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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.312

アイドルは「さよなら」の代わりに映画を残した 銀幕越しの温もり『世界の終わりのいずこねこ』

sekainoowarinoizukoneko01.jpg学校帰りに廃墟で寛ぐイツ子(いずこねこ)といつもヘルメットを被っている親友のスウ子(蒼波純)。地球滅亡よりも進路や家族のことが心配。

 アイドルと映画は、コドクな人間に優しい。映画は単に物語を提供するだけでなく、コドクな人間に観客という役割を与えてくれる。現実社会に居場所を見つけることができなくても、映画館の入場券さえ持っていれば、1時間半から2時間前後の時間を誰もが客席に座って過ごすことができる。アイドルもまた、コドクな人間にファンという役割を与えてくれる。アイドルを応援し続ける限り、そのアイドルはコドクな人間にとっていちばんの理解者となり、理想の恋人にさえなってくれる。ただし、映画はいつかエンドロールが流れ、アイドルの多くは活動期間が非常に限られている。コドクな人間は、やがて否応なく現実社会に引き戻されることになる。ソロアイドルとしてコアな人気を集めた「いずこねこ」の最初で最後の主演映画『世界の終わりのいずこねこ』には、アイドルや映画に対してコドクな人間が感じる淡い魅力がぎっしりと詰め込まれている。

 舞台は2035年の関西新東京市。20年前に起きた原因不明のパンデミックにより東京は消滅し、生き残った人々は関西に新しく造営されたイミテーションの東京で暮らしている。すでに食料は尽き、時折地球に飛来する木星人がバラまく猫缶を人類は主食にしていた。もはや地球人は、姿を見せない木星人の飼い猫状態だった。でも、そんな日々が続くのも、あと10年だけ。巨大隕石が地球に向かって接近しており、10年後には全人類は完全に滅亡してしまうのだ。木星人の力でも、地球の運命を変えることはできないらしい。明るい未来のない世界だが、イツ子(いずこねこ)は毎日学校に通っている。パンデミック後に生まれたイツ子は、希望という言葉だけでなく、絶望という言葉の意味さえも知らないのだ。

 希望を抱かない代わりに絶望もしないイツ子たちのことを、学校の担任教師・ミイケ(西島大介)は「君たちは絶望に慣れすぎている」と嘆くが、そんなイツ子にも楽しみはある。学校から帰ったイツ子は母親(宍戸留美)への「ただいま」もそこそこにお気に入りの衣装に着替え、ネット配信を使って、アイドル活動を行なっていたのだ。自分の部屋に篭り、鬱病を患う父親(いまおかしんじ)が若い頃に作った曲を、自分で考えた振り付けで歌い踊るイツ子。アクセス数は大したことないけど、ネット上のファンたちとのコール&レスポンスがイツ子には楽しい。週末ヒロインならぬ、終末ヒロイン。それが、ディストピアを生きるイツ子にとっての唯一の生き甲斐だった。やがて、隕石は10年後ではなく、7カ月後に地球と衝突することが分かる。それでも、やはりイツ子は、アイドルとして歌い踊り続ける。

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