の中の世之介はとってもかっこいいエンディングを迎えるが、筆者の知っている“世之介”はバイト先でケンカ騒ぎとなり、打ち所が悪くてあっけなくあの世へ旅立ってしまった。お通夜の会場に行くと、先輩芸人や芸能関係者たちからの献花が溢れていて、まるでこれから彼のリサイタルショーでも始まるかのような賑わいだった。お調子者でおっちょこちょいだったけど、最後の最後まで楽しいヤツだった。思い出の中で彼はずっと笑い続けている。
(文=長野辰次)

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『横道世之介』
原作/吉田修一 脚本/前田司郎 撮影/近藤龍人 監督・脚本/沖田修一 音楽/高田漣 出演/高良健吾、吉高由里子、池松壮亮、伊藤歩、綾野剛、朝倉あき、黒川芽以、柄本佑、佐津川愛美、堀内敬子、大水洋介、田中こなつ、江口のりこ、眞島秀和、ムロツヨシ、黒川大輔、渋川清彦、広岡由里子、井浦新、國村隼、きたろう、余貴美子 
配給/ショウゲート 2月23日(土)より新宿ピカデリーほかロードショー 
(c)2013『横道世之介』製作委員会 
<http://yonosuke-movie.com>

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