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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.286

CMが軍事独裁政権を倒した実録ドラマ『NO』。これは政治キャンペーンか、一種の洗脳なのか?

no_movie01.jpg政治キャンペーンに関わることになった広告マンを主人公にした『NO』。主人公レネは大統領派の脅しに遭いながらも、理想のCMづくりを進める。

 15年間に及ぶ恐怖政治に引導を渡した若き広告マンがいた。ガエル・ガルシア・ベルナル主演の『NO ノー』は、南米チリの独裁者アウグスト・ピノチェトによる軍事政権末期に行なわれた国民投票の裏側を描いた実録ドラマだ。1日わずか15分のテレビキャンペーンによって、ひとつの国の歴史が大きく動いていく様子を当時の資料映像や実際に使われたキャンペーンソングを盛り込み、リアリティたっぷりに再現している。

 日本で今年公開されたアレハンドロ・ホドロフスキー監督の『リアリティのダンス』は、チリで生まれ育ったホドロフスキー監督自身の自伝的作品として注目された。『リアリティのダンス』はチリの独裁者イバニュス大統領政権下の物語だったが、同じくチリを舞台にしたパブロ・ラライン監督の『NO』はそれから約50年後となる1988年の物語だ。陸軍総司令官のアウグスト・ピノチェト将軍は1973年にクーデターを起こし、大統領に就任。強制収容所では連日にわたって拷問が行なわれ、共産主義者とおぼしき知識人たちは次々と処刑されていった。インドネシアの暗部を描いた『アクト・オブ・キリング』同様、暴力によって市民を支配した恐怖政治の時代だった。『イル・ポスティーノ』(94)で主人公に恋愛指南する“チリが生んだ偉大なる詩人”パブロ・ネルーダもこのクーデターの最中に亡くなった。ネルーダの発言力を恐れたピノチェト政権による毒殺説が囁かれている。南米の共産化を恐れた米国CIAの後押しもあり、ピノチェト政権は長期にわたって独裁政権を維持する。

 『モーターサイクル・ダイアリーズ』(04)で若き日のチェ・ゲバラに扮したガエル・ガルシア・ベルナルが『NO』で演じるのは、チリの広告クリエイターであるレネ・サアベドラ。実際に当時のテレビキャンペーンで腕を振るったマヌエル・サルセドとエンリケ・ガルシアの2人を組み合わせたキャラクターだ。ピノチェト政権を嫌って、長らく海外で生活してきたレネだったが、反大統領勢力からテレビキャンペーンの仕事を依頼される。ピノチェト大統領がさらに8年間続投するかどうか「YES」「NO」の信任投票が行なわれるまでの27日間、1日15分間だけ流れるテレビCMを制作してほしいというもの。国民投票といってもどうせ出来レースだろうと、ノンポリ派のレネは気乗りしなかった。

 ところが、まぁ、大統領側「YES」陣営の作ったCMを見て、レネは愕然とする。「偉大なる将軍さま」とピノチェトのことを褒めちぎった歌を子どもたちに歌わせて、歌う子どもたちがボロボロ涙を流すという代物。北朝鮮のプロパガンダニュースといい勝負。こりゃ、ヒドい……。続いて「NO」陣営が用意したCMもレネは見ることに。「NO」陣営の映像はクーデター時にピノチェトたちがどれだけ残虐な行為を働いたかをドキュメンタリー風にまとめたもの。恐怖政治の実態を暴いた衝撃映像なのだが、レネは首を傾げる。果たして、このCMを見た人たちが投票所まで足を運ぶだろうか? プロの広告マンであるレネから見れば、「YES」陣営も「NO」陣営もどちらのCMも失格だ。だったら、プロの腕を見せてやろうじゃないの。レネのクリエイター魂に火が点く。でも、それは正義感や政治的ポリシーからではなかった。

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