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同人誌は著作権侵害? 回避は簡単なのになぜ事件化&泥沼化するのか?

 サイゾーのニュースサイト「Business Journal」の中から、ユーザーの反響の大きかった記事をピックアップしてお届けします。

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同人誌は著作権侵害? 回避は簡単なのになぜ事件化&泥沼化するのか? – Business Journal(4月10日)

 こんにちは。江端智一です。

 前回前々回と、少女マンガのキャンディキャンディにまつわる事件から二次的著作物の権利関係を整理し、同人誌の著作権問題をキャラクターの観点から、マンガやアニメなどの原作、元ネタがある創作物の成人向けパロディを記載した同人誌=「薄い本」を引き合いに出しつつ説明させていただきました。

 その目的は、創作を保護する法律や規制が、別の創作を妨げることもあり、ある種の創作活動は、「その気になれば、いつでも、どこからでも潰され得る」というリアルな現状を理解していただくことでした。それがたとえ、趣味として自分のホームページで開示しているだけでも、また、自腹を切って自分で印刷して無料で配布していても、違法行為であることから免れることはできないのです。

 例外があるとすれば、自分の机の引き出しの中に隠し続けているあなたの「秘密のノート」での創作活動などになります(具体的には、「著作権法第2章第3節第5款に記載 著作権の制限」の行為に限られます)。

 さて、最初にお断りしておきますが、本コラムでは、別段の定めがない限り、「他人の著作物に依拠して創作された著作物のうち、当該他人の許諾を得ていないもの」を「同人誌’」と記載致します。また、今回のコラムでは「著作者」と「著作権者」という用語が何度も登場しますので、このコラムのイラストの例を使って、簡単にご説明致します。

筆者提供

 このイラストを実際の絵として完成させたのは小学4年生の娘(次女)ですが、その図案を創作したのは私です。この場合、このイラストは、「娘(次女)」と「私」の共同著作物となり、この二人が共同著作者となります。一般的に、著作者=著作権者となりますので、この段階では、二人とも著作権者(共同著作権者)になります。

 しかし、万が一、娘(次女)が、「Business Journalなんかに、私のイラストを使われるのはイヤー!」と泣き叫んだら掲載ができなくなります。ですので、私は、娘(次女)の著作権の持ち分を、対価(600円)を払って譲渡してもらっています。

 この結果、権利関係は以下のようになります。

・著作者:娘(次女)と私の二人。著作者は(たとえ100万円払おうとも)変更できない。
・著作権者:私だけ

 この「600円」の支払いをもって、私は、このコラムとイラストの両方の著作権を専有している状態になり、ここで、私は単独でBusiness Journalに対して、Web公開の許諾ができるようになるわけです。

●解決の「方法」は簡単である

「同人誌’」事件に見られる侵害行為を回避する方法は、びっくりするほどに簡単です。

 その答えは、「『著作者』と『著作権者』の二人(多くの場合、同一人物)から許諾を得ればよい」のです。

 次のような感じです。

「あなたのマンガをベースとして、あなたのマンガのキャラクターを登場させた『成人向け同人誌’』をつくりました。ぜひご覧ください。そして、これを使って、同人誌即売会で販売する許可をください」
「無償で許諾をいただければうれしいですが、もし駄目なら収益の50%を差し出します。何卒、何卒、よろしくお願いします」

 これで、著作者(マンガ家)と、著作権者(マンガ家、まれに出版社)の許諾を得れば、「同人誌’」ではなくなり、それが成人向けであろうが何であろうが、天下御免で、正々堂々と販売して、収益を得ることができます。

 このような手続を行っている以上、100%合法行為なので、国家権力といえども手を出すことはできません(成人向け同人誌の問題は、公序良俗の問題もパスする必要がありますが、今回は割愛します)。

 この「手続」をサボっているから、問題となってしまうのです。

●ところが、解決の「手続」はまったく簡単ではない

 しかし、こんな「交渉の手続」が簡単にできるのであれば、そもそも、「同人誌’」をめぐる裁判など、我が国ではひとつも起こっていないはずです。

 第一に、著作者または著作権者(マンガ家)にアクセスする方法がわからない。マンガの巻末に住所や電話番号でも記載されていればよいのですが、そんなことは滅多にありませんし、すべてのマンガ家が、ツイッターやメールを使っているわけでもないでしょう。

 加えて、「成人向け同人誌’」の販売を、著作者が許諾するだろうか、という問題があります。自分が精魂注いでつくり上げたキャラクターや世界観を、そんなふうに使われることを「ああ、いいよ」と許してくれる著作者がいたら、私は心底「すごい度量だ」と思います。

●「同人誌’」の著作権侵害が事件化しにくい理由

 著作者、または著作権者が権利行使を決意すれば、「同人誌’」を叩き潰すことなどは造作もなく、差止の仮処分(確定判決の前に、裁判所が決定する暫定的処置)などは、即時に認められるように思います。

 では、著作者らは、なぜそのような権利行使を実行に移さないのか?

 私は、2つ理由があると考えています。

【理由その1】
「同人誌’」の存在が、必ずしも不利益といえない場合があるため。「同人誌’」が、著作物の宣伝広告の効果を発揮してくれる場合があるからです。また、そのような「寛容な態度」でマンガに好感を持ってもらえるという巧妙な計算もあるでしょう。

【理由その2】
「同人誌’」の創作者を告発するコストが高いため。裁判手続は金も時間もかかります。損害賠償の裁判となれば、著作権者の損害額を算定しなければならないのですが、これが恐ろしく難しい。「同人誌’」の販売の規模によっては、損害額2万円、裁判費用200万円などという話はザラです(略式手続<刑事訴訟法470条>で有罪確定した「ポケモン同人誌事件」は例外中の例外です)。

 なお、ツイッターにマンガの主人公の顔を使っている人は、許諾を得ていない限りすべて複製権の侵害被疑者ですが、では、その被害額はいくら? 提訴する相手を特定できるか? となることを考えれば、訴訟なんて手続は、とてもコストに見合わなくてやっていられないのです。つまり、コストの観点から、著作者または著作権者は、権利行使を「留保」していることになります。

 このほか、多くの場合は、差止の警告をされれば、「同人誌’」の製作者は直ちに販売の中止に応じて、事件になりにくいという性質もあります。また、「同人誌’」を含め、同人誌ビジネスは基本的に儲からないので、儲からないところへ損害賠償を請求してもメリットがないという理由もあります。

●著作権事件が泥沼化する理由

 確かに、著作権侵害は事件化(裁判等)しにくいですが、ひとたび事件化した場合、和解に至るケースのほうが少ないように思います。

 私は、これまでの「同人誌’」を含む著作権侵害訴訟の判例を、一通り眺めてきましたが、訴訟に至るか否かを決定づける要因は、「金(カネ)」より「怒り」の要素が大きいように思えます。人間はいったん「怒り」のモードに入ったら、「金」の問題など吹き飛びます。

 私は、以前、「初音ミク」の技術編コラムで、「このキャラクターを創成する立場であれば、間違いなくキャラクターに『愛』が込められていくのは当然のことです」と記載したことがありますが、これを逆方向から述べてみれば、「このキャラクターを『汚(けが)す』者であれば、間違いなくその者に『殺意』が込められていくのは当然のことです」となるのは自然な帰結です。なぜなら、自分の著作物は(それが二次的な著作物であったとしても)、自分の大切な「宝物」、自分が育てた「子供」のようなものだからです。

 例えば、私は自分のコラムに添付しているイラストが「成人向け同人誌’」に使われた日には(どのように使えるのか想像もつかないですが)、差止の警告を出す決断をするのに3秒、そして警告が無視されたら、たとえ刑事告訴になろうとも、最後まで闘うだろうという確信があります。

●N次著作の面倒くささ

 さて、これまでは「他人の著作に依拠して創作された創作物」の関係についてのみお話ししました。これが、二次的著作(第28条)、翻案等(第27条)、または複製(第21条)に該当するかはケースバイケースですが、本コラムでは、これら「他人の著作に依拠して創作された創作物」を便宜的に「二次的な著作物」と呼ぶこととします。

 しかし、単純な「二次的な著作物」であれば、それは著作権者との関係を調整すれば足りますが、大抵の場合、著作物とはそんな単純な構成をしていないのです。これが最近、よく聞くようになった用語「N次著作」です。

 ここで一度、「N次著作」と言われているものを、例題を使って整理してみましょう。

筆者提供

 まず、私、江端智一が「『初音ミク』主演映画」に触発されて、その映画のストーリーに依拠した小説「ミクミク物語」を創作したとしましょう。私が、この小説を、引き出しの奥にしまいこんで、時々取り出しては『私って、なんて才能があるのだろう』と自分の作品に、自分一人で涙するのであれば、別に何もする必要がありません。

 しかし、これを自分のホームページに公開するとなれば話は別です。対価を得ている/得ていないは問題にはなりません(何度も繰り返しますが、この点は重要です。無償ならばなんでも許されるというのは、完璧な勘違いです)。この場合、私は、まず映画の著作権者(上図では三次著作権者)に、自分のホームページへの公開の許諾を得なければなりません。なぜなら、私は小説の著作者、著作権者ではありますが、同時に、映画の著作権者もまた、私の作品に対して著作権(翻案権)を持っているからです。

 さらに、この映画が、二次著作権者のつくった楽曲を使っていて、さらに、私も私の小説の中でその歌詞を使っているなら、二次著作権者の許諾も必要となります。
そして言うまでもなく、私の小説の中に登場する「初音ミク」は、一次著作の「初音ミク」の画像、または二次著作の「初音ミク」を演じた映像に依拠することになるので、当然に「初音ミク」の画像の権利を所有している、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社(以下、クリプトン社という)の許諾も必要です。

「創作する」というだけでも大変なのに、上記の例では、私は3人の権利者に頭を下げて、そして必要なら対価を払って許諾を得なければなりません。N次創作物をつくり出すことを、単に個人(の机の引き出しの中のノート)で楽しむのであれば、誰の許諾もいりません。しかし、それを世の中に出したいと思った瞬間から、果てしない「お願いツアー」に出発しなければならないのです。
(文=江端智一)

※本記事へのコメントは、筆者・江端氏HP上の専用コーナーへお寄せください。

※後編へ続く。

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最終更新:2013/04/11 07:00

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