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「国民作家の地位は、宮崎駿から宮藤官九郎へ」中森明夫が論じる『あまちゃん』の震災描写

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約2時間にわたって『あまちゃん』を語った中森明夫氏

 また、『あまちゃん』で素晴らしいのは、その夏ばっぱが経営するスナック「リアス」です。ユイちゃんがグレて問題を起こしても、ユイちゃんのママが不倫らしきことをしても、ばっぱが「もうよかっぺ」と言えばそれで終わり、というゆるい感覚。学生やアルバイトのちょっとしたいたずらや、ツイッターでのちょっとした発言がものすごい攻撃を受けてしまう、生きづらい現実の社会とは逆です。あまロス(あまちゃんロス症候群)が話題になっているのは、番組が終わって「リアス」のような場所が失われた感覚があるからではないでしょうか。言うなれば、行きつけのお店がなくなってしまった感じ。

 しかし、『あまちゃん』ではすでに“あまロス対策”に答えている。本作は、内向的なアキが東京でいじめられて引きこもっていたとき、三陸に引っ越して夏ばっぱに会い、東京にはない素敵な人間関係があることを見つける話です。そこで彼女は海女になり、地域アイドルとして周りを楽しませるが、それは東日本大震災で失われてしまう。これは、いまのあまロスの視聴者と同じ状況です。そして、その後の物語は失われたものを作り直すことがテーマになっている。あまロスの処方箋は、僕ら自身が自分の場所を作り直していく、ということではないでしょうか。

――現状のアイドルシーンに対し、『あまちゃん』あるいは能年玲奈はどんなことを投げかけているのでしょうか?

中森:宮藤さんははっきりとは言いませんが、インタビューなどを読むと、やはりAKB48は好きじゃないんじゃないか。太巻こと荒巻太一は明らかに秋元康のパロディでしょう。最後はいい人になっているけれど、全体としては東京のアイドルグループが風刺され、皮肉に描かれている。アキはGMTに選ばれるがクビになり、映画女優として名を挙げて、太巻は改心。そして、ユイとのユニット「潮騒のメモリーズ」で復活します。つまり、現在の東京のグループアイドルを構造上否定し、ローカルアイドルの勝利を謳っている。

 『あまちゃん』はAKB批判というより、アイドルシーンの批評であり、その結果として、能年玲奈が突出した。今や彼女はAKBを含む現在のアイドルの中でもトップレベルの人気者です。その上で僕が思うのは、『あまちゃん』を到達点としてたたえてしまったら、アイドルシーンが終わってしまうのではないか、ということです。この作品は80年代からのアイドルの富の多くを取り込むことによって成立している。そうであるなら、今度は僕らが『あまちゃん』からアイドルを奪い返さなくてはならない。『あまちゃん』を到達点ではなく、あくまでアイドル史の通過点とするために。『あまちゃん』によって総括されきっていないものとは何か? それが能年玲奈です。能年玲奈こそが『あまちゃん』を越えるものであり、アイドルの未来なんだと。今度、出る『午前32時の能年玲奈』(河出書房新社)という僕の本で書いたのは、そういうことなんですね。若い世代は能年玲奈に朝の輝きを見る。しかし、僕らのような80年代アイドルを見てきたものにとっては夜を越えた光を感じる。同じものを見ても二重性を帯びるんです。午前8時と32時に。つまり能年玲奈は「朝」と「超・夜」の二重の輝きによって満たされている。これが『あまちゃん』から導き出された僕の最大のテーゼであり、能年玲奈の可能性の中心です。能年玲奈はアイドルの未来を切り開きますよ!!

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