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【論点整理】2013年児童ポルノ法改定案は、何が問題なのか

3:児童ポルノ取り締まりのためのネット事業者の努力義務規定

 インターネットを利用した不特定多数の者に対する情報の発信又はその情報の閲覧等のために必要な電気通信役務(電気通信事業法〔昭和五十九年法律第八十六号〕)第二条第三号に規定する電気通信役務をいう)を提供する事業者は、児童ポルノの所持、提供等の行為による被害がインターネットを通じて容易に拡大し、これにより一旦国内外に児童ポルノが拡散した場合においてはその廃棄、削除等による児童の権利回復は著しく困難になることに鑑み、捜査機関への協力、当該事業者が有する管理権限に基づき児童ポルノに係る情報送信を防止する措置その他インターネットを利用したこれらの行為の防止に資するための措置を講ずるよう努めるものとする。

 多摩大学情報社会学研究所研究員の中川譲氏によれば、「インターネットのブロッキングが一歩前に進む」という。現在、日本国内のインターネットサービスプロバイダ(ISP)は人権侵害に対する緊急避難措置として、児童ポルノが掲載されている疑いがあるサイトのブロッキングを行っている。この条文の追加によって、緊急避難ではなく正当な業務行為となる。ISPでは、誰が児童ポルノを掲載しているサイトにアクセスしたかも把握することができる。捜査機関からの「児童ポルノの取り締まりのために必要」という要求に対して、ログを開示するISPが現れる可能性もある。3つの問題点の中では直近の効果は少ないが、将来的にネットで誰がどこにアクセスしているかを国家が監視するための土台になり得る可能性がある。

 これらの点からも、児童ポルノ法改定案が冤罪を生み出す可能性を持ち、漫画・アニメなどの文化産業の萎縮効果をもたらすことは明らかだ。

 筆者は今回の児童ポルノ法改定案の浮上に際して、中心人物である自民党の高市早苗政調会長にさまざまな媒体を通じて取材を申し込んでいるが、多忙を理由に拒否されている。ただ、秘書を通じて「前回とスタンスに変化はない」との発言は得られている。

 08年に高市政調会長に取材した際には「個人の性的好奇心を満たす目的による児童ポルノへの『需要』に歯止めをかけない限り、『供給』の根絶は困難です。また、児童ポルノの被写体になった被害者の生涯にわたる苦悩、第三者が画像を持ち続けることへの苦痛や拡散への不安を考えると、規制はやむを得ないと考えています」と、所持の禁止に対するスタンスの説明を受けている。この時も、冤罪の可能性については聞いたが「電子メールで送りつけられるような本人の意図しない所持については罪にならないように、条文の文言に十分な配慮を行っています」という。確かに、新設がもくろまれている第六条二項には「みだりに」の4文字が入っているが、これが十分な配慮とは考えがたい。

 以上が、今回の自民・公明・維新の会によって提出された改定案の大まかな問題点である。

 今回、4年ぶりに改定案が提出された背景には、自公政権の復活により表現規制と情報統制のための措置や立法が次々と現実になっていることが挙げられる(これらの全体像については、上智大学教授の田島泰彦氏が出版業界誌「出版ニュース」13年3月下旬号でも述べている)。こうした措置や立法の先にあるのが、自民党の改憲草案である。改憲をめぐっても、意見は大きく分かれるところだろう。99年の青少年有害社会環境対策基本法案以来、自民党には立法や改憲などによって、社会を引き締めることが国家の利益につながると信じてやまない議員が常に一定数存在する。だが、亡国の危惧が高まるTPPを推進しながら、一方では亡国の危機を防ぐために社会を引き締める措置を行おうと考えているわけで、やっていることはとてつもなくちぐはぐだと言わざるを得ない。
(文=昼間たかし)

最終更新:2013/06/20 21:00
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