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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.339

究極のフェチズムと暴力がもたらす危険な陶酔感! “キック・アス”の興奮が蘇る『キングスマン』

kingsman_movie02女殺し屋ガゼルを演じたのは、ダンサーとして高い身体能力を誇るソフィア・ブテラ。『どろろ』の百鬼丸と戦わせてみたい。

 髪をきっちり横分けした怪紳士の言葉を信じていいものか。人身売買組織や新興宗教ではないのか。結局、判断を下すのは自分自身しかいない。今の生活を変えたいと願う強い想いが、エグジーを突き動かした。長年暮らしてきた公営団地にエグジーが別れを告げるシーンが秀逸だ。エグジーの好き勝手にはさせないと、養父や街のゴロツキたちが玄関先で待ち構えているが、エグジーはパルクールの要領で階段を使わずにするするすると壁を伝って団地から抜け出してみせる。エグジーはいつかこの日が来ることを待っていた。頭の中で何度もシュミレートし、体を鍛えてきた。家を出る準備は万端だった。晴れてエグジーは、ハリーの推薦でスパイ養成合宿に参加。名門大学で優秀な成績を収めた良家の子息子女たちと狭き門を競い合うことになる。学歴はないエグジーだが、苛酷な環境を生きてきたタフさと生まれ変わりたいと願う強い気持ちは誰にも負けていなかった。「人は紳士に生まれない。学んで紳士になるんだ」とハリーはエグジーの背中を押す。

 英国に中世から伝わる伝説「アーサー王と円卓の騎士」になぞらえ、エグジーが王族に認められる騎士になるまでを描く『キングスマン』だが、『キック・アス』『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(11)のマシュー・ヴィーン監督作だけに見どころが多い。本作を飛びっきり魅力的な作品にしているのは、悪の起業家リッチモンド(サミュエル・L・ジャクソン)に仕えるガゼル(ソフィア・ブテラ)に尽きる。原作では黒人男性だったガゼルだが、映画ではクールビューティーにアレンジ。そしてこの悪女ガゼルは、三池崇史監督の人気作『殺し屋1』(01)の大森南朋のようなカカト落としを必殺技としている。しかも、ガゼルの両足は足首から先がカーボンファイバー仕様の義足となっており、鋭いブレードを装着。標的となった男は突如現われた美女が大開脚してみせたことに驚き、次の瞬間には頭からまっぷたつにされる。男たちに死という究極の陶酔感を与える美しい天使、いや恐ろしい殺し屋なのだ。

 ガゼルが義足になった経緯はいっさい語られない。マシュー・ヴォーン監督のフェチズムが生み出したキャラクターだと言っていい。“纏足”は足フェチたちの性的欲望を満たした中国の奇習だが、ガゼルの両足は人工美を備えた高機能な纏足である。義足によって過去と決別したガゼルと自分の肉体を鼓舞して懸命に生まれ変わろうとするエグジー。彼らは必然的に対決することになる。2人が死のダンスを踊るクライマックスは、スパイ映画の名作『007 ロシアより愛を込めて』(63)へオマージュを捧げたこの上もない快楽シーンとなっている。

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