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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.238

失われた文化が息づく“ユートピア”としての台湾90’s青春グラフティ『あの頃、君を追いかけた』

anokimi_03.jpg教室で海賊誌「少年快報」を読み耽るコートン。「漫画家になりたかった」というギデンズ・コー監督の思い出が投影されている。

 物語は後半、大学編へと移行する。異なる大学に進んだコートンとチアイーは最初こそ遠距離恋愛ごっこを楽しんでいたが、結局はきちんと交際することなく疎遠になっていく。コートンはチアイーの気を惹くために、力自慢の男子学生を集めて「天下一武道会」を開く。チアイーは大学生になってもまだ子どもじみたコートンに付いていけない。「なんで男のロマンを理解しようとしないんだ?」と逆ギレするコートン。雨の中、チアイーとコートンは別々の道を歩むことになる。「ごめん、オレがバカだった」とチアイーの後を追い掛ければいいのに、大人になりきれないコートンにはそれができない。ずっと一途に想い続けていたコートンの恋心はあっけなく破れてしまった。風に揺れる紙風船のように、あまりにもモロい初恋だった。

 ケンカ別れしてしまったコートンとチアイーだが、大学を卒業して大人になった2人に再会する場が待っていた。ギデンズ・コー監督は自分自身の“アバター”であるコートンにラストチャンスを与える。コートンとチアイーはお互いに「あんなに想いあった相手はいない」という意識を持っているのに、キスどころか手さえ握ったこともない。このまま幼き日の思い出として胸に秘めたまま終わったほうがいいのか、それともきっちりとオトシマエをつけるべきなのか。ラストシーンを見て、驚いた。テレビ東京の深夜バラエティー『ゴッドタン』の人気企画「キス我慢選手権」を思わせる意表を突く展開が待っていようとは!? どうやら偶然の産物らしいが、子ども心を失わずに最愛の人への想いを遂げるこのラストシーンも日本と台湾文化の親和性の高さを感じさせる。

 『あの頃、君を追いかけた』で描かれる世界は、まさにユートピアとしての台湾だ。日本のポップカルチャーを吸収して育った若者たちが、日本からは消えてしまった眩しい青春ドラマを真っすぐに演じている。国境や過去の歴史に囚われることのない、とても美しく、とても自由な夢の世界がスクリーンの中に広がっていた。
(文=長野辰次)

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『あの頃、君を追いかけた』
原作・脚本・監督/ギデンズ・コー 出演/クー・チェンドン、ミシェル・チェン、スティーブン・ハオ、イエン・ションユー、ジュアン・ハオチェエン、ツァイ・チャンシエン、フー・チアウェイ 配給/ザジフィルム、マクザム、Mirovision 9月14日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー 
<http://www.u-picc.com/anokoro>

◆『パンドラ映画館』過去記事はこちらから

最終更新:2013/09/12 18:00
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