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乙武氏が語る、子どもを持って初めて感じた“五体不満足”

ototake02-thumb-240x240-19119.jpg老後は奥さんと別々に暮らすプラン
もあるそう

(前編はこちら)

――新刊『自分を愛する力』(講談社現代新書)には、妊娠中に奥さんが「私、この子のこと、愛せるかな……」とこぼしたというエピソードが掲載されています。乙武さんはうろたえるどころか「だいじょうぶだよ。そのぶん、オレが二倍愛してやるんだから」という言葉をかけていますね。

乙武洋匡氏(以下、乙武) ……カッコイイこと言いますね(笑)。僕は、人間の感情は縛れないと思っています。その感情が道徳に沿ったものであるかないかにかかわらず、そう思ってしまうのは仕方ないし、そこで彼女を責めても何も状況は好転せずに苦しめるだけ。だったら彼女がそう思っていることを前提に、どうしたらいいか考えるしかない。

――誕生後は、奥さんはお子さんに愛情を注いでいますが、今度は乙武さんがおむつを替えることも扇風機に手を入れそうになった子どもを助けてあげることもできず、「僕に手があったなら――。僕がフツーの父親だったなら――」と泣いたと書かれています。

乙武 『五体不満足』(講談社)を読んでくださった方から、「乙武さんだって本当は手足がないことで、つらいことがあったでしょう。でもあえてそういうエピソードは書かなかったんでしょう?」と言われることがあるんですが、本当になかったんです。そういった意味では、子どもが生まれたことで初めて「この体がしんどいな」と思いました。

――多くの女性が「愛するものを守りたい」という気持ちが強いがゆえに、「もっと自分がちゃんとした母親であれば……」と自分を責める気持ちは起こりがちです。それに似ている気がしました。

乙武 僕の場合、それが精神的な面ではなく、物理的な面だったので、気持ちを切り替えやすかったのかもしれない。どんなに努力しても、子どもを愛しても、僕に手足が生えてくるわけではない。だったら、そこは割り切って、違うことでカバーしていくしかないと思いました。

――子育てについては妻主導型で、夫はほとんど参加しないという家庭もあります。

乙武 うちの場合は、妻がちゃんと子どもの状況を逐一伝えてくれて、子どもに対する知識が共有できているので、僕も意見することができます。奥さんが報告を怠ると、旦那さんは子どもの知識がないから何も言えない。旦那さんが子どもと接する時間は限られていても、夫婦が子どもの状況を共有していれば、子育てについて意見を交わすことはできるのでは。

――そのことを忘れて「言わなくてもわかってよ」と思ってしまう女性も多いようです。

乙武 以前、「朝早くから息子のお弁当を作ってくれている妻に、ねぎらいの言葉をかけてこよう」とツイートしたところ、女性から「私は、ねぎらいの言葉をかけてもらったことがない」「私だってがんばっているのに」といったメンションが殺到したことがありました。そこで僕は、「『私は夫からねぎらいの言葉なんて、かけてもらったことがない』という女性のみなさん、あなたはご主人に感謝の気持ちを伝えていますか?」とツイートしたところ、「あっ……」という返答が多くありました。女性は求める傾向にありますよね。どちらが先に相手をいたわってもいいと思うんですけど、そこにこだわる人が多いのかな。

――もうひとつ女性の不満として多いのが、生活が子ども中心になってしまうこと。それは女性側が子どものことしか考えられなくなる場合もありますし、男性側が妻を女として見なくなるという場合もあります。乙武家では、妻と夫として向き合うための工夫はありますか。

乙武 ありません。人によっては毎日“おでかけのチュー”をしているとかあるんでしょうけど、うちはないですね。正直言うと、僕はしてもいいけれど、妻は嫌がりますね、確実に(笑)。一般論だと「子どもがいても夫婦は“異性”であるべき」なのかもしれませんが、別に一般論に合わせる必要もないでしょう。

――“一般論では”“理想の夫婦は”というルールに縛られない、と。

乙武 世間の言う「理想の夫婦像」ももちろんいいけれど、その通りでない自分たちに焦りを感じて、余計うまくいかなくなるケースもあります。「夫婦はこうあるべき」というものを押し付けられることが、一番しんどい。そういうものに当てはまらない夫婦の形が、いくらでもあっていいと思うんです。
 うちは結婚式を挙げていません。これもツイートしたら、多くの女性から「奥さんがかわいそう」と言われました。僕は主役になることが大好きなので式を挙げたかったんですが、むしろ妻が「人の注目を浴びるのは耐えられない」と嫌がったんですよ。ステレオタイプな結婚像、女性の幸せ像を押し付けるから面倒な話になるのだと、あらためて実感しました。
 何が幸せかは本人たちにしかわかりません。うちは特殊な例かもしれませんが、本来夫婦なんて、それぞれが特殊な例だと思う。別に結婚して子どもがいなくてもいい、別居してたっていい。他人にはわからない信頼関係で結ばれている夫婦だっている。そもそも夫婦のことなんて、他人にわかる必要はないんですよ。

――そういった柔軟な考えをお持ちな乙武さんが、結婚という制度を選んだ理由は?

乙武 僕が結婚した時は、まだそこまで社会を深く知らなかったし、そういう選択肢しかないと思っていました。でも、今の僕の意見としては、子どもを育てていくための保障さえ確立できれば、現代社会に結婚制度は向かないと思っています。結婚すると離婚が面倒でしょう? 昔は女性が生きていくための保障の意味が強かったのでしょう。しかし、今は完璧とは言えないまでも、女性が社会で働ける基盤が整ってきたので、結婚しなくても自立して生きていけます。結婚しない方が幸せかもしれないのに、「親がしろと言うから……」と結婚して、かえって不幸になることもあります。もっと時代が進んで、結婚が当たり前のことではないという価値観が広まり、「しない」という選択肢が増えてもいい。既存の価値観に縛られることなく、“一緒にいたい時にいる”と考えられるようになれば、もっといいのになと思います。
(構成/安楽由紀子)

乙武洋匡(おとたけ・ひろただ)
1976年、東京都生まれ。大学在学中に出版した『五体不満足』(講談社)がベストセラーとなる。卒業後、スポーツライターとして活躍した後、杉並区立杉並第四小学校教諭に。教員時代の経験をもとに書いた初の小説『だいじょうぶ3組』(同)が映画化され、自身も出演。現在、地域との結びつきを重視する「まちの保育園」の運営に携わるほか、東京都教育委員として活動している。

最終更新:2013/04/19 12:48
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